〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

千葉出身の二人のタッグによる農直レストラン

左からシェフの宮地大介さん、代表でサービスの板垣亮さん

中目黒のメインストリートを一本入った東山エリアのさらにプレハブの2階という隠れ家的な立地にある「nou」。カウンターが中心の店内にて立ち働くのは、代表の板垣亮さんとシェフの宮地大介さん。二人はともに千葉県出身で大学時代からの仲間でもある。「いつかは一緒に店をやりたい」との思いを果たし、2020年7月に店をオープンした。

内観。カウンター席のほか、テーブル席も1つ用意されている

店名となっている「nou」は、農業の“農”という意味が込められている。店内でいただけるのは、野菜のおいしさを伝えるショートコース(5品、5,500円)とフルコース(7品、8,800円)。二人の地元である千葉産にこだわり、我孫子と東金、鴨川の3つの農園から直接野菜が仕入れている。

カウンターの目の前でシェフの手さばきが見られる。宮地さんは、神泉の「ぽつらぽつら」などで修業してきた

店名のnouのもう一つの由来は、旬を“脳”で感じてほしいとの思い。日替わりで届く食材にあわせ、コースも日替わり。食材を最もおいしい状態で提供したいという意気込みの表れでもある。料理が変われば、合わせる自然派ワインも日替わり。どんなマリアージュに出会えるか、ワクワク感を持ちながらドアを開けよう。

旨み食材パイ包み×スパークリング

「香住ガニと金華ハム、春雨のパイ包み」

コースは温かい食べ物からということで、揚げ物からのスタートが多い。この日は「香住ガニと金華ハム、春雨のパイ包み」。バターの香りが漂うパイの中身は、旨み食材のオンパレード。サクサクの生地からの中からは、ねっとりとした食感とともにカニや金華ハムの旨みが押し寄せた。

テッラクイリアのコンカ・ドーロ・ゼロ2019(グラス1,320円、ボトル7,700円)

香ばしく旨みの強いパイ包みのスターターには、乾杯も含めてスパークリングワインがおすすめ。こちらはイタリアのエミリア・ロマーニャ州のマルヴァジアを使ったスパークリングワイン。「柑橘系の香りにほんのりした苦味があるので、中華風の料理に合います」と板垣さん。きめ細かい泡がいつまでも立ち昇る上質なワインは、香り豊かですっきりとした味。食欲が高まるスターターになっていた。

白身魚あん肝テリーヌ×熟成ロゼ

「勝浦産スジアラとあん肝のテリーヌ」

続く前菜は、千葉の鮮魚を使ったお造りのアレンジ。スジアラというクエやハタのようなねっとりした食感の高級魚のお造りの上にあん肝のテリーヌをのせ、間には食感を添えるため、刻んだいぶりがっこをサンド。ポン酢のドレッシングがかかっているので、そのままいただける。

レ・フレール・スーリエのレ・クロス2020(グラス1,980円、ボトル14,300円)

あん肝をのせたお造りには、熟成したロゼワインがおすすめ。「濃厚なあん肝がのっているので、オレンジワインを合わせたくなりますが、あくまで白身魚のお造りなのでタンニンが控えめのロゼワインが好相性です。瓶内で少し熟成されていて、ほんのり苦みや甘味があるのが、こちらの料理とバランスがいいですね」と板垣さん。

ラムロースト×まろやか赤ワイン

仕上げにマスタードのソースをかけて完成
「北海道産ワインラムのロースト」

コースのメインは北海道でワインの搾りかすを食べて育ったくさみの少ないワインラムのロースト。マスタードソースには醤油を加え、さっぱりとした味付けに。ピンク色に火入れされた肩ロースは、むちむちとした食感の中に旨みのある味わい。千葉県産の野菜が彩りを添える。

サン・フェレオーロのイル・プロヴェンチャーレ2016(ボトル9,900円、グラス1,650円)

ワインラムのローストにはイタリア・ピエモンテ州のやや熟成したネッビオーロが板垣さんの提案。「タンニンが強いと思われがちなネッビオーロですが、大樽で熟成された後、瓶内でも何年か熟成されているため、まろやかさが出てきています。この地域特有のミネラル感と洗練された雰囲気があり、旨みのあるラムのローストにぴったりです」

板垣さんの「私が恋した自然派ワイン」

板垣さんが恋した自然派ワインは、スー・ル・ヴェジェタルのオクターブ(ボトル14,300円)

板垣さんは、初めて自然派ワインに開眼した1本を彷彿させるギリシャのワインをあげてくれた。

「自然派ワインに目覚めたのは、フランス・アルザスの生産者ジェラール・シュレールがきっかけです。こちらは半年前に酒屋さんから、その雰囲気があると教えてもらったギリシャのスー・ル・ヴェジェタルという生産者のワインです。

オクターブは、4つのテロワールをもつ8つの畑を意味しています。ミネラル感がありながら、時間を置くと蜜のようなとろっとした感じが出てくる。昔のジェラール・シュレールを彷彿させる味でかつての衝撃を思い出させてくれるワインです」

200種類のワインをラインアップ

nouでは、日替わりの創作料理にあわせて、さまざまな味わいのワインを用意している。自然派ワインが中心だが、フランスのボルドーやブルゴーニュ、日本ワイン、カリフォルニアワインなどもラインアップ。やさしい味わいから力強い味わいまで用意され、その数はボトルワイン(5,500円〜16,500円)で200種類。コースには料理に合わせてワインが選べるよう、グラスワイン(1,100円〜2,200円)は、スパークリングが1〜2種類、白とオレンジワインで10種類、赤ワイン4〜5種類と豊富。板垣さんにおすすめを聞いてみよう。

落ち着いた裏路地で元気に出迎え

外観。自動車整備工場の上にあり、よく見ないと通り過ぎてしまう隠れ家的立地。

nouの夜は長い。早い時間帯はコース料理でにぎわいを見せるが、それが終わればバータイムが始まり、夜な夜な常連客が集まる。バータイムは近所の人たちが中心の落ち着いた雰囲気。いつの時間も地元を愛する二人が千葉産の野菜を使ったおいしい料理とともに元気よく迎えてくれる。

※価格はすべて税込、サービス料(10%)別

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:岡本のぞみ(verb) 
撮影:木村雅章