「鮨となり」を味わい尽くす! お店のイチオシ&山本さんのお気に入り!
王道のまぐろ
この日のまぐろは宮城県塩釜市から。まぐろの身に詰まった旨味・酸味と、程よいサシの脂の風味、そしてシャリの甘さと米酢のすっきりとした酸味が一体となり、口の中でほろりと崩れて溶ける。まさに至福の味わい。
「まぐろは豊洲の専門仲卸のやま幸さんにお願いしています。店でお出しするまで少し寝かせるのがポイントです。まぐろの熟成感を引き出して、お口に運んでいただくときに、最もベストな状態にしたいですね」(安藤さん)
新いくら
9月ごろから冬にかけて出回る新いくら。旬のいくらの程よい柔らかさを活かしながら自家製の醤油に漬け込む。膜がやさしく弾けると、甘くコクのある風味が舌にとろんと広がる。
車海老
車海老は江戸前寿司の職人技が光る一品。ほんのり甘いおぼろとともに唐子づけでいただく。ぽろぽろのおぼろとブリンとしたエビの食感。噛むほどあふれてくる旨味を堪能したい。
スイーツのような絶品卵焼き
カステラのような和の甘さで焼き上げるのが江戸前寿司の卵焼きだが「となり」では「秦野よしき」と同様、和の味わいはやや抑えめに、チーズケーキのようにしっとりとした甘すぎない仕上がりで提供する。
山本さん
この卵焼きはクリームチーズ入り! おいしかったです!
“醍醐味”という変わった名前も気になるところ。元々は精製した乳の最上の味わいを指す言葉なのだそう。一口食べてみると、この名前がふさわしいと思わずにはいられない!
なすの揚げびたし
「秦野よしき」でもおなじみのなすの揚げびたしの握りは、手間ひまかけた一品だ。スライスしたなすを素揚げし、自家製のタレに漬け込むこと5時間。その後、なすをざるにあげてキッチンペーパーで包み、1日寝かせてから握る。
山本さん
スペシャリテのなすの握りはしゃりとの相性も最高です!
立ち食いのイメージを覆す繊細な仕事とおもてなし
安藤さんは「魚によってベストなシャリの温度は違います」と言い、温度管理は1℃単位で徹底する。「魚の香りを引き立たせて、余韻を長く残す」という米酢は本店より少しパンチを利かせているのが特徴だ。
おまかせのコースの流れは味わいのリズムをつけながら変化させていくことを意識しているという。
「おまかせは、“おいしい・おいしい・うまい!・おいしい・おいしい・うまい!”というリズムを意識してお出ししています。“おいしい”とは記憶に紐づくおいしさ。その人がこれまで感じてきた“おいしい”を再現しながらも、それを超えていくような味を目指す。“うまい!”とは誰もが直感的に感じるもの。経験にとらわれなくても“うまい!”とわかる組み合わせを狙っています。それこそが“うまい!”。この“おいしい・おいしい・うまい!”の繰り返しのリズムで強弱をつけながら、甘い、酸っぱい、しょっぱい、香る、とろける、弾力がある……といった変化を加え、だんだんと盛り上げていきます」(安藤さん)
「おこのみ」の客は注文に迷うと「大将、今日のおすすめは何?」と声をかける。「今日の一番おいしい寿司」を一つ決めて出せば難しくない。しかし安藤さんはこのリズムに合わせて次のおすすめを握る。
「だから、おこのみのお客様が何を食べたのか、全部覚えていないといけないんです」と安藤さんは楽しそうに笑う。
同時に何人もの客を目の前に、それぞれ違った「おこのみ」に応えながら「立喰 鮨となり」のリズムを奏でる。檜のカウンターは安藤聖の極上のもてなしを楽しむライブ・ステージなのだ。