新時代の“町中華”がブームの兆し

こうした動きの中、1〜2年ほど前から少しずつブームの兆しを見せ始めたのが“町中華”だろう。“町中華”とは、その名の通り、どこの町にもある何と言うこともない食堂的中華屋だが、個人的な見解を言うならば、単品でもOKの気軽さと、毎日でも通える値段の手頃さは必須。加えてメニューは、酢豚やエビチリ、麻婆豆腐に炒飯などいずれも日本人の家庭料理として市民権を得たわかりやすい料理であることも“町中華”たる条件ではないだろうか。

しかも、その料理はと言えば、本場の味とは一線を画す“和風中華”。フランス料理から転化した洋食と同じロジックと考えても良いだろう。モダンチャイニーズやマニアック系などコアな中国料理が次々と話題を集める一方で、その反動とも言うべきわかりやすい“町中華”に人々の関心が集まったのは興味深い。

昭和の匂いを残す昔ながらの“町中華”が見直される中、令和に生まれた“町中華”は、それまでとは一新。ひと皮剥けた“町中華”を標榜する店もでき始めた。

「REI Chinese restaurants」(代々木上原)

自らを“ネオ町中華”と呼ぶ代々木上原の「REI Chinese restaurants」もその一つだ。2020年8月にオープンした同店は、全面ガラス張り。白を基調とした店内は、中華料理店と言うよりもカフェとみまがう明るさだ。

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「REI Chinese restaurants」の店内   出典:lua brancaさん

モダンなのは、店の設えばかりではない。アラカルト中心のメニューには、エビチリ、酢豚、麻婆豆腐に炒飯、焼き餃子、そしてラーメンと“町中華”の定番料理がずらり。だが、酢豚は黒酢風味、炒飯は牛肉の黒炒飯と現代風にアレンジ。テイストも一流店に決して引けを取らない出来栄えだ。

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「REI Chinese restaurants」の酢豚   出典:miho_thさん
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「REI Chinese restaurants」の黒炒飯   出典:O.KAZUさん

「町中華ならではの気軽さやわかりやすいおいしさは崩すことなく、ワンランク上の洗練された町中華を目指したい」と言うのは、オーナーシェフの高島泰弘さん。そのために、食材もより良いものを使い、下ごしらえも丁寧にと心がけているという。

「桃仙閣 東京」(六本木)

2020年10月、六本木にオープンした「桃仙閣」もまた、“ネオ町中華”の流れに拍車をかけた一軒だろう。

本店は島根県松江市で五十余年続く老舗の中華料理店「桃仙閣」で、ここはその姉妹店。ご主人の林亮治シェフ曰く「油淋鶏や天津飯など誰もがよく知っている日本育ちの中華料理を少しだけ都会的にアレンジし、特別な食材を使わずとも、作り置きをせずに一つひとつを手間暇かけて作ることで生まれる“上質な普通(のおいしさ)”が、この店のコンセプトです」とのこと。

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「桃仙閣 東京」の天津飯   出典:ふみゅ666さん

この林シェフ、実は前述の「茶禅華」のオーナーでもある。片や最先端の東京中華を牽引するクリエイティブなモダンチャイニーズを掲げながら、その一方でオーソドックスな町中華を標榜する。それらが違和感を与えず共存するところに、イマドキの中華料理界の多様性がうかがえるようだ。

革新と伝統が共存する中国料理に引き続き注目

店ごとに表層的な料理は違っていても、伝統の中国料理への敬意と食材を慈しむ思いは共に変わらない。革新を追い求めつつも、伝統を見直し立ち返る。思えば食の歴史はその繰り返しであり、そこに食の深化と進化が生まれるのだろう。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

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文:森脇慶子