多くのファンを持つ「フカヒレのスッポン鍋」

柏原さんが絶賛する「フカヒレのスッポン鍋」は、19,800円のコース中の定番の一品。中華の花形食材であるフカヒレに「スッポンの旨みを入れることで和風においしく仕上げた」という堀内さんの自信作で、実はこれを目当てに訪れるリピーターも多いとか。

 

柏原さん

彼女が丁寧にひくスッポンの出汁が本当においしくて、フカヒレに合わせるとなおすばらしいんです

「フカヒレのスッポン鍋」。秋には天然茸も使われる(山に雪が降るまで)。写真の天然茸はショウゲンジ茸。最近『キノコ狩りにはまっている』という堀内さんは、自ら山で採ったキノコを使うこともある。

スッポンの出汁と鰹出汁、鶏ガラでひいた中華の白湯を合わせたスープは、深く力強い旨みとキレがあり、ひと口ごとに体が温まっていくのが実感できる。そのスープで煮込むフカヒレは、気仙沼産の青鮫または葦切鮫。堀内さんが中華のシェフに教わった方法で丁寧に戻したものを、それぞれに適した方法で炊き上げているという。

「青鮫は時間をかけて煮込んでトロッと仕上げ、葦切鮫は繊維の歯触りを残すように仕上げている」そうなので、いつか食べ比べてみるのも楽しいだろう。 ちなみに、スッポンの出汁は、時期によっては「茶碗蒸し」に使われることもある。

店主の料理哲学を映した「白いご飯とおばんざい」

コースの最後の食事は白いご飯で〆るのが「御料理ほりうち」流で、ここも柏原さんが贔屓にするポイントのひとつ。

写真のおばんざいは、秋刀魚の醤油煮、れんこんと牛肉のきんぴら、自家製の塩辛、じゃこ、漬物、福井県の「天たつ」の汐うに。塩辛は肝を一晩塩に漬けて臭みを抜き、焼き串で発酵を促して作るため、白いご飯にぴったりのまろやかな味わい。おばんざいの数は食べる量に応じて調整される。
 

柏原さん

私は最後に炊き込みご飯やカレーなど強い味が出されると、これまでの料理が台無しになると思っているので、『最後は白いご飯で〆る』という堀内さんの料理哲学に共鳴するんです。お米は、彼女が日本全国の米を食べ比べて決めた福井県の『いちほまれ』。それを土鍋で炊いた白米を、じゃこや佃煮といったさまざまなおばんざいと一緒に味わえます

堀内さんが最後に白いご飯を出すのは「コースの初めから少しずつ上がっていったテンションを、白いご飯で落ち着かせて満たされてほしい」という思いから。そして「コシヒカリだとコースの最後には少し重たいから」と、さまざまな銘柄を試食して選ばれたのが、福井県産の「いちほまれ」だ。「『いちほまれ』は、旨みはあるけれど軽くて、炊き上がりの香りが甘いんです。福井県はコシヒカリ発祥の地で、実は米どころなんですよ」(堀内さん)

いちほまれは10月から新米を使用

自家製の塩辛やじゃこ、漬物、きんぴらなどのおばんざいとともに味わえば、しみじみとした満足感に包まれる。

「ひけらかさない料理の達人」

これまでに紹介した3品を見るとわかるように、堀内さんの料理には、パッと目を引く派手さはない。しかしディテールの完成度はきわめて高く、味わっているうちに味覚が研ぎ澄まされるような心地よさがある。

たとえば「フカヒレのスッポン鍋」は、ひと口目で感じるスープの上品な旨みが徐々に増幅し、おいしさの正体を突き止めたくなるような思いに駆られる。味わいに引き込まれているうちに飲み干してしまい、名残惜しさを覚えさせるような料理だ。

その深い味わいは、堀内さんが重ねてきた修業のたまもの。女性の料理人は今でこそ珍しくないが、彼女が日本料理の道を目指しはじめた頃は「女が日本料理の修業なんてできるはずがないと断られてばかりだった」という時代。それでも夢を貫き、難易度の高いスッポンやふぐの扱いまで習得したのが堀内さんだ。

写真:お店から

コースで出される料理の数々は、いずれも隅々まで神経の行き届いた誠実な味わい。達人の日本料理を味わう幸せを、気負わずに満喫できる穴場として注目したい。

※価格は税込です。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

取材・文:小松めぐみ
撮影:三好宣弘(RELATION)