「フライケーキ」という商品名を耳にしたことはありますか? 広島市に隣接する呉市中通には、「福住フライケーキ」という揚げたてのフライケーキが食べられる専門店が存在します。その食感は、カリッ、サクッ、フワッ……。衣の心地よい歯ざわりと、中に詰まった餡子が絡み合う、まさに至福の味わいです。行列も見慣れた光景となっている同店で、誕生の経緯やおいしさの秘密を伺いました。

〈広島のソウルフード・ローカル飯〉

昭和22年、初代・福島義行(ふくしま よしゆき)さんによって創業された「福住フライケーキ」。揚げたてのおいしさと、1個90円というリーズナブルさが手伝って、創業から75年が経つ今でも訪れる人が絶えません。通称「れんがどおり」と呼ばれる中通商店街の一角で、多くの人が買い求める光景はもはや日常。その場でできたての味を頬張る人、お土産や自宅用にまとめ買いする人など、昔懐かしい甘さが多くの人を魅了しています。

教えてくれたのは

浅井ゆかり
大分県出身、広島市在住。3児の子育ての傍ら育児雑誌で始めたレポーターがきっかけでライターに転身し約10年。タウン情報誌をメインに、県や市町の広報誌、フリーペーパー、Webサイト、書籍などさまざまな媒体で活動する。関わった人が明るい気持ちになれる取材&記事制作がモットー。得意分野はグルメ、観光、地域関連。

呉のおやつと言えばコレ! 暮らしに息づく「フライケーキ」

レトロな看板を写真に収める人も多い

レンガが敷き詰められた、呉市内で最も賑やかな商店街「れんがどおり」。アーケードを中心に横道がいくつも延びており、新旧の店がひしめき合っています。かつて映画館が複数あった「パルス通り」と中央のアーケードが交わる辺りに位置するのが、フライケーキの専門店「福住フライケーキ」です。

30個以上の注文はあらかじめ予約しておくのがベスト

朝10時の開店と同時に、店の前にどこからともなく集まってくる人、人、人。手早く揚げてくれるのでそう待つこともなく、お目当てのフライケーキをゲットできます。「1個ください」「5個入りをふたつ」と、用途によって個数も色々。店頭には何個いくらかがわかりやすいように、表を貼りだしてくれています。

試行錯誤の末に初代が生み出したレシピをもとに

「うち以外にフライケーキを作っているところもありますよ」と話す亀井さん

フライケーキ誕生の経緯を聞くと「詳しいことはわからないんだけれど」と口にしつつも色々と教えてくれた、2代目の亀井修一(かめい しゅういち)さん。初代の娘である由美さんと一緒に店を切り盛りしています。

「初代の実家は、もともと廻船問屋をしていました。海に出て危険を伴うため、手に職をつけてほかの仕事をしてはどうかと提案されたのだそうです。初代はパン職人を目指し、各地へ修業に出ました。中には製菓の店もあり、そこで菓子作りも学んで最終的に甘味処を開店。その甘味処で出したメニューのひとつがフライケーキでした」

多い日で1日4,000個を作るという製造所

フライケーキはたちまち人気になり、その流れで専門店へと舵を切ったのだそうです。店の名前は、実家の廻船問屋が所有していた船「福住丸」から命名。初代がどこからフライケーキのレシピを得たのかは不明だそうですが、粉や砂糖の配合を何度も変えて、試行錯誤した末に今の味に辿り着いたのだといいます。店舗から歩いて3分の場所にある製造所では、今でも初代が考案したレシピをもとにフライケーキ作りを行っています。

大きな釜で炊く餡子作りはなかなかの力仕事

生地に使用する材料は、薄力粉、強力粉、膨らし粉、砂糖、卵のみ。以前は手作業で生地を攪拌していましたが、数量がとても追いつかず現在は業務用のミキサーを使用しています。餡子は専門業者から生餡を仕入れ、約1時間かけて炊き上げます。作る餡の量は、1日平均約40kg。できあがった生地と餡子を専用機械に入れ、ここで初めてフライケーキの原型が完成します。