大塚の人気焼肉2号店が赤坂にオープン「焼肉ホルモン金樹」

今や、すっかり様変わりした感のある焼肉業界。キャビアやウニといった高級食材と合わせたり、ステーキのような肉厚の肉を炭焼きしてみたり。ワインを傾けつつ味わうような意匠を凝らしたラグジュアリー系焼肉店も増えてきている。

そんな中、気軽に普段使いができる実力店がオープンした。今年8月、赤坂に真新しいのれんを掲げた「焼肉ホルモン金樹」は、焼肉通が通う大塚の人気焼肉店「焼肉冷麺だいじゅ」の2号店。オーナーの高山樹延さんは、元日本・東洋ウェルター級王者という異色の経歴の持ち主だ。

「秋田の実家も焼肉店で、実は、東京に出たい一心で、焼肉修業を半ば口実に上京しました」と高山さん。先輩のところに身を寄せることとなったその場所が大塚。老舗のボクシングジム「角海老宝石」が駅前にあったことから、軽くトレーニングのつもりで入ったはずが、その面白さに目覚め、才能を発揮。なんと一路プロボクサーの道へと針路を変えたのだった。

そして10年後の2016年、日本・東洋ウェルター級王者という輝かしい勲章を得て現役引退。当初の目的だった焼肉修業へと再び舵を切り直した。時に高山さん、31歳。持ち前のガッツ精神で恵比寿「新鮮焼肉ランボー」や麻布十番「焼肉おくむら」で修業を積み、コロナ禍真っ只中の2020年4月、東京での出発点でもある思い出の場所大塚に「焼肉冷麺だいじゅ」をオープンした。

オーナーの高山樹延さん

「回り道はしましたが、ボクシングで培った(仕事への)心構えや向き合い方は、ジャンルに関係なく、飲食の世界でも力となるはずと思っています」と高山さん。その言葉通りコロナ禍にもめげず、緊急事態宣言下では、当初やるつもりのなかったランチを開始。テイクアウトも同時に始めた。少しでも多くの人に店のことを知ってほしいとの思いからだ。その努力が実り気がつけばいつしか繁盛店に。

そこで、第2ラウンドとして選んだのが、焼肉の激戦区赤坂だった。冷凍品は一切使わず、生を注文の都度手切りする。当たり前のようだが、こうした何気ないところに、店の良心というものは伝わる。上質な食材を仕入れることは言わずもがな、高山さんは仕込み一つにも手を抜かず、すべてのホルモン、精肉に対し愛情込めて下処理をする。

レバー

赤坂店では、以前にもお増してホルモン類に力を入れたとか。中でも、特筆すべきはレバーだろう。深い赤みを帯びて艶光りするそれは、芝浦から届いたばかりの極上品。それを、丁寧に掃除、成形していく高山さんの眼差しは真剣そのもの。ピンと角が立つほどに新鮮な上レバーは、歯触りは軽快ながら、味わいは濃密。

鉄分のコクが甘みと共にじわりと舌に広がっていく、どこか官能的な旨さには思わずため息が出る。塩と胡麻油のタレがつくものの、何もつけなくとも充分美味。軽く炙っただけで旨味がより膨らむようだ。

シマチョウ

また、淡くピンクがかった乳白色に、くっきりと筋目が入ったシマチョウも初々しい。真綿のような脂も質の良さを物語る。

ツラミ

更にユニークなのはホルモンの食べさせ方だ。例えば、片面焼きにしたピーマンにツラミ(牛頬肉)をのせて食べる通称“ツラピー”。ゼラチン質の旨味が濃く程よい歯応えのツラミとピーマンのみずみずしく爽快な食感とがなかなかオツな味だ。

ツラピー

また、高山さんによれば「ごま塩ダレの上ミノやハツモトをパクチーや青唐辛子と一緒に食べてもおいしいですよ」とのこと。それもこれも、すべてはホルモンの鮮度が良ければこそ。冷えたビールが進みそうだ。

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特選生タン塩   出典:chubbymfさん

一方「名店にも負けない」と高山さんが自信を持ってすすめる牛タンも食べておきたい逸品。中でも「特選生タン塩」がイチ押しだ。もちろん、冷凍せずに手切りが基本。ここでは、飼育日数の長い牛の舌を特別に選んで仕入れているそうで、特製は、そのタンの中でも最高級とされるタン芯を提供。牛舌の付け根にあたり、一頭で10~15cmしか取れない希少な部位だ。最近は厚切り自慢のタンが主流だが、ここでは従来の薄切りタンで。とはいえ、手切りなればこそのやや厚めなカットが良心的だ。

見るからに脂ののったタンを火にかざし、心持ちふっくらとしてきたら、すかさず返すのがおいしく食べるコツ。焼き過ぎは論外だが、レア過ぎてもせっかくの旨味が半減。ジュワ〜ッと脂がにじみ出てきた一片を頬張れば、一瞬、ふわっと軽やかな口当たりの後、シコシコと軽快なかみ心地が待っている。その軽妙な味わいには、思わず笑みがこぼれること必至。これなら、ゆうに4~5枚はいけそうだ。定番のレモンダレのほか、自家製梅ダレで味変を楽しむも一興だろう。

そして、もう一つ素通りできないのは牛の横隔膜・ハラミ。牛1頭から2~3kgしか取れない貴重な部位で、品切れになることもしばしばの人気メニューだ。

高山さんにとっても思い入れの深い部位で「ハラミの良し悪しは、色合いと太さ、そして大きさで決まります。肉が、こうパンッと張っているのがいいですね」と言いつつ、届いて間もないハラミを手早くさばきはじめた。

和牛カルビ

また「これはお値打ち」と高山さんが太鼓判を押すのが「和牛カルビ」。カルビとはいえ「うちのカルビは、カルビの中でも最もおいしい三角バラやリブのゲタが入っています。他所なら“特上カルビ”として売っても決して見劣りしない逸品ですよ」とのこと。

その品質で1皿1,540円は、確かに良心的だ。が、それは和牛カルビだけではない。ホルモン類はほぼ800円台で、先の「上レバー」は1,078円。特選「特選生タン塩」も2,915円等々。質と量を考えれば、かなりリーズナブルだろう。

「コサリスープ」

焼肉の〆には、名物の「盛岡冷麺」でサッパリ仕上げるのも良いが、珍しい「コサリスープ」で白飯も捨てがたい。コサリスープとは、韓国は済州島の料理だそうで、すり潰したぜんまいのスープのこと。ベースのスープはテールスープだそうで、テールの旨味とゼラチン質、そしてぜんまいのとろみが相まって、これから寒くなる季節にはうってつけ。食物繊維が豊冨なこのスープ、美容と健康にも最適とあれば、見逃せない一杯では?

お洒落焼肉とは対照的とはいえ、清潔感のある店内は、明るく健康的な雰囲気。“ザ・焼肉”といったオーソドックスなスタイルは、昭和の焼肉と変わらないが、煙もくもくの心配はなし。深夜3時30分(ラストオーダー3時)までの営業も頼もしい限りだ。

※価格はすべて税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

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撮影:佐藤潮

取材:森脇慶子

文:森脇慶子、食べログマガジン編集部