【肉、最前線!】

数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!

 

今回登場するのは、しゃぶしゃぶを極めた店だ。驚くべき肉の大きさとクオリティで妥協のないその鍋は、今年の冬もっとも食べに行くべき鍋のひとつだ。

Vol.11 大判すぎて規格外!肉と鍋編

今年も鍋の季節がやってきた。鍋が無性に恋しくなると、本格的な冬の訪れを感じるが、最近は昔に比べてそのバリエーションも増え、ひとりでも家庭でも、季節を選ばず気軽に鍋を楽しむことができるため、鍋=冬というイメージは薄れつつあるようにも思う。

 

世界各地にある鍋料理のなかでも、昔から日本人になじみ深いのは、すき焼きやしゃぶしゃぶ。このふたつは季節を問わずに楽しむことができる鍋の筆頭で、肉好きのなかにはステーキや焼肉よりも好んで食べるという人も少なくない。

但馬「太田牛」しゃぶしゃぶセット(サーロイン大判2枚5,980円)

 

とくにしゃぶしゃぶは、昆布で出汁を取った湯に、肉や海鮮をくぐらせて食べる極めてシンプルな鍋料理。それだけに食材のクオリティも求められるのだが、悲しいかな「簡単に作ることができるし、家庭で材料を揃えたほうが経済的」、「外食する場合でもあまりはずれがない」という意見も多く、これまで進化するタイミングを見失っていた。

そこに一石を投じるべく、オープンしたのが大久保の「東京肉しゃぶ家」。ストレート(すぎる!?)な店名からも想像できるようにこの店の看板メニューのひとつはしゃぶしゃぶ。だが、もともと焼肉店を営んでいたオーナーの髙 忠伸さんの妥協のないこの店のしゃぶしゃぶは、ひと味もふた味も違う。

まず、メインで扱うのは髙さんが厳選を重ね、めぐりあったという太田牛。但馬の血統を持つ太田牛の肉質はキメ細かいが、サーロインでも脂がさらりとしているため、しゃぶしゃぶにもとても向いている。初めてこの店を訪れるなら、サーロインの大判2枚のセット(5,980円)に牛タンの赤身(1,450円)と霜降り(2,200円)を追加オーダーするのをおすすめしたい。

「しゃぶしゃぶは肉を食べるための鍋」という考えから部位に適した大きさや厚さでカットするのも髙さんのポリシーだが、サーロインの判の大きいこと! 肉の判が大きすぎて、通常の営業時はしゃぶしゃぶ用ではなく、寄せ鍋に使うこともあるという。これぞまさに規格外。口いっぱいに肉を頬張り、噛みしめるたびに溢れる肉汁と恍惚感を体験したら、もう二度と薄切り肉には戻れないと思うはず。

牛タンは赤身と霜降りの食べ比べも楽しく、お好みでトリュフ塩をつけたり、さっと火を通した豆苗をくるりと巻いても美味だ。

オックステールの醤油煮込み1,780円

 

心行くまでお肉を楽しみたいという人は、オックステールの醤油煮込みや牛タン餃子、炙り但馬牛の雲丹のせなど、豊富に揃ったサイドメニューのほか、極厚切りのシャトーブリアンもぜひ体験してほしい。おそらく、この厚さでシャトーブリアンを出すしゃぶしゃぶ店は、ここ以外にないだろう。

 

シンプルだから、奥が深い。肉好きの心を掴んで離さない“攻め”のしゃぶしゃぶを求めて、季節を問わずに通いたい。

 

 

写真:富澤 元

取材・執筆:小寺慶子