定食王が今日も行く!

大正時代から胃袋を満たして102年!新宿「長野屋食堂」の肉豆腐

 

 

歴史を感じさせる外観に

昭和から時が止まったような店内

 

2020年のオリンピックに向けて、東京は少しずつ変わりはじめている。2018年には平成が終わり、翌年から新しい元号になることも計画され、日本と東京の新しい時代の幕開けが着実に近づいている。そんな東京で最大、いや世界最大の利用者数を誇る新宿駅にあり、この街を大正時代から見守りつづけた食堂がある。東南口から30秒ほどのところにある「長野屋」だ。1915年(大正4年)に創業し、102年もの間、ずっと同じ場所で営業を続けているという伝説的な一軒だ。

 

 

外から見ると雑居ビルのうえ、表のショーケースはやや曇り、中にある食品サンプルは色褪せている。外から店内は見えないので、なかなか入りづらい。しかし勇気を持って踏み込んでみると、そこはまるで大正時代? 少なくとも昭和30年代にタイムスリップしたような歴史的な空間だ。入り口近くには、昔使っていた食券売り場らしきカウンターがある。現在ではテーブルで注文をするシステムだが、当時の名残がうかがえる。

 

 

二階が厨房のようで、お母さんが注文を取りインターフォンで注文を伝える。できあがった料理はブー!というブザーとともに、キッチンエレベーターで2階から降りてくる。

 

ちなみに最近では珍しい喫煙OKの店なので、タバコが苦手な人は要注意。しかし最近では欧米の旅行者たちが喫煙可能な日本の食堂や居酒屋にノスタルジーを感じ、わざわざ訪れるということがあるそうだ。大衆食堂は戦後どの国にもあって、世界共通で懐かしさを感じる空間なのだなと思う。

 

 

とろっとろの肉豆腐と

甘み、粘り、香り、三拍子そろった白飯とで

最強の「とうめし」を!

 

「昼飲みの聖地」とも言われ酒の肴もたくさんあるが、定食のメニューが豊富で、肉、魚、揚げ物からカレーまでみんなに愛される国民的料理が勢揃いだ。そしてこの立地なのにどれも安い。

 

この店には不思議な会計システムがある。なんと、消費税は全品固定の20円という、まさかのどんぶり勘定。小銭が面倒なのか、お客さん思いなのかわからないが、このあたりもこの店が100年変わらずに愛され続けてきた理由だろう。

 

 

なかでも私がときおり無性に食べたくなるのが、人気のメニューのひとつ肉豆腐だ。キラキラ光る白飯と対照的な、飴色になるまで煮詰められた肉豆腐。

 

あつあつで立ち上る湯気を顔に受けながら、少しずつご飯にのせて、汁をぶっかける。「とうめし」と言われるおでんやさんでいただける、最高の豆腐飯が完成する。甘辛い醤油の香りと、とろっとろになるまで煮込まれた豆腐が、最高の炊き加減の白米に完璧に合う。

 

この店で、もうひとつ特筆すべきは白飯の炊き上がりのクオリティの高さだ。ツヤツヤでほんのり芯がある。程よいもちもち感、適度な粘りを保ちながら、粒ひとつひとつが立っている。そして米本来の甘みと香りを感じさせてくれる。厨房を覗くことはできないが、こういった老舗の大衆食堂はガス炊飯器で米を炊いていることが多く、電気やIHで炊いたご飯とは仕上がりが全く異なる。この店では、この絶妙な白飯を食べることも楽しみのひとつなのだ。

 

 

カツカレー、アジフライなど基本のメニューが

きちんとうまいのが100年続く秘訣!?

 

もうひとつの隠れ名物はカツカレー。揚げ物のクオリティも高く、アジフライやトンカツなどもおすすめだ。失礼ながら、店の風貌やカジュアルな接客にかかわらず、何を食べてもクオリティが高い。100年以上、シンプルなメニューを作り続けて、基礎を積み重ねるとはこういうことなのかと感銘を受ける。

 

現在のビルは3代目になるという。大正時代から建物があり、戦争で焼けた後に建て直し、その後、高度成長期に長野屋がオーナーになり、ビルへと建て替えたそうだ。立地の良さを考えれば、テナント貸しをしたほうが儲かるだろうが、あえて家族経営で「うまい、安い」食堂を続けていることに、心意気を感じる。

 

最近、創業100周年を機にメニューを4ヶ国語化したそうだ。増え続けるインバウンド旅行客や、多様化しつづける新宿の街に対応している。2020年の東京五輪など見越して、その歴史を着実に築き続けていく姿勢には頭が下がるばかりだ。いつも、うまいメシだけでなく、その仕事に対する姿勢に励まされるパワースポットならぬ、パワー食堂だ。