さっぱりとした割り下で焼いたお肉を生卵につけていただく

〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー! 食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは、口コミ数が少なかったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり、点数が上がると予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、まだまだ知られていないとっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はフードジャーナリストの小松宏子さんに、リーズナブルに楽しめる肉割烹の店を教わった。

教えてくれる人

小松宏子

祖母が料理研究家の家庭に生まれる。広告代理店勤務を経て、フードジャーナリストとして活動。各国の料理から食材や器まで、“食”まわりの記事を執筆している。料理書の編集や執筆も多く手がけ、『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。Instagram:hiroko_mainichi_gchan


肉好きにはたまらない「和牛小皿 しんうち

牛肉のおいしい部位を、いろいろな調理法で少しずつ。昨今、東京でも増え始めた肉割烹のアラカルト版と言ってもいいだろう。肉好きにはたまらないコンセプトの店だ。飯田橋の駅から徒歩4分の神楽坂の路地裏にあり、口コミが口コミを呼び、13席あるカウンターは毎夜満席。そろそろ予約も取りにくくなってきた、そんな人気上昇中の一軒だ。食べログ点数は3.13だが、はたしてその知られざる魅力とは?

※点数は2022年8月時点のものです。

メニューの構成は、刺し、一工夫のある一品料理、焼き物、締めのご飯や麺。そのほかにも日替わりの季節の野菜料理などもある。牛肉は主に飛騨牛を使う。内臓に関しては、芝浦の契約店からごく鮮度のよいものを仕入れている。それを食べて飲んで8,000円くらいというのだから、なんともリーズナブルだ。とても、13席の店舗では、これだけの肉をこの値段では提供できないはずだと思うと、実は、近くに「焼肉しんうち」という、高級個室焼肉店があり、肉はそちらと共同で仕入れていると聞き、なるほど、と納得である。さらにしんうちの本店は福井と金沢で50年の歴史を持つ、高級焼肉店。2代目の社長が、東京へ店を出す夢を叶えたというわけだ。

店長の中山真吾氏

そんな忙しい店を切り盛りし、日々、今日のおすすめメニューも考えるなど、フル稼働で活躍しているのが、店長の中山真吾氏だ。宮崎県の出身で、鹿児島と東京の熟成肉のステーキ店で経験を積んだのち、「しんうち」へ転職した。日々の丁寧な仕事の中に、牛肉の扱いの経験が生かされていることは言うまでもない。しかも、折り紙付きのクオリティの肉なのだから、何を食べてもおいしいわけだ。

小松さん推薦の見事な6品

ハツ刺し 卵黄添え

ハツ刺し 卵黄添え 850円

鮮度抜群のハツを棒状に切り、熊本産の甘口の醤油をかけ、卵黄とねぎを添えた「ハツ刺し 卵黄添え」。ハツの力強いコクのある味に、甘口の醤油ととろりととろける卵黄がなんともよく合う。スターターとしてもぴったりの、インパクトのある一品だ。

 

小松さん

ハツの独特の食感が、内臓好きにはたまりません。まったくくせがないのも、鮮度がいい証拠ですね。最初にいただいたのがこの一品で、すっかり「しんうち」の虜になりました。

霜降りミノ刺しポン酢を鬼おろしと

ミノというと、焼肉店で噛みきれずにこまった経験がある人も多いのでは。「こちらはさっと熱湯に通したあと、鱧の骨切りのように細かく包丁を入れます。まず、裏面に斜めに何本か切れ目を入れたあと、表に返し、3mm幅くらいで縦に切り目を入れていくんです」と中山さん。その様子はまさに鱧の骨切りといった具合だ。

霜降りミノ刺しポン酢 800円

鬼おろしとねぎとともに盛りつけられたミノは目にも美しい。あっさりとしたミノに自家製のポン酢がよく絡んで口の中で淡い旨みとなって広がる。

 

小松さん

このように細かく切り目を入れたミノというのは初めて食べましたが、柔らかな食感もいいですし、ミノにこんなに繊細な味わいがあるのかと驚かされました。付け合わせの鬼おろしとねぎとの相性も抜群です。