〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー! 食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは、口コミ数が少なかったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり、点数が上がると予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、まだまだ知られていないとっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はグルメライターの猫田しげるさんに、兵庫にある珍メニュー連発の寿司店を教えてもらった。

教えてくれる人

猫田しげる
グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。現在はウェブライターとして関西を中心に活動。おいしい店はもちろん、それ以上に「クセの強い店」を愛してしまう。表向きは普通に会社勤めしているサラリーマン。あまり更新できていないブログ「クセの強い店が好きだ!」もよろしくお願いします。

公共交通機関では行けない場所にある「波朗寿司

兵庫県宝塚市、阪急「中山観音」という駅からさらに車で10分ほど走った山の中。中山桜台というニュータウンの「中山台ファミリーセンター(コープ)」敷地内に「波朗寿司」はある。創業は昭和53年というから、この地で営業してもう44年。おお、筆者と同い年じゃないか。感慨深い。

気軽な町寿司という風情の外観

寿司屋と言っても「さ〜何を握ってもらおうかな」などと寿司の口で行ってはいけない。と言うのもこの店、入口に掲げられた品書きに「寿司」の文字がほとんど見つけられないと言ってもよいほど、雑多すぎるメニュー展開!

看板には「寿司屋」らしからぬメニューがズラリ

「寿司屋にカレーを食べに来る」のはもはや当たり前?

実はこの店、ランチの一番人気が「うにスープカレー」。うには分かるけどスープカレーなの?なんで?と思う方も多いだろうが、常連客は当たり前の顔で「カレーね!」と注文している。この地域では「波朗寿司」でカレーが出てくるのはまったく自然なことなのだ。

店内はカウンターと小上がりがあり、一人客でも大人数でも利用しやすい

これが店主渾身の「うにスープカレー」だ!

うにスープカレー(1,200円)は昼のみのメニュー

こちらがそのうにスープカレー。まずはライスに、野菜、エビ、バーナーで炙ったマグロがオン。カレーはうに出汁に生クリーム、味噌、酒粕などを加えて1年ほど発酵させたソースがベース。そこにリンゴ、オレンジ、自家製イチゴジャム、マンゴーなど20種以上の野菜や果物を入れて作っているという(手間かかってるなあ)。

スパイスはウコンとペッパーぐらいで、香りは極力抑えてある。何でですか?と聞くと「だって寿司食べてる横でカレーの匂いしてたら失礼だし」と大将。じゃあなぜ出しているの!(笑)というツッコミは飲み込んで、そのお味は……。

でっかいうにも粒のまま入っている

カレーは濃厚なうにテイスト! なんと生のうにもすり潰して混ぜているという。果物の風味がしっかり感じられ、かなり甘口ながら、イチゴやオレンジの酸味によって味のバランスが見事に調和している。

 

猫田さん

うっかりするとカレーだけ飲み干しそうなので、ライスに刺身をのせてカレーと一緒に味わってください。刺身にカレーは意外とマッチ。うにソースの磯味と味噌味が全体をよくまとめています。

オレンジ色のうにソースが鮮やか!

こんなにうにをふんだんに使っていて、赤字にならないのか…

その疑問をぶつけてみた。

実はご主人の濱崎勝市さんと奥様の久美子さんは長崎出身。奥様の地元である五島列島の親族から、生うにをたくさん送ってもらうため、40年ほど前に「うに鍋」というメニューを出し、今もお店の名物になっているという。

先ほどの発酵うにソースはその鍋に使うために考案されたもの。鍋のスープにはうに以外にもさまざまな魚や野菜のエキスが溶け込んでおり、食べたお客さんから「残った出汁を持って帰りたい」と言われるように。しかし時間が経つとスープが苦くなるため、出汁を生かしたメニューを開発。それがこの「うにスープカレー」なのだ。今で言うフードロス削減のSDGsに当てはまるメニューと言える。

食べ方に決まりはなし。豪快にぶっかけてもよし!