〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

コースもアラカルトも両方楽しめる店

凛とした雰囲気が漂うカウンター席。

焼鳥店は気軽にふらっと寄れる赤提灯の店から、鶏肉にこだわったアッパーな店まで、いろいろ。特に後者の場合、価格は少々お高めで、メニューはコースのみという店も多い。確かに、店の売りをひと通り網羅したコースは余計な気を遣わずにすむのでありがたいが、気になる焼鳥をあれこれ悩みながらアラカルトで頼むのも、また捨てがたいものがある。

ならば、その両方とも楽しめる店があれば、どんなに使い勝手がよいことか。そんな理想的な店が東京・根津にある。それが「焼鳥 朱夏」で、この2022年6月で開業1周年の気鋭の店である。客席はひのきの一枚板をL字に合わせた10席のカウンター席のみで、メニューはおすすめの料理も一緒に楽しめる一般的なコース、串に特化したコース、アラカルトの3種で構成されている。

鶏肉は「媛っこ地鶏」と「信玄どり」を使用

鶏肉の脂が炭に落ち、立ち上る煙で焼鳥がいぶされ、よりおいしく仕上がる。

同店が焼鳥に用いる鶏肉は、愛媛の地鶏の「媛っこ地鶏」と、富士山のふもとで育った銘柄鶏の「信玄どり」。媛っこ地鶏は丸鶏を仕入れて店でさばき、アラカルトでは「正肉」「さがり」各460円、「手羽先」510円、その他ササミやセセリを提供する。一方、信玄どりはパーツで仕入れ、「ねぎま」350円、「皮」320円など、計13種もの部位を豊富に取り揃えている。

一方、5,500円の「朱夏コース」は、先付け、東京産の新鮮やさいサラダ、パテ、皮ポン酢、鬼おろし、串6本、鶏スープ茶漬け、デザートと、売りのメニューがバランスよく組み込まれているコース。店名が付いているだけに、それだけ店側の力の入り具合が伝わってくるというもの。

また、焼鳥に特化した「おまかせ串コース」は、「5本コース」2,500円と「8本コース」3,500円の2種がある。名前は串コースだが、締めに鶏スープとデザートが付くので、ちょっと得した気分になる。コースも、串コースもどちらも媛っこ地鶏と信玄どりの焼鳥が盛り込まれているので、アラカルトでもコースでも2種の鶏肉の焼鳥を堪能することができる。

皮と肉の一体感がたまらない

媛っこ地鶏の「正肉」はモモ肉を用い、塩焼きに。焼き上げた焼鳥は、目の前の長皿に1本ずつ出していく。

客の注文パターンで多いのは、接待は「朱夏コース」、プライベート利用は「おまかせ串コース」、ファミリー客はアラカルトとのこと。コースも捨てがたいが、せっかくの“自腹飯”なのだから、ここは好きな部位を1本から頼めるアラカルトで攻めていくのも一興だ。さて、何から頼んでいこう?

媛っこ地鶏の中では「正肉」がおすすめ。部位はモモ肉で、ひと口かじると「まさに地鶏!」といった強い食感が味わえる。モモ肉はジューシーな部位だが、一段とジューシーさを感じる。何だろう、このおいしさは? 実はこの「正肉」、モモ肉とモモ肉の間に皮が挟まれており、皮から出た脂がモモ肉と一体となり、おいしさの隠し味となっている。

弾力と肉汁感に秀でた「ふりそで」

信玄どりの「ふりそで」は塩焼きで供される。パリパリ、ジューシーな食感が持ち味だ。

肉の弾力、脂のジューシーさという意味で媛っこ地鶏の「正肉」に、負けず劣らす魅力的なのが信玄どりの「ふりそで」350円だ。ふりそでとは肩のところの肉で、縦長に切りつけ、皮を被せて串を打つ。香ばしく焼けた皮のパリパリ感と、噛み応えのある肉の弾力が、これ以上はないというほどの一体感を生み出している。この肉々しいおいしさは、本当にクセになる。

気持ち強めに焼いた「ささみ」の味わい深さ

塩焼きにして、わさびをのせた信玄どりの「ささみ」。

一般に焼鳥の中で、特に女性客に人気の部位がササミである。ササミは火加減が味の決め手となるが、信玄どりはしっかり火を通してもおいしい鶏肉なので、同店では気持ち強めに焼いている。ふっくら、香ばしく焼き上げた「ささみ」350円は、わさびをのせて提供される。強めに焼いた分だけ、水分もほどよく飛ぶ。そんなササミを噛みしめていると、とても淡白な部位とは思えない味わい深さがダイレクトに伝わってくる。

塩かタレかはおまかせで!

タレ焼きで提供される信玄どりの「つくね」。

焼鳥の中でもつくねは材料を用いて一から作る分、ある意味、その店の顔とも言える焼鳥である。同店では信玄どりのモモ肉をベースに、その他の部位も加えて挽き肉にして用いる。そのため、様々な部位が混ざり合い、深みのある食感を生み出している。なんとも贅沢なおいしさだ。

焼鳥の味つけは基本おまかせだが、客の要望があれば部位ごとに塩かタレを選ぶこともできる。とはいえ、店側がベストの味で仕上げているのだから、やはりここはおまかせに身をゆだねたいもの。例えば、同店のタレはさらっとしたタイプで、これが「つくね」350円とよく合う。これなど、おまかせにしたからこそ出会えた、至福のタレ焼きのおいしさだ。