〈広島のソウルフード・ローカル飯〉

良質な海産物が豊富な広島で、牡蠣と並ぶ名物が穴子。なかでもとりわけ人気を集めている穴子飯の発祥は1901(明治34)年。当時開通したばかりの宮島駅(現在の宮島口駅)で、上野他人吉が地元で愛されていた漁師料理の穴子丼をヒントに、冷めてもおいしい駅弁として「あなご弁当」を販売したのが始まり。その後、米の商いをしていた上野他人吉が開業した「あなごめし うえの」を筆頭に、宮島近郊や広島市内には多くの穴子料理専門店が誕生した。今回は、立ち寄りやすい広島中心部のおすすめ店を紹介!

教えてくれたのは

佐藤 明日香

生まれも育ちも広島の、生粋の広島県民。広島のタウン情報誌「TJ Hiroshima」編集部を経て、編集者・ライターとして活動。作り手をリスペクトしつつ、その思いを少しでも読者に伝えるべく、「シンプルに分かりやすく、目に浮かぶような文章」を心掛け情報を発信する。甘いものと紅茶に癒やされ、お好み焼やラーメン、パンといった粉もんも大好き。

厳選国産穴子で作る、3つの穴子飯

広電・紙屋町西電停より徒歩2分。アストラムラインの駅やバス停も近い

店主は、寿司職人だった父の背中を見て育ち、自らも寿司職人となった木村宗嗣(そうじ)さん。父が引退のため店をたたむことになったのをきっかけに、「一つの食材とひたすら向き合い究めたい」と穴子飯専門店を営むことを決意。「観光客はもちろん、地元の人ももっと気軽に食べて欲しい」との思いから、アクセスの良い広島市中心部に店をオープンさせた。味や食感を好みで選べるように、それぞれ異なる調理法の3種類を用意する。

厳しい目利きで厳選した穴子を使用

穴子は国産にこだわり、その時季に旬を迎える産地から厳選。30年以上付き合いがある信頼のおける魚屋に依頼し、150g前後に限定して仕入れている。「大きいと骨が気になるし、小さいと脂が少ないので、食感も脂ののりもこの大きさがベスト」と木村さん。なかなか手に入らない瀬戸内のものを中心に使えているのは規模の小さな店だからこそ。

口の中でとろける「赤」は寿司職人の技が随所に

「赤 穴子飯」上1,800円、特上2,000円。日替わり小鉢、味噌汁、漬物付き

こちらでまず食べて欲しいのが「赤」。寿司屋で培われた煮穴子の技術を活かし、柔らかく煮た穴子に特製タレを付けながら炭火で焼き、ふわとろの食感に仕上げている。広島の穴子飯と言えばしっかりした食感のタレ焼きがスタンダードなため、「ほかでは出合えない味と食感」と何度もリピートするファン多数。

冷めても硬くならずおいしさが保たれるので、持ち帰りの弁当はこの「赤」の穴子を提供している。

ご飯も穴子の骨から取る出汁で炊いているので、より穴子の風味を感じられる

最初はそのまま味わい、ある程度食べ進めたら、味変するのもおすすめ。小皿で添えられているすだちをキュッと搾ることで、すっきり上品な香りと酸味をプラス。食べ飽きないように、という店主の心遣いがうかがえる。爽やかな酸味、ほんのり漂うほろ苦さが癖になり、あっという間にペロリとなくなってしまうはず。

もう少し味を足したい時に使えるように、タレが卓上に置いてあるのがうれしい

穴子を焼く時に使用するタレは、寿司職人の父から受け継いだ独自のもの。「醤油に穴子の旨味が入ることで味が丸くなる」と、穴子を煮た時に出る旨味たっぷりの出汁を毎日継ぎ足しながら使い続けている。甘辛くもさっぱりとした後口が最後の一口まで食べやすい。