〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

自然派ワインは、中華料理や和食にもあわせやすいが、これまで韓国料理と自然派ワインを組み合わせた店はほとんどなかった。2022年5月にオープンした「bistro JONGJI」は、韓国宮中料理をベースに現代的なアレンジを加えたことでワインにも合う料理を提供。期待の「韓国料理×自然派ワイン」の味わいとは?

岡本のぞみ

ライター。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

宮中料理をベースにした現代的な韓国料理

内観

「韓国に伝わる宮中料理は辛くありません。韓国料理は、本来は辛い料理ではないんです」とは、「bistro JONGJI(ビストロジョンジ)」のオーナーシェフのキム・スジンさん。韓国に唐辛子が入ってきたのは16世紀以降とされている。こちらで出される韓国料理は、それよりも歴史のある宮中料理をベースに世界各国の技法を取り入れ、現代的にアレンジしたもの。和洋中、韓国・宮中料理を学んだ、スジンさんの経験を総動員して作られる、新しい韓国料理だ。

ソースは自家製の発酵調味料で仕上げられる

ビストロジョンジの料理は、素材の持ち味を活かし、あるときはフレンチ、あるときは和の手法を使って出汁を取り、発酵調味料を加えたソースで仕上げられる。時にパウダー状にした青唐辛子をふりかけ、清涼感ある辛さをアクセントに韓国料理らしさが表現される。セリと万能ネギのジョンが海苔のように薄くシート状にされるなど、繊細な技巧も光る。
 

2022年5月のオープン以来、そんな話題のモダン韓国料理を味わおうと文京区の東大近くの小さな店に、わざわざ足を運ぶ人が多い。

シェフのキム・スジンさん

もう一つ注目したいのが、ワインとのペアリング。ワインを学び、ソムリエでもあるスジンさんはワインリストも自身で作り、ペアリングワインもコーディネートしている。中でも、自然派ワインを多くリストアップしている。

「料理には味の濃い有機野菜を使ったりしているので、ワインに何かが入っていると違和感があります。そのためブドウのポテンシャルを引き出した自然派ワインを選んでいます」とスジンさん。時間による変化も楽しんでほしいと話してくれた。


メニューは昼の部、夜の部ともに、お粥、アミューズ、前菜、魚料理、肉料理、お食事、デザート、韓国茶の8品のおまかせコース(10,000円)のみ。ワインペアリングはいずれも3グラスで、プレステージワインが5,700円、カジュアルワインが3,300円。

宮中料理の冷製アレンジ×アルザスの白ワイン

「車海老、生クラゲ、辛子、松の実」

現在は「深い秋のコース」がスタートし、12月2週目まで提供されている。前菜の「車海老、生クラゲ、辛子、松の実」は、宮中料理の伝統的な冷菜をアレンジしたもの。仕上げに海老の頭からとった出汁とカラシを合わせ、松の実を入れたソースがかけられている。甘みの中にツンとした辛みのあるソースがつるんとした生クラゲや海老とよく合っていた。

おすすめワインはドメーヌ・ヌーメイヤーのエデルツヴィッカー(ボトル5,000円)

前菜に合わせたいおすすめワインは、フランス・アルザス地方の白ワイン。「ハチミツのような香りのするミネラル感のあるワインです。海老などの魚介類によく合っていて、ソースに甘みもあるので、酸味のある味もよくマッチします」

甘鯛の濃厚ソース×ローヌのヴィオニエ

「甘鯛、牛蒡、セリ、青唐辛子」

魚料理の甘鯛のソースは、甘鯛のアラで出汁をとって自家製の魚醤で味を整えたもの。さらに蒸した青唐辛子をパウダー状にしたものがかけられている。四角い緑と茶色のものは、ジョン(チヂミ)。緑のジョンはセリと万能ネギを串に刺して形を整えたもので、茶色いジョンはゴボウを蒸して叩いて広げたものをそれぞれ餅粉をまぶして焼いたもの。色鮮やかに繊細に仕立てられた美しさはため息が出るほど。

ミシェル・ガシェのヴィオニエ ヴァン・ド・フランス(他2種類とのグラスワインセットで3,300円)

一見そうは見えないが、卵色のソースはねっとりした濃厚な旨みと、清涼感のある青唐辛子のパウダーでかなり主張のある味。そこに合わせたいのは、中華料理やエキゾチックな料理にも合わせられることのあるヴィオニエ。華やかな香りととろりとした味わいの強さがソースの濃厚な旨みにマッチしていた。

牛スネ肉の煮込み×スパイシー赤ワイン

「A5牛スネ肉、栗、棗、銀杏」

肉料理は、ゼラチン質の多い牛スネ肉の旨みを引き出すためにスジンさんが考えた煮込み料理。ソースは、神戸牛のスネ肉から出たクリアな出汁に自家製の玉ネギエキスを加え、醤油やスパイスで仕上げたもの。野菜は和の手法を取り入れて炊き合わせに。煮込んで柔らかくなった牛スネ肉に、旨みたっぷりの醤油ソースが絶妙に絡んでたまらないおいしさがあった。

ラ・ルミーズ・ド・ラ・モルドレのルージュ(他2種とのグラスワインセットで3,300円)

牛スネ肉の煮込みに合わせるのは、フランス・ローヌ地方の赤ワイン。ボリュームはあるもののシルキーな口当たりで、香りはスパイシー。肉料理に使われているシナモンの香りとの相性がよく、具になっている甘い棗(なつめ)も赤ワインとの相乗効果を高めていた。

キムさんの「私が恋した自然派ワイン」

スジンさんが恋した自然派ワインは、ロッコセッコのモンテプルチアーノ・ダブルッツォ キューザ・グランデ(ボトル4,700円)

スジンさんがおすすめの自然派ワインは、日常の韓国料理にも合うイタリアの赤ワイン。

「韓国ではこれといったおつまみがないとき、キムチと焼酎で一杯やります。このワインはキムチや今の濃い味の韓国料理とも合いますし、リーズナブルなので焼酎感覚で楽しめるのもいいですね。味わいは、パワーがあって濃厚。ドライフルーツの風味やタンニンの渋みもあっておいしいですよ」

16種類のボトルワインと2種類のペアリンググラスを用意

料理の素材にこだわるスジンさんにとって、ワインも一部をのぞいて自然派ワインが多くラインアップされている。グラスワインは7種類(800〜2,100円)、ボトルワインは16種類(4,000〜11,000円)用意されている。また、コースに合わせてペアリングを楽しみたい人には、2種類(3,300円、5,700円)の3グラスペアリングもある。

結婚後、来日して北海道で韓国料理を教えたときに、そのおもしろさから「料理の道しかない」と大阪の調理師専門学校に入学したスジンさん。以来、料理の道一筋だが、楽しそうに調理する姿はいまも変わらない。今日もカウンター越しに「♪タタタターン」と鼻歌を歌いながら、料理を提供してくれる。そんなスジンさんと人柄を表すような料理を訪ねてみてほしい。

※価格はすべて税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
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取材・文:岡本のぞみ 
撮影:木村雅章