〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

自然派ワインは、中華料理や和食にもあわせやすいが、これまで韓国料理と自然派ワインを組み合わせた店はほとんどなかった。2022年5月にオープンした「bistro JONGJI」は、韓国宮中料理をベースに現代的なアレンジを加えたことでワインにも合う料理を提供。期待の「韓国料理×自然派ワイン」の味わいとは?

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

鶏白湯おでんと自然派ワインの店

小林屋の店内はカウンター席のみ

肌寒い季節になってくると、湯気の出る温かい料理と居心地のいいレストランで、ほっこりとした時間を過ごしたくなる。五反田にある「小林屋」は、おでんと自然派ワインを中心にお箸で食べる洋食がいただける店。同じ五反田にある和洋折衷フレンチ「小林食堂」の姉妹店として、2021年1月にオープン。カウンター8席の小さな店としてスタートした。

左からソムリエの吉川恭平さん、シェフの井上裕貴さん

シェフの井上裕貴さんは「ブルガリ イル・リストランテ ルカファンティン」などの星つきイタリアンやビストロなどを経て小林屋へ。「和食の経験がないからこそ新しいおでんにしたいと、鶏白湯をベースにしたものを作りました。具材には大根や玉子だけじゃなく、焼きトリッパを入れたりしています」とシェフの井上さん。ソムリエの吉川恭平さんはそんなおでんにあわせて、酸味がおだやかなワインを提案。オレンジワインとの組み合わせが最もおすすめだという。料理とワインを少し工夫することで“おでんとワイン”のベストマリアージュがいただける。

カルパッチョ×ミネラリー白ワイン

「鹿児島産鮮魚のカルパッチョ 江戸前ハーブ、二杯酢ゼリー添え」1,100円

小林屋では、おでんの前に箸やスプーンで食べられる洋食を頼むのがおすすめ。毎日、鹿児島の漁港から新鮮な魚介類が直送で届くようになっている。この日は届いたカンパチと真鯛を使ってカルパッチョに。カンパチは湯引きし、真鯛は藻塩で締められ、二杯酢のジュレをかけて和風に。酸味としょうゆ味のさっぱりしたカルパッチョに仕上げられていた。

フロリアン&マチルダ・ハートウェグのダンバッハラ・ラ・ヴィル リースリング2020(ボトル7,700円、グラス1,600円)

カルパッチョに合わせたいおすすめは、フランス・アルザス地方のリースリングを使った白ワイン。「花崗岩土壌のミネラル感を感じさせるキレの良いリースリングです。柑橘系の香りが二杯酢のジュレとマッチし、おだやかな酸もカルパッチョのような料理にぴったりです」とソムリエの吉川さん。和テイストに合う白ワインとして、酸をおさえたワインが提案された。

牛すじ煮込みグラタン×冷涼系赤ワイン

牛すじ赤ワイン煮込みアッシュパルマンティエ 1,200円

お箸やスプーンで食べられる洋食のこの冬のイチオシが「牛すじ赤ワイン煮込みアッシュパルマンティエ」。赤ワインで煮込んだ牛すじの上にマッシュポテトをのせてグラタンのように焼いたオーブン料理。ザクッとスプーンを入れると、ほわほわとした湯気が上がり、ほろほろの牛すじが顔を出す。熱々のうちにいただきたい料理だ。

レ・クアットロ・ヴォルテのヴィヴァヴィ・ロッソ2020(ボトル6,100円、グラス1,250円)

牛すじ赤ワイン煮込みアッシュパルマンティエに合わせたいのは、イタリア南部カラブリア州のマリオッコという地ブドウを使った赤ワイン。「細かくまろやかなタンニンと透き通るような涼やかな酸が特徴です。濃厚さの中にまろやかさがあるので、牛すじ赤ワイン煮込みにも負けない味です」とソムリエの吉川さん。イタリア南部の赤ワインと牛すじ煮込みなので、クセがある者同士に思える。しかし、濃厚な中に涼やかさがある赤ワインなので意外にもくどさがなく包み込むようなマリアージュになっていた。

鶏白湯おでん×オレンジワイン

おでん 玉子250円、大根200円、キクラゲ200円、国産牛の焼きトリッパ400円、京生もち麩320円

洋食を2、3品いただいたら〆のように、おでんを頼んでみよう。小林屋のおでんはくさみのない丹波黒どりの鶏ガラを丸一日煮込んで鶏白湯スープにして、昆布とかつお節の風味を利かせている。味付けは塩のみの真っ白なスープなので、具材は煮込まず炊き合わせのようにして仕上げられている。まろやかな鶏白湯にほんのりかつお節が香る上品なスープなのだ。

具材は定番の大根や玉子のほか、京生もち麩や川崎の防空壕で作られたキクラゲもある。そのほか、自家製がんもどき(300円)、揚げたてさつま揚げ(400円)、蓮子入り丹波黒鶏団子(320円)なども。珍しいところでは、焼きトリッパがあるのが特徴。何度もゆでこぼしてくさみを完全に抜いた焼きトリッパは焼鳥のセセリのような噛みごたえのある味わいだった。

ラスカーニャのバルドーバー923(ボトル8,400円、グラス1,700円)

和と洋の具材が入った鶏白湯おでんにおすすめなのは、スペインのオレンジワイン。「おでんには白ワインだとすっきりしすぎているのでオレンジワインがおすすめです。中でも、酸とミネラルがとけ込んで柔らかさと旨みのあるタイプが合います。まろやかさが小林屋のおでんにぴったりです」とソムリエの吉川さん。洋風のおでんとオレンジワインは、じんわりした旨さがしみるおいしさだった。

ソムリエ吉川さんの「私が恋した自然派ワイン」

吉川さんが恋した自然派ワインは、マルセル・ラピエールのレザン・ゴーロワ2020(ボトル8,800円、グラス1,600円)

小林屋に入る前まではフレンチでソムリエをしていた吉川さん。初めて自然派ワインを飲んで本当においしいと思ったのが、マルセル・ラピエールの赤ワイン。

「それまでブルゴーニュやボルドーなどのクラシックなフランスワインを扱っていて、自然派ワインをあまり飲んだことがない時期に出会いました。マルセル・ラピエールは自然派ワインの父とも呼ばれる生産者。初めて飲んだときにこんなにおいしいガメイがあるのかと驚きました。

果実味がピュアなのに凝縮感があって、素直においしい。ブルゴーニュのピノ・ノワールにも負けない味わいがありました。初めてお店で自然派ワインを飲む人にもおすすめできる赤ワインです」

世界各国の自然派ワインをラインアップ

小林屋では、和テイストの洋食が提供されているため、それに合うようバラエティに富んだ世界各国の自然派ワインが用意されている。グラスワインは7種類以上(1,100〜1,980円)、ボトルは30種類(5,500〜17,600円)。グラスワインは、スパークリングや白、赤だけでなくロゼやオレンジワインも必ずラインアップ。基本的には、おでんや和食に合う酸味をおさえたワインを中心にそろえられている。

じんわり温まりたい日の特等席

小林屋は五反田駅東口の繁華街と住宅街のちょうど間くらいの位置にある。一見、和食店のように見える店の中をのぞくと、ワイングラスが並ぶのが見え、興味を惹かれてふらりと立ち寄る人も多いという。ワイングラスはハンドメイドで繊細なフォルムの「ザルト」が使用され、ワインの味を引き立てている。実は、小さなところにこだわりがあるのも小林屋ならでは。

小林屋では今日もまろやかなスープの中にさまざまな具材のおでんが温まっている。それにぴったりの自然派ワインのやさしさもこの季節にぴったり。体も気持ちも、じんわり温まりたい日には、五反田へ足を向けてみよう。

※価格はすべて税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:岡本のぞみ(verb) 
撮影:山田大輔