〈大木淳夫の新店アドレス〉

気が付けば今年もあと3カ月。なかなか終わらないコロナ禍、円安、値上げなど、切ないニュースが続きますが、暗い気持ちを救ってくれるのがレストランです! 今月も素晴らしいお店がオープンしています。

教えてくれる人

大木淳夫

「東京最高のレストラン」編集長 
1965年東京生まれ。ぴあ株式会社入社後、日本初のプロによる唯一の実名評価本「東京最高のレストラン」編集長を2001年の創刊より務めている。その他の編集作品に「キャリア不要の時代 僕が飲食店で成功を続ける理由」(堀江貴文)、「新時代の江戸前鮨がわかる本」(早川光)、「にっぽん氷の図鑑」(原田泉)、「東京とんかつ会議」(山本益博、マッキー牧元、河田剛)、「一食入魂」(小山薫堂)、「いまどき真っ当な料理店」(田中康夫)など。 
好きなジャンルは寿司とフレンチ。現在は、食べログ「グルメ著名人」としても活動中。2018年1月に発足した「日本ガストロノミー協会」理事も務める。最新刊「東京最高のレストラン2022」が発売中。

スターシェフのモダンスパニッシュと、復活したジビエフレンチ

S.Pellegrin
「Tinc gana」サルモレッポ、車海老、バジルの種   出典:S.Pellegrinさん

9月12日、 GEMS市ヶ谷(最上階に名店「炭火焼肉 なかはら」があるビルです)の1階に「Tinc gana(ティンガナ)」がオープンしました。スペインの三つ星「レストラン サンパウ」のエグゼクティブシェフだった、ジェローム・キルボフ氏がプロデュースするモダンスパニッシュです。

S.Pellegrino
「Tinc gana」カウンター席とオープンキッチン   出典:S.Pellegrinoさん

オープンキッチンで座り心地もいいので、カウンターがおすすめです。訪れた日はジェロームシェフが指揮を執っていましたが、手動のスライサーでご自身が楽しそうに切ってくれた生ハムがとんでもなくうまい。最近の主流である、口の中で淡雪のごとく消える薄いものではなく、噛みしめるほどに旨味が溢れました。

一皿一皿、味や温度のバランスが絶妙で、そういえばシェフが腕を振るっていた東京の「サンパウ」もおいしかったよなあと。コース8,000円からで予約の取れる美味なレストラン、好きです。

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「L’ami du vin Eno N」コースの一例   写真:お店から

そして“ジビエの榎本、復活!”ということで話題の西麻布「L’ami du vin Eno N(ラミ デュ ヴァン エノ エヌ)」。2014年に閉店した神宮前「ラミ デュ ヴァン エノ」の榎本実シェフが63歳にして再挑戦です。8年間、さまざま経験を経た上で、改めてクラシックなフレンチを丁寧に提供するという意気込みのもと、9月5日にオープンしました。

私が訪れた時は、残念ながらジビエはまだ仕込み中でいただけませんでしたが、料理は伝統的な技法がベースのしっかりしたコース。10月からは雷鳥やヤマウズラが食べられるとのことなので、ジビエ好きの方は、予約の際にしっかり確認の上でお楽しみください。

2店の人気レストランが、素晴らしいナチュラルワインバーをオープン

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「ORI」   出典:mura1969さん

奇しくもほぼ同時期に、二つの人気店が立ち飲みナチュラルワインバーをオープンしました。9月9日、神楽坂通りから少し横道に入った場所にできた「ORI(オリ)」は、近くのスパニッシュ「エスタシオン」の姉妹店です。結構人通りの多い場所でガラス窓も大きく、なおかつ予約は受けていないので、客層は多彩。築70年の木造の一軒家をリノベーション。木のぬくもりを生かした店内で、ワインと共に季節のおばんざいや塩辛とブラータチーズなんかをいただくと、時間が止まります。グラスは日替わりで10種ほど。奥にはウォークインセラーと小上がりもありました。

9月10日にはフレンチの名店「ビストロシンバ」が「pas loin(パ・ロワン)」をオープンしています。こちらは歌舞伎座の裏側、祝橋近くのビルの2階という、隠れ家感満載の場所です。フードメニューは、シンバで作られたものを仕上げる形ですが、同店の名物であるしっとり感がたまらないブーダンノワール、香りが素晴らしい新生姜のリエットなど、充実。赤土の土壁、小さなウッドデッキのテラスと、なんとも温かく気持ちのいい空間でワインもおいしく、いわゆる“本当は教えたくないお店”です。そして、どちらの店長もタイプこそ違えど、コミュニケーション力は抜群。期待大です。