定食王が今日も行く!

会話禁止!本と定食を楽しむ究極の贅沢

午後の仕事効率がぐんと上がる!

中間管理職がひとりで食べるランチ定食

 

昼間にひとりでご飯を食べる“ぼっち飯”肯定派にとって、定食の最大の良さはその機能性の高さにある。多品目が一度に運ばれてきて、自分のペースで食べられるからだ。私のように上司や部下、他部署からも追い回される中間管理職にとって、ひとりでランチを食べることは、頭の整理にもなり、ストレス解消にもなる。ある意味、瞑想のような効果をもっている。そんな、ひとりになるための“ぼっちランチ”をいただくために使うのが、初台の隠れ家「fuzkue」だ。

 

私が初めて訪れたのは西新宿で働いていた数年前。ランチタイムに、散歩をかねてオフィスから離れるというのは、とてもよい気分転換になり、午後の仕事効率がぐんと上がる。初台の商店街の中で、知らなければ通り過ぎてしまうほど、ひっそりとその姿を潜めており見つけられないだろう。

 

 

約束された静寂でゆっくり過ごす

「alone together」という空間

 

入店前にはこんな注意書きがある。この店は「一人の時間をすごしていただくための店です」。店主の阿久津さんからのこの店での過ごし方についてのお願いごとは、店内にあるA4サイズのメニュー表にも冒頭部分に6ページ程度にわたり書かれている。

 

 

 

その内容とは、基本的には友達と来ても会話は禁止。PCなどの連続的なタイピングやクリックなどもNG。大きなあくびなどもNG。だが気がすむまで滞在できる。という最高の読書空間を目指し、約束された静けさを実現するための注意事項が阿久津さんの言葉でつぶさに語られている。たとえばPCの使い方や、料理の写真を撮るときは1品何回まで、大あくびはご遠慮くださいなど……。

 

「なんだか面倒くさい店だな」と思う人もいるだろう。しかし、店主がいかに最高の読書環境を作ることに腐心しているかがわかる。この長い注意書自体がひとつの読み物として成立しているので、ぜひ一読してほしい。ほかにもあらゆるジャンルの本が並び、自由に読むことができるので、個性的な本棚を楽しんでほしい。

 

 

最近、NYやロンドンなどで「alone together」(みんなが一人でいる)というコンセプトのもとに設計されるカフェやバーが増えているが、まさにそんな空間がここには存在する。

 

 

昼休みや、1日の終わりにカフェやバーでひとりの時間を過ごす。お店の客は全員ひとりで「一人だけど独りぼっちではない空間」というのができあがる。仕事のメールやLINE、SNSなどに追われ、近視眼的になっている生活から、一度立ち止まって本来の自分を取り戻す時間を過ごせるのだ。これこそ、現代でもっとも贅沢な空間と時間の使い方なのかもしれない。

 

 

多忙な毎日で忘れてしまった、本来の自分を取り戻す

野菜中心の日替わり定食

 

「fuzkue」の定食メニューはひとつ、日替わりの「野菜中心の定食」1000円(税込)のみだ。今回はガンモがはいった肉じゃがのような煮物、さやえんどうの白和え、ごぼうニンジンの小鉢、漬物、白菜、麩、しめじの味噌汁、雑穀米のセットで、店主は「何百回と食べ続けても食べ飽きない」という。どれもわりと優しい味付けで、ついついひとつひとつのおかずを、ゆっくり噛み締める。満足度が高く、何回食べても食べ飽きない。とにかくクセになる定食なのだ。

 

 

 

最近、日本人は職場での時間がプライベートの時間より長いため、職場での性格と、本来の性格とのギャップに悩んでしまう人が多いという。なかには、家族や恋人にも、職場での攻撃的な性格で接してしまう人もいる。そんなときはゆっくり、ひとりの時間をつくって定食を噛み締めてはどうだろうか。食後にはTEAPONDのお茶や、OBSCURA COFFEE ROASTERSのコーヒーを飲みながら、文机(フズクエ)に向かって本を読むだけで、本来の優しい自分を取り戻せるかもしれない。