猫井さんが「フルーツが主役になるよう工夫されている」と称するフルーツサンド

〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!

食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。

点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、連載「猫井登のスイーツ探訪」でお馴染み、お菓子の歴史研究家・猫井登さんに「フルーツが主役のスイーツが絶品」と埼玉の地元では有名なフルーツサロンを教えてもらった。

教えてくれる人

猫井登

1960年京都生まれ。 早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。 退職後、服部栄養専門学校調理科で学び、調理免許取得。ル・コルドン・ブルー代官山校にて、菓子ディプロム取得。フランスエコール・リッツ・エスコフィエ等で製菓を学ぶ。著書に「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス刊)、「おいしさの秘密がわかる スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版刊)がある。

フルーツ愛あふれる一家が営む、隠れ家的フルーツサロン

「サロン美沙和」があるのは、JR南浦和駅から徒歩8分ほどの閑静な住宅街。道を挟んで西側がフルーツ店の「フルーツ美沙和」、東側が「ギャラリー美沙和」で「サロン美沙和」はこのギャラリーを奥へ進むと現れる、隠れ家的なお店になっている。

一見すると雑貨屋さんのような雰囲気のお店の外観

「フルーツ美沙和」は、先代の宮田清治さんが『浦和の千疋屋になりたい』と昭和48年に浦和(現在とは別の場所)で創業したお店だ。実家がフルーツ専門店で、フルーツが大好きだったという清治さんは、見た目も味も素晴らしい贈答用の果物を見極めるだけでなく、サイズや形に難があっても味はとびきりおいしい日常使いできる価格帯の果物を見極めるのもうまかった。その腕前は神田青果市場の副理事長を務めたことからもうかがえる。「贈る人も贈られた人もうれしくなるフルーツを揃えたい」をモットーに掲げ、駅から離れた住宅街ながら着実にお客さんの心を掴んでいった。

落ち着きある店内は、ゆったりとしたランチ&カフェタイムを過ごすのに最適

その後「新たなお客さんを呼び込める商いをしたい」と考えた宮田清治さんは、平成8年9月に「ギャラリー美沙和」と「サロン美沙和」を開業。当初は美術工芸品などが並ぶ「ギャラリー美沙和」のお客さんにゆったりくつろいでもらうギャラリー併設のサロンとして「サロン美沙和」をオープンさせたという。そんな「サロン美沙和」、今では週末になると遠方から足を運ぶ人もいるほど評判のフルーツサロンとなった。

先代が亡くなった現在は、会社の代表を先代の妻・宮田八重子さんが、「フルーツ美沙和」の店長を次男の宮田輝重さんが、「ギャラリー美沙和」のマネージャーを長女の岩下清美さんが、「サロン美沙和」のサロンチーフを三男の宮田政茂さんが務めている。兄弟姉妹で力を合わせ、先代の思いを受け継ぐフルーツ愛と家族愛にあふれたお店なのだ。

選りすぐりの旬のフルーツがたっぷり盛られた「フルーツの盛り合わせ」

猫井さんのイチオシ「フルーツの盛り合わせ」

「サロン美沙和」で猫井さんイチオシのメニューが「フルーツの盛り合わせ」1,870円。大きなプレートには「フルーツ美沙和」の店長・宮田輝重さんが毎朝大田市場で仕入れた旬のフルーツ数種類を、「サロン美沙和」のサロンチーフ・宮田政茂さんが美しくカットして並べてくれる。フルーツカットの技法などは、フルーツカッティングの第一人者である平野泰三さん主催のフルーツカット技法講座で学び、フルーツアーティスト資格を取得したという。

 

猫井さん

全国から取り寄せたフルーツのうち、おすすめのものを一皿に盛ってくれるので、旬のさまざまなフルーツを一気に楽しめます。色々なフルーツを少しずつ順番に食べて、食感や味わいの違いを楽しんで!

取材した日のラインアップは、高知県産のスイカに、茨城県産のイチゴ(いばらキッス)、長野県産のシャインマスカットに青森県津軽産のスチューベン、アメリカ・フロリダ産のグレープフルーツにアメリカ・カリフォルニア産のメロゴールド、フィリピン産のパイナップルという7種類。

何人かでシェアするも良し、贅沢に独り占めするも良し!

定番フルーツだけでなく「知名度は低いがおいしくてお手頃価格のフルーツも提案する」というモットーも先代から受け継いだようだ。 「ブドウの一種であるスチューベンは小粒なんですが、冬時期のブドウとしては甘くて価格も手頃。グレープフルーツの仲間であるメロゴールドも、グレープフルーツより酸っぱさがなく食べやすいんですよ」とサロンチーフ・宮田政茂さん。見た目は圧巻のボリュームだが、フルーツのみずみずしさとバラエティに富んだ味わいを堪能しているうちに、気付いたらペロリと平らげてしまう魅惑の一皿だ。

テイクアウトも。果物の味が思いっきり味わえる「フルーツサンド

2種類のサンドウィッチを楽しめる「フルーツサンド」

「フルーツの盛り合わせ」とともに猫井さんがおすすめするのが「フルーツサンド」803円(イートイン単品)だ。

 

猫井さん

フルーツサンドとカットフルーツの両方を楽しめるお得なセットです。旬のフルーツを薄くスライスして生クリームと楽しめる立派なスイーツに仕上がっています。

「『生クリームが少ないね』と言われることもありますが、うちはあくまでフルーツが主役のサンドウィッチにこだわっています」とサロンチーフ・宮田政茂さんの言う通り、生クリームは甘さも脂肪分も控えめで量も少なく、フルーツの味わいをストレートに楽しめるように仕上げている。

可憐なフルーツサンドは見ているだけでも幸せな気分にしてくれる

イートインで提供しているオリジナルレシピの「フルーツサンド」は、2タイプのサンドウィッチの盛り合わせ。一つはリンゴとパイナップル、パパイヤ、もう一つはリンゴとキウイ、イチゴで、すべてのフルーツを薄くスライスしてサンドしている。

シャキシャキとしたリンゴの食感にジューシーで甘いパパイヤとパイナップル、華やかで甘酸っぱいイチゴとキウイの味わいが順番に口の中に広がり、薄くまとった甘さ控えめの生クリームと柔らかい食パンがふんわりと寄り添う。大口を開くことなく食べられる厚さの「フルーツサンド」はフルーツとクリーム、食パンのバランスも完璧で、なんだか慎ましやかで育ちのよいお嬢様のようだ。

 

猫井さん

フルーツ以外の素材は穏やかな味わいで、フルーツの味わいが主役になるよう工夫されています。

写真左から「イチゴとパイナップルのサンドウィッチ」594円、「フルーツサンド」594円、「イチゴのサンドウィッチ」626円(すべてテイクアウト品)

こちらのオリジナルレシピの「フルーツサンド」は、テイクアウト品も展開。このほか時期によって内容が若干変化するものの、週末限定で「イチゴのサンドウィッチ」と「イチゴとパイナップルのサンドウィッチ」などのテイクアウトサンドウィッチも数種類販売されている。

「イチゴのサンドウィッチ」と「イチゴとパイナップルのサンドウィッチ」はオリジナルの「フルーツサンド」と違い、大ぶりにカットされたフルーツを、少し多めの生クリームでサンド。先程の慎ましやかな「フルーツサンド」とは一転、こちらは大きく口を開けて頬張るタイプのサンドウィッチだ。

カットの仕方で食感の異なるフルーツサンドは食べ比べを楽しむのも◎
 

猫井さん

テイクアウト品のうち、スライスしたフルーツサンドは、常時「サロン美沙和」&「フルーツ美沙和」で販売されていますが、土日のみ限定で丸ごとカットのフルーツサンドも登場するのでそちらもおすすめです。

もちろんこちらにはこちらの魅力がある。カットが大きいためジュワッとした果物の果汁感と、生クリームのホイップ感、そしてミルキーな甘さが一度に口の中に押し寄せるのだ。完璧なバランスと完成度を誇る「フルーツサンド」に、一つひとつの果物の個性が押し寄せる「イチゴのサンドウィッチ」と「イチゴとパイナップルのサンドウィッチ」。いずれも魅力に溢れていてどれを選ぶか苦慮してしまう。

ちなみにこれらのフルーツサンドウィッチは週末合計70個ほど販売されているが、お昼頃には完売するほど人気。確実に食べたい方は予約することをおすすめしたい。