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目指したのは「圧倒的においしい、いつもの焼鳥」
ジューシーさに驚かされる「むね」
ご存じの通り、鶏は種類や育て方はもちろん、日齢でも味が変わる。「鳥さみ」が使うのは、2種類の地鶏と、銘柄鶏。
まず、日本一おいしい地鶏を目指して作られた、120日齢の熊野地鶏。シャモ特有の肉質の良さがある三重県原産のシャモ「八木戸」、体が大きく、脂の質が良い三重県の銘柄鶏「伊勢赤どり」、旨味と歯ごたえが強い「名古屋コーチン」、それぞれの良さを引き継いだ三元交雑、地鶏のサラブレッドだ。
そして、柔らかさと旨みを併せ持つ京都の京紅地鶏。日本の在来種を掛け合わせた銘柄で、日齢は80日。脂ののった大きいメスのみが使われる。
それに銘柄鶏を使い分け、味や食感にアクセントを付けながらリズムを作っていくのが佐美さんのスタイル。その中で重要なポジションを担うのが、コース序盤に登場する「むね」である。
紀州備長炭を並べた焼き台でじっくりと火を入れたむね肉は、たっぷりの肉汁を抱え込んでぷっくりと膨れている。まるで表面張力で保たれたグラスの水のごとく、歯が肉に触れた瞬間にそれは決壊する。火入れの技術のみで仕上げたプリプリの食感に客は揃って驚きの声を上げるというが、それも納得。
味付けは、焼く直前に細かい海塩を振り、さらに焼き上がる直前に粗塩を振っている。それだけかと思いきや、アクセントに醤油を薄く一塗り。パリッと焼き上がった皮目にさらなる香ばしさをもたらしてくれる。
山本さん
火入れの技術の高さがよく分かる一品です。
下町に愛される“レバーのタレ”を極めた「白レバー」
「鳥さみ」が出すのは、あくまでいつもの焼鳥。そこに確かに軸足があるのだと思わせてくれるのが、レバーだ。近年、専門店では塩を基本とした構成になっていることが多いが、佐美さんはタレにこだわった。
「やっぱり下町といえばタレ。それは崩したくないと思っているので、うちでは他店よりもタレのアイテムを多めにしています。このレバーはその代表格。焼鳥ってここまで来たのか、同じ部位でもここまで変わるのか、というのを知ってもらえるとうれしいですね」(佐美さん)
味付けを奇抜にして新しさを演出するのではなく、“いつものレバーのタレ”でおいしさをどれだけ高められるか。そこに佐美さんのチャレンジがあるのだ。使うのは、京紅地鶏の白レバー。何度も返しながら、3度タレに漬け、しっとりレアめに焼き上げている。
あえて個性を出さない「つくね」
初訪の店ではつくねを頼むといい、とはよく言う話。どの部位を使うのか、どんな配合にするのか。そこには店の個性が如実に表れるからだ。「鳥さみ」のつくねは、タネは俵形。挽き目は粗くも細くもなく、もちろん、卵黄を添えた月見でもない。シンプルに素材の味を追求したつくねだ。
「銘柄鶏ならジューシーさを、地鶏なら歯ごたえを残したくなるのですが、狙っているのはその真ん中のバランス。あえて個性を出さないように作っています」と佐美さんは言う。
山本さん
こちらもおいしくて印象に残っています!
しっかり焼き目はついているけれど決して焼きすぎず、鶏の脂の旨みと食感を繊細に感じられる。だからこそ、印象に残るクオリティに昇華されているのであろう。
これを食べずにストップは掛けられない!「炊き込みご飯」
ストップ制はついつい食べ過ぎてしまうものだけれど、最後にはやはり〆がなくては。佐美さんが良い頃合いで声を掛けてくれるので、迷わず「ください」と返事をしよう。供されるのは、生姜の炊き込みご飯だ。地鶏の脂は食べ進めると重く感じることもあるが、この炊き込みご飯があれば大丈夫。生姜のさっぱりとした香りでリフレッシュさせてくれる。
山本さん
親子丼やそぼろ丼も焼き鳥店の定番の〆にいいのですが、おいしい炊き込みご飯を〆に食べられるのもうれしいですね。
細かく刻んだ針生姜と、しいたけ、鶏肉を合わせて炊き上げている。さっぱりとしているのに鶏の旨みが全体に染みこんでいて、最後まで鶏を堪能している満足感があるのは、調理の腕もさることながら、やはり扱う食材の良さゆえ。〆なのに再び食欲が湧いてしまうほど完成度の高い一杯だ。
さて、今回紹介したのは、おまかせコースのほんの一部分。ほかにも、地鶏のねぎまや季節の野菜など、佐美さんが腕を振るった串の数々でもてなしてくれる。最後にもう一度お伝えするが「鳥さみ」は串が13本前後、飲み物を入れて単価7,000円程度が目安だ。言うまでもなく、すぐに予約が取れなくなる可能性大なので、一刻も早く足を運び、驚きと安定感に満ちた焼鳥を味わってみてほしい。カウンターの焼鳥が初めてでも大丈夫。ここなら、どれだけお腹と心が満たされても、懐は温かいままだ。