目の前で盛り付けられる美しい皿たち
キャビアの一皿
スターターは、さまざまな形で供されるが、常にキャビアの一皿から始まる。今月は、バターをたっぷり含ませながら、じっくり、ふっくら焼き上げたパンペルデュ(フレンチトースト)の上に、薄切りにしたカルピスバターをのせ、キャビアをたっぷり盛り、さらにフィンガーライム少々を添えて仕上げた一皿。
一口含めば、口中が幸せで満たされ、今宵の食事への期待に胸が膨らむことは間違いない。
キャビアは中国の千島湖産を使用している。近年、クオリティの高さが評判の品だ。
栗のフリカッセ
次の一品は、秋を感じさせる栗のフリカッセ。名産地、茨木県笠間の栗を1時間半蒸してから皮をむき、軽く崩し、さらに200℃の油でからりと素揚げする。
すると、崩した角がカリッと仕上がる。それをフリカッセのようなイメージで、甘口の白ワインのソースで軽く煮込む。
「リッチなソースとほくほくとした栗の甘味がよく合って、どこか郷愁を感じるような一皿に仕上がりました。深まる秋を感じていただければうれしいです」と、岸本さん。
キントア豚のブレゼ
メインディッシュはキントア豚のブレゼだ。キントア豚とは、バスク地方の銘柄豚で、放し飼いにされて山栗しか食べずに育つので、脂が甘く、肉質はきめが細かくなめらかだ。育てているピエール・オテイザさんは、絶滅の危機にあったキントア豚を復活させた名人で、彼の豚を求めて世界中からオーダーが入る。
「骨付きロース肉を、アイユローズという、ピンクがかったまろやかなフランス産のにんにくや香味野菜と一緒に、ストウブ鍋でじっくり3時間ほどブレゼ(蒸し煮)します。ソースは煮汁を煮詰めたものと、手法自体はとてもシンプルですが、これがおいしいんですよ」とシェフ。
実際、煮汁を味見させてもらったところ、フランス料理の神髄に触れたような、深淵な滋味深さに感激した。客前で切り分けた時に現れる断面の美しいロゼ色に、ゲストから歓声が沸き上がるであろうことは想像に難くない。しっとりとなめらかで、旨みに満ちたキントア豚は、シェフズテーブルスタイルのメインディッシュを飾るにふさわしい。
ワインはフランス産を中心に、繊細で香り高く素直に料理を引き立ててくれるものをソムリエが選んでくれ、ペアリングで19,800円。もちろんバイザグラスでのオーダーも、ボトルでのオーダーも可能だ。
アヴァンデセール
最初に出される小さなデザート、アヴァンデセールも定番だ。長野県のアトリエ・ド・フロマージュのブルーチーズのグラニテの上に、食用ほおずきを、いったん冷凍してから半解凍にしたものをのせている。さらにほおずきの下には、隠し味にみかんとバナナのピューレを潜ませている。見た目も愛らしいが、食して驚くおいしさだ。
羽のような皮の部分を持って、グラニテをつけると、半解凍なのでたっぷりはりついてくる。一緒に口に入れると、ブルーチーズのほのかな塩気とほおずきの甘酸っぱさが抜群の相性を見せた。
フルフラットなオープンキッチンだから味わえる、五感にダイレクトに響きかけてくるnaoto.Kの料理。手元がよく見えるのはもちろん、調理の合間にはさまれる、岸本さんの解説やうんちくなども楽しく、同時に、火入れを見極める料理人としての真剣な表情に接することができるのも感慨深い。食べることが好きな人なら一度は訪れてみたい、美食の館だ。