〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

花で暮らしに彩りを与える自然派ワインバー

西荻窪駅北口からすぐの伏見通り商店街に、花が軒先に並ぶワインバー「conelu(コネル)」がある。住宅街がすぐそばにある西荻窪駅北口は、彩りのある暮らしを楽しむ人が多い。「この街に住む人にとって、花と自然派ワインの相性がいいなと思って、花を買って帰れるワインバーをはじめました」と、オーナーの小林太一さん。生まれも育ちも西荻窪の小林さんは近くでダイニングバー「NICHE(ニッチ)」を運営。ニッチ内には姉でフラワーデザイナーの実穂さんのアトリエがある。

左からマネージャーの黒柳亮さん、オーナーの小林太一さん

コネルにあるかわいい花は、実穂さんが仕入れたりアレンジしたりしたもの。ねらいどおり、花をきっかけに店をのぞいていく人、逆に店でワインを楽しんだ後に花を買って帰る人が多く、9月に開店して3カ月だが、すっかり街になじんでいる。土日は昼飲みから盛り上がり、平日は出かけた帰りにふらりと立ち寄る人が多い。「うちの店は立ち飲みには珍しく、女性が8割。それが入りやすさにつながっているようです」とは、店を切り盛りするマネージャーの黒柳亮さん。

内観

店内はカウンターが2つある小さなお店。基本は立ち飲みだが、椅子もあって、寄り掛かりやすいハイカウンターなので、居心地はいい。黒板にある料理メニューは200円からあり、ほとんどが500円以下。手頃な価格と小さな1人用のポーションがあるのも、ふらりと立ち寄りやすい理由。西荻窪の、ゆるやかで楽しい街の雰囲気をそのまま感じられる店だ。

前菜3種盛り×オレンジワイン

「3種盛り」800円(写真は、レバーパテ、ウフマヨ、人参と紫キャベツのラペ)

いろんなものを少しずつ頼みたい人におすすめなのが「3種盛り」。黒板にある人気メニューをその日の気分でチョイスすれば自分好みの一皿が完成。ラペのきれいな色合いを見てわかるように、花を楽しむようにいただける一品が並ぶ。ラペはオレンジジュースで漬け込むなど、酸味や甘味を引き出す自然でやさしいおいしさが特徴となっている。

ピットナウアーのロゼ・バイ・ナチュレ(グラス1,100円、ボトル7,000円)

3種盛りに合わせたいのは、バランスのいいオレンジワイン。「香りも、酸味も、果実のジューシーさもあるワインなので、バラエティに富んだ一皿にいいですね」と黒柳さん。飲み心地のいいオレンジワインをベースに、おいしいものをちょこちょこいただける組み合わせこそ、日常にある至福の幸せと実感せずにいられない。

サーモンマリネ×個性派白ワイン

「サーモンとルッコラのサラダ仕立て」600円

新鮮な魚とハーブのフレッシュな味を楽しみたいときに食べたいのが、「サーモンとルッコラのサラダ仕立て」。1人分にちょうどいい量のサーモンがマリネされている。なめらかな舌ざわりのサーモンは塩気を抑えて、ピンクペッパーやバルサミコの風味が引き立つ。ワインを誘う味わいだ。

ドメーヌ・グラン・クレレ(フランソワ・ブランシャール)のノファサ・ブラン2021(グラス1,100円、ボトル7,000円)

これに合わせたいのは、フランス・ロワール地方で造られた個性派白ワイン。「酸味がしっかりあって風味が豊かでパンチのあるワインです。酸味の強いフルーツ感があるので、苦味があってごまのような風味のルッコラに合います」と黒柳さん。料理とワインを組み合わせてもおいしいが、ワイン単体でも楽しめる一本。クセのあるナチュールが好きな人には、ジューシーに酸味と果実味が爆発しているタイプがたまらない。単体でおいしいワインとの出会えるのは、こうしたワインバーならではの楽しみだ。

名物ミートボール×酸味のある赤ワイン

「ミートボール(トマトソース)」600円

コネルに来たら食べたい肉料理が“捏ねる”という店名の由来にもなっている名物の「ミートボール」。牛肉は粗びきに、豚肉は細びきにして肉がしっかり詰まった弾力感は保ちつつ、旨みも感じられるようになっている。さらにトマトソースの酸味やハーブが香る風味で、大人の贅沢ミートボールの完成だ。

フィリップ・ジャンボンのユンヌ・トランシュ・シュディスト2018(グラス1,100円、ボトル7,000円)

名物ミートボールに合わせたいのがフランス・ボージョレのガメイ。「酸味があるワインなので、トマトソースによく合います。ワインのアフターにナッツを感じる風味があるところも、ハーブやスパイスを使ったミートボールとベストマッチしますね」と黒柳さん。お肉と赤ワインを少し食べたいときに満足できる組み合わせになっていた。

黒柳さんの「私が恋した自然派ワイン」

マネージャー黒柳さんが恋した自然派ワインは、ドメーヌ・マルク・テンペのリースリンググラシット2019(グラス1,300円、ボトル8,500円)

黒柳さんはリースリングの新たな魅力に気づかせてくれた1本を紹介。

「リースリングはドイツやフランスのアルザス地方を代表する品種です。それまでクラシックなタイプしか飲んだことがなくて、リースリングは華やかな白ワインというイメージでした。

初めてマルク・テンペの造る自然派のリースリングを飲んで、果実味や酸味の爆発感に衝撃を受けました。このワインは、その特徴が際立っていて、リースリングにこんな一面があるんだと思った1本です。リースリングがあまり好きではない人にも飲んでみてほしいですね」

いつでも発見のあるラインアップ


コネルのラインアップは、フランス、スペイン、イタリアなどのヨーロッパの自然派ワインが中心。味わいは好みによって選べるよう、クリアなタイプやにごりのあるタイプなどがバランスよく取り揃えられている。ときには、日本に50本しか入荷していないワインを扱うなど、珍しいワインがあることも。ボトル(6,000〜9,500円)は20種類、グラス(900〜1,300円)は10種類が常時用意されている。いずれも常連客がいつ来ても楽しめるように、ひんぱんに入れ替えられている。いつ来ても新しい発見ができる。

外観

コネルは、吉祥寺や西荻窪で買い物や散歩した帰りに立ち寄れば、おいしさとかわいい花で気持ちを満たしてくれる店。気軽な値段なのに、しっかりおいしいのも西荻らしい。おだやかで癒やされる一軒を探していた、という人はぜひ訪れてみてほしい。

※価格はすべて税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:岡本のぞみ(verb) 
撮影:山田大輔