スペシャリテは2度おいしく食べる「スープドポワソン」
スペシャリテの「スープドポワソンとルイユ」はマストオーダーな逸品。スープドポワソンと言えば濃厚さがおいしい基準とされますが、石浜さんのそれは逆にサラリとしています。しかし、いったい何種類の魚介が入っているの?と思うほどの複雑味と香りに感動を覚えるのです。
聞けば、料理で使えなかった魚のアラと野菜を煮るのは、真水ではなく昆布で取った鯛出汁と鶏出汁と数種類のスパイス。これだけでもおいしい出汁ができあがっているのですが、ここでさらにオマール海老の出汁と蟹の出汁を仕上げに加えます。それはもう至福の味という以外に言葉はありません。
鍋の底にはじゃがいもがゴロゴロ、白身魚とともにスープをいただくスタイルは石浜さんのアイデア。添えたソース「ルイユ」もリエットと間違えそうなテクスチャーです。「ニンニクは丸ごと揚げて、つなぎにはパンを使っています。ソースというよりはニンニクを食べている感じですね」と。なるほど、まさにあのホクホクした甘いニンニクそのものです。スープもたっぷりあるので思う存分に飲め……、ここでちょっと待ったーー!
スープをあえてサラリとさせているのは〆ごはんのためだったのです。そう、こちらの「スープドポワソン」は、残したスープに白飯かパスタを追加して少し煮込めば、魚介と鶏出汁のうまみあふれる〆ごはんで2度おいしくいただけるのです。仕上げに削りかけたチーズのコクも相まって、永遠に食べ続けていたくなる、そんな〆ごはんと出合えます。
石浜さんは目の前にある食材をいちばんおいしく食べるとしたら何だろう、ということから始めて、次にそれをどうフランス料理として昇華するかを考えてレシピを作っています。例えばハマグリの場合、海辺でBBQがいちばんおいしいだろうな、それをフランス料理に落とし込むとしたら炭焼きにして、それから決め手になるソースはどうするか、といったように構築していくのです。
石浜さんは20歳頃から、そんな風に思いついたことを“アイディアブック”に書き溜めてきました。それをもとに食材やソースの組み合わせで無限大になる石浜さんの作る皿には、どこかに必ず魚介が存在しています。それは主役だったり脇役だったり、香りだったり、隠し味だったりと本当に多彩。こんなにも魚介が料理を引き上げることができるとは驚きです。
今は修業時代に溜めてきたものを形にしている石浜さんがシェフとして研鑽を積み、昇華していく魚介料理をいつまでもこの店で楽しみたいものです。