The Tabelog Award」は、年に1度食べログユーザーからの投票で決まるレストランアワード。その受賞店の店主に話を聞くこのシリーズは、店主おすすめの店を紹介する。新たなフレンチの世界を切り開くフレンチ「フロリレージュ」の店主が通い続けるのはどんな店なのか?

〈一流の行きつけ〉Vol.12

フレンチ「フロリレージュ」東京

全国の食べログユーザーによって厳選される「The Tabelog Award」は、年1回の食べログ独自のレストランアワードだ。当シリーズでは受賞店の魅力をお伝えするとともに、普段から店主がリアルに足を運ぶおすすめの店を伺う。店主の行きつけの店を知ることで、きっと受賞店のエッセンスやこだわりも感じとっていただけるだろう。

今回ご紹介するのは、2017〜2021年にBronze、そして2022年にSilverを受賞したフレンチ「フロリレージュ」。従来のフレンチの枠にとらわれることなく、常に変化を続けてきた店だ。オーナーシェフの川手寛康(かわて ひろやす)氏にお話を伺った。

僕のメニューにスペシャリテはない

©Pieter D’Hoop

外苑前に「フロリレージュ」をオープンしたのは2009年。父が洋食の料理人ということもあり、子どものころから自分も同じ道を歩むのが当たり前だと思っていた川手氏。王道フレンチの「ル・ブルギニオン」などで研鑽を積んだ後、フランスに渡った。帰国後は「カンテサンス」でスーシェフとして腕を磨き、その後独立することとなる。

藤崎まり子
出典:藤崎まり子さん

まるでアート作品を思わせる川手氏の料理は、新世代のフレンチとして注目される。ずっと人気店であり続ける「フロリレージュ」だが、意外にもこれまで「スペシャリテ」と呼ばれる料理を、自分で意識して作ったことはないのだという。川手氏はこう話す。「『あなたの料理観は何ですか?』と聞かれるのが実は一番困るんです」

定期的にメニューを変えるという感覚は川手氏にはない。料理内容は毎日のように変えているし、常にメニューについて悩んでもいる。だから1年前と今の料理では全く違うのだ。そしてこれほどまでに毎日真剣に向き合っても、いまだに料理というものがわからないのだという。料理の世界というのはそれほど奥が深いものなのだろう。

では川手氏は毎日、どんなものから料理へのインスピレーションを得ているのだろうか? 川手氏いわく「僕は料理人だけど、食べることも飲むことも大好きなので一(いち)レストランファンでもあります。だから常に世界のいろんな料理にアンテナを張り、世界中の料理人を追い続けていますね」。

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出典:ジョルノ☆さん

仕事で海外に行くことも多いので、その地域の気になるレストランには必ず足を運ぶという。どんな料理でも興味があればチャレンジするし、そこから閃きを得て、自身のメニューに取り入れることもある。

例えばタコスをヒントにした料理がそうだ。タコスの生地を使ってほかの食材を巻いてみたり、あるいは自分のフィルターを通して、別の料理に落とし込んでみたり。従来のフレンチに縛られることなく、別のジャンルの料理でも自己流のアレンジを加えて取り入れてみる。この柔軟さこそが、まさに変化を続けていられるゆえんなのだろう。

美学は「シンプルさと複雑性を兼ね備えていること」

藤崎まり子
出典:藤崎まり子さん

川手氏には今新たなビジョンがある。今年9月には店の移転を予定しており、それを機にこれまでのスタイルを少し変化させていきたいと考えているのだ。この先とりわけ大事にしていきたいと思っているものは二つあるという。

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出典:hiro0827さん

一つは「プラントベースフード(植物由来の原材料を使用した食品)」中心の料理にシフトチェンジしていくこと。料理人としてキャリアを重ねる中で、自身の嗜好も次第に変わってきた。これまではプラントベースの料理にあまり興味を感じてこなかったが、最近は自分の考え方の中心に据えられてきたのだという。そして今は、この先自分自身が作っていきたい料理のカタチとして、これがベストなのではないかと感じています、と語る。

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出典:pmbcgさん

もう一つは、「シンプルながらも複雑性のある料理」を提供すること。分かりやすく言えば、見た目は真っ白なのに、裏ではものすごい技術と手間暇がかけられた料理。これは川手氏がずっと理想に掲げてきた料理の美学でもある。それを今まで以上にレベルアップさせたい、と笑顔を見せる。

内観写真
内観写真   写真:お店から

従来のフレンチの枠にとらわれない柔軟さと、内に秘めた確たる美学。これこそが川手氏の料理の魅力なのだろう。「フロリレージュ」でしか出合えない唯一無二の料理を、ぜひ一度味わっていただきたい。