海と山に囲まれたスペイン北部、バスク地方は、世界中から注目される美食の都。そんなわけでバスク料理のレストランは東京でも増加中だが、いま最も話題なのは9月に六本木にオープンした「ENEKO Tokyo(エネコ東京)」。バスク地方の有名シェフ、エネコ・アチャ・アスルメンディ氏が監修するレストランだ。
エネコシェフは、スペインでは過去最年少の35歳で三ツ星を獲ったバスク生まれの料理人。緑豊かなビルバオ郊外のレストラン「Azurmendi(アスルメンディ)」は、2014年から“世界のベストラン50”にもランクインし続け、伝統的なバスク料理を新しい素材や技法で独創的に表現するスタイルを世界中に知らしめている。
「ENEKO」は、バスクガストロノミーのレストラン。六本木と西麻布を結ぶ静かな坂道に面した東京店「ENEKO Tokyo」は、建築家の内田繁氏が手掛けた建物を生かした、瀟酒な佇まいの一軒家だ。
レストランを予約して訪れると、最初に案内されるのはパティオに面した“グリーンハウス”。
植物に囲まれた空間には、籐製のバスケットが置かれており、その中には「チーズケーキ」や「鰻のブリオッシュ」など、趣向を凝らしたひと口サイズの料理が数種類用意されている。これをエネコシェフの親戚が造るチャコリ(バスク地方の白ワイン)と共に楽しんでくつろぐ体験は、“ピクニック”と呼ばれる同店独自のエクスペリエンス(体験)。“点”ではなく“流れ”を重視し、ただ食べるだけでなく、感じることを大切にするのがエネコシェフのスタイル。
ピクニックをコース料理の序章と捉えるなら、本編が始まるのはレストランの席へ移ってから。本店と同じデザイナーが手掛けた2階のダイニング(40席)は、ナチュラルモダンな雰囲気で、メニューは昼は2種類、夜は3種類のコースを提供。ランチは5000円・7000円、ディナーは9500円・1万3000円・2万円(全て税別)となっている。
料理はピーマンや白いんげん豆といったバスク地方の食材を取り入れ、乳化(エマルジョン)などの技術を用いてモダンに仕上げるのがエネコシェフの持ち味のひとつ。東京店の総料理長兼総支配人である磯島仁氏は「レストラン クイーン・アリス」で石鍋裕氏に15年間師事したフレンチ出身のシェフゆえ、「ENEKO Tokyo」の開業前に「Azurmendi」で研修を受けた4カ月間は、フランス料理の構成要素を分解して再構築している感覚だったとか。
スペシャリテの「トリュフ風味の卵」は、スプーンに置いた卵黄の中に注射器でトリュフエキスを注入して仕上げる演出がモダンスパニッシュらしく斬新だが、濃厚な卵とトリュフの香りは王道の組み合わせ。
冬のメイン(の一例)「鳩のグリル 内臓のトースト(写真)」は、脇のグラスに注がれたコンソメスープと、鳩の内臓とフォアグラのムースをのせたトーストを味わって初めて完成する料理だ。エネコシェフはソースに油脂を使わないため、フォアグラを油脂分として添え、全体のバランスを取っていると言う。
11月7日には、日本独自のピンチョスバー「ENEKO Bar エネコ バル」も1Fにオープン。
フードは1皿350円〜というプチプライスのピンチョスが常時約15種類揃うほか、アヒージョ、トルティージャなどの伝統的なスペイン料理、「切り立ての生ハム 1000円〜」など色々。ドリンクは、エネコシェフの親戚が造るチャコリをはじめ、カヴァやワインも充実している。
半熟卵に旨みを含ませて揚げてトリュフを載せた「卵の天ぷら 1000円」や、「アボカドの天ぷら 400円」、「エリンギのソテー キノコのエモーション 400円」などの本格ピンチョスを1品から気軽に楽しめるとあり、店内は早くも連日賑わっている。
写真:大谷次郎
文:小松めぐみ