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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
ナビゲーター
岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
小さな店はいつも楽しくがやがや
青山キラー通りから一歩入った場所にある「gnudi(ニューディー)」。入口から店内を見渡せる6坪の小さな店だが、テーブル席のほかカウンター席やテラス席もあり、いつもガヤガヤとにぎわいをみせる。人気の理由は、一皿300円からの気軽なフードメニューの豊富さと自然派ワインの充実ぶり。
ニューディーをワンオペで仕切るのは、店主の藤生拓実さん。「小さな店なのに、しっかり料理が食べられて自然派ワインを飲めて、というのがいいでしょ」とにっこり。都内のレストランを経て、同じビルの地下にあったイタリアン「ドゥエコローリ」に入社し、料理の腕を磨いた。早い時期から自然派ワインと出会い、精通していたことから、料理とワインを一人で切り盛りできるとして同じ場所にあった「+ebi-ro(エビイロ)」を任された。そして、2022年7月にエビイロを買い取るかたちでニューディーをオープンした。
いわしのマリネサラダ✕とろ旨白ワイン
メニューはすべてアラカルト。小皿料理だけで約20種類あり、そのほかにパスタや肉料理が用意されている。1品目に注文したのは「いわしのマリネとういきょうのサラダ」。この時期、脂ののったイワシを主役に、オレンジビネガーで和えたウイキョウとオレンジを合わせたシンプルな一皿。肉厚なイワシに、さっぱりとしたウイキョウの風味、オレンジの果実味が一体となった味覚の玉手箱のような味わい。
ニューディーにワインリストはなく、藤生さんにおすすめを聞いてワインを提案してもらうスタイル。選んでもらったのは、フランス・アルザス地方のゲヴェルツトラミネールの白ワイン。「ゲヴェルツトラミネールの名手といわれるマルク・テンペの白ワインで、品種の個性が存分に引き出されています。この品種はバラやライチの風味が特徴ですが、それだけでなくパイナップルやマンゴーの風味もあり、南国のフルーツバスケットのよう。酸が中心にしっかりあって、とろりとした旨みもあるワイン。料理にもさまざまな味があるので、同じように味わいのバラエティがあるワインにしました」と藤生さん。酸や果実味がたっぷり加わり、食欲がどんどんわいてくる組み合わせだった。
揚げフリット✕ペットナット
「フォークにさしてパクパク食べられるニョッキを作りたくて、揚げてみたらおいしかった」とできあがった一品。じゃがいものニョッキを揚げてブールノワゼットという焦がしバターのソースをかけチーズとイタリアンパセリをのせて仕上げられている。ポテトフライとも違う、もちもちした食感があって、本当にパクパクと食べられてしまう楽しい一皿だ。
揚げニョッキにペアリングしたいのは、オーストラリアのスパークリングワイン。ペットナット*と呼ばれる弱発泡ワインだ。「揚げ物にはスパークリングワインがおすすめ。軽い飲み心地でクリスピーな旨みがあるドライなペットナットなので、揚げニョッキはもちろんチェイサーとしても楽しめます」と藤生さん。揚げニョッキが無限に進んでしまう組み合わせだった。
*ペットナット……Petillant Naturelの略。スパークリングワインの多くは二次発酵させることで溌剌とした泡立ちを造り出すのに対し、一次発酵のみのシンプルな工程で仕上げた弱発泡ワイン
和牛イチボのロースト✕洗練フルーティ赤ワイン
ニューディーは本格的な肉料理も食べられるのが魅力。「和牛イチボのロースト」は、フライパンで焼き目をつけてオーブンで4、5回出し入れして肉を休ませながらじっくり火入れし、最後に炎で炙って提供される。芽キャベツやプチヴェールなどの季節の野菜や玉ねぎが添えられているのもうれしい。細かくサシが入った和牛は、ピンクの色合いからわかるとおり、柔らかく火が入っている。シンプルに牛肉の旨みと食べごたえが押し寄せてくる。
酸がしっかり際立っているイタリアの自然派ワインがマイブームという藤生さん。ガツンとした肉料理にも負けないと合わせてもらったのは、イタリア・ピエモンテ州のバルベーラを使った赤ワイン。価格の安さに驚くが、実際に飲んでみると、果実味豊かで酸がしっかり。コストパフォーマンスに優れている。自然派らしいするっとした飲み口があるため、イチボのローストにマッチしつつ、飲み疲れしないペアリングだった。
藤生さんの「私が恋した自然派ワイン」
藤生さんは9年前に当時働いていた飲食店で出会った自然派ワインを紹介してくれた。
「自然派ワインをいち早く飲んでいた先輩に教えてもらいました。当時、自然派ワインはアングラなイメージでまだ知っている人も少なかった頃。でも、ルイ・ジュリアンのロゼを飲んで、その飲み心地の良さを知って自然派ワインにのめり込みました。
65歳のルイ・ジュリアンは、ブドウの研究をしていた人。自分の造ったワインを地元の人達にポリタンクで分けていたのを日本のインポーターが発見して、輸入用に詰めたものです。品種もごちゃまぜでラベルの端もよれていたりします。ワインは本来、ブドウを潰して発酵させればできるもの。コップでがぶがぶとノーストレスで飲めて、地元で気軽に消費されているところに、ワインの原点を感じます。毎年、リリースされる時期が楽しみなワインです」
肩肘はらない自然派ワインをラインアップ
「自然派ワインは肩肘はらないところがいいですね。品種や格付けにこだわらず、飲んでおいしければいい、というワインが一番です」と藤生さん。ニューディーではそんな藤生さんが思う気軽な自然派ワインがストックされている。イタリアやフランスが中心だが、さまざまな国のワインがあり、ほとんどのものが1本の仕入れ。毎回、新しい出会いがある。ボトルワインは200種類あり、4,000〜10,000円、グラスワインは11〜12種類あり、700〜1,200円。ハウスワインはグラス550円、デキャンタ500ml 2,420円、1,000ml4,400円。好みを伝えて選んでもらおう。
青山に来たらふらりと立ち寄って
ニューディーで過ごす時間は、これから暖かくなるとテラスも心地よくなる。店内はふらりと立ち寄る初めての客や近隣で働く常連でにぎわっている。フードも自然派ワインも、青山なのにコスパに優れたものが揃えられているのが、うれしいポイント。気軽に自然派ワインを楽しみに出かけよう。