【じっくり食べたいハンバーガー】第22回「スペリオリティーバーガー」

ついに! 今回は連載22回目にして初の「肉」が登場しない回です。私がハンバーガーの探求を始めた2004年、肉でないバーガーをこんなに真剣に食べる日が来るとは思ってもみませんでした。ですが、そこがハンバーガーの面白さ。ほかの食べ物にはないくらいの劇的な変化や進化が常に起きています。ということで、今回はNYから来たヴィーガンバーガー専門店「スペリオリティーバーガー」についてご紹介します!

食通が占う、2021流行る店」にも挙げたお店です。気になって、その後4、5回通いました。原宿と言ってもちょっとはずれの、しかも、びっくりするような急な螺旋階段を降りた地下1階にあります。壁も机も白ずくめの店内は、ハンバーガー屋なのに肉を焼く香りが一切しません。なお、入口付近に漂うスパイシーな香りは、お隣のアジア料理店からくるもの。

ヴィーガンは「完全菜食主義」などとも訳されますが、「肉・魚類に加えて卵・乳製品なども一切食べない人」のこと。野菜や芋類、豆類などが中心の食事をする点はベジタリアンと一緒ですが、ヴィーガンは卵や乳製品も食べず、だしのような肉のエキスも摂りません。昨今、大手バーガーチェーンでも大豆パティのバーガーが相次ぎ発売されていますが、それらとスペリオリティーバーガーの一番の違いは、店内に動物性の食材が一切ないことです。牛肉・鶏肉はもちろん、バターもチーズも店になく、調理もしていないため、肉のエキスの混ざらない100%ピュアなヴィーガンバーガーが食べられます。この辺りが専門店ならでは。

オーナーシェフのブルックス・ヘッドリー(Brooks Headley)さん。2018年には「Superiority Burger Cookbook」(W W Norton & Co Inc.)というレシピ本を出版している

スペリオリティーバーガーはNYのイースト・ヴィレッジの近くに2015年にオープンしました。創業者はブルックス・ヘッドリーさん。変わった経歴の持ち主で、ハードコアバンドのドラマーとして活動する傍ら、有名なイタリアンレストランのペイストリーシェフとしても活躍し、「料理界のアカデミー賞」とも呼ばれる著名な賞にノミネートされるなど、一躍人気シェフになりました。そして2019年12月、東京・原宿に2号店をオープンさせますが、ほどなくコロナ禍に見舞われ、当初予定していたシェフ自ら東京とNYを行き来するプランは叶わず。しかし、日本のスタッフとリモート会議を密に重ねて、ブルックスさんが考える「SUPERIORITY BURGER」の実現に全力で取り組んできました。

「Burnt Broccoli Salad(バーント ブロッコリー サラダ)」800円。レッドペッパーのピクルスと“キャンディーカシュー”がアクセント

NYの本店ではブルックスさんが毎週のようにメニューを入れ替えていますが、中でも特に人気の定番メニューが日本の原宿店ではいつでも味わえます。ヴィーガンバーガー5品に加え、サラダやスープ、スイーツまで、すべてが植物性食材。サラダやスープは週替わりですが、中でも外国人客に大人気なのが「Burnt Broccoli Salad」という、焦がしたブロッコリーを、なすのピューレに付けて食べるメニューです。

「Potato Coconut Soup」600円。チリオイルも店の自家製。たっぷり入った香辛料の香りが鼻へ抜ける

「Potato Coconut Soup」も個性的な一品。すり潰したポテトをココナッツミルクと合わせたスープです。表面の油のように見えるものはチリオイル。ガリガリしたものは、オーブンでカラカラに乾燥させたジャガイモの皮。パクチーと青ネギがのって風味を利かせています。この一杯で結構お腹が膨れます。サラダも然り。同店の特徴の一つは見た目の印象より「量が多い」こと。そして味付けがしっかり強いのが二つ目の特徴です。あと三つ目は、量の割に安いこと(笑)。

「SUPERIORITY BURGER(スペリオリティーバーガー)」800円

ヴィーガンバーガーは5品あります(中にはバーガーと呼べないものもありますが)。看板メニューは「SUPERIORITY BURGER」。パティは植物性。キヌア、タマネギ、マッシュルーム、ニンジンをはじめ、スパイスまで入れると10種類以上の植物性食材を調合しています。もちろん手作り。丸く成形するまでに丸1日かかります。このパティを、グレープシードオイルを引いた鉄板でグリル。バンズは卵・牛乳不使用の特注品。その裏にヴィーガン対応のマスタードマヨネーズを塗り、レタス、自家製のきゅうりのピクルス、トマトのコンフィ、ナッツをベースにしたチーズ風ソースをのせて完成です。

パティの仕込みは丸1日がかり。ボリュームは100gほど。10種類以上の植物性食材を調合している

パティは焼いた肉のような色味ですが、食べた感じは「ふんにゃり」やわらかで、コロッケの中のポテトのような印象。バンズも生地がウェットでやわらか。ピクルスの甘酢がよく利いています。硬い食感が少ないので、写真の背後に写っている「CABBAGE SALAD(キャベツサラダ)」700円のようなコリコリしたサラダと交互に食べると、上手くバランスが補えるんじゃないかと思います。

「NEW JAPAN CREATION(ニュージャパンクリエーション)」1,000円

次は湯葉を使った「NEW JAPAN CREATION」。シェフのブルックスさんは来日時、湯葉を求めて北陸まで旅しました。白ごまベースのソースで湯葉を和えて鉄板でグリル。それを挟むように味付けしたひよこ豆、フライドオニオン、さらにきゅうりのピクルス。緑の葉はミントとパセリです。甘くて辛くて、ミントがかなり強く利いた一品。白ごまソースの甘味はきび砂糖によるもの。上白糖は使っていません。

Tokyo Fried Tofu、略して「TFT(ティーエフティ―)」900円。5日がかりで仕込む豆腐パティの上にはコールスローとヴィーガンマヨがたっぷり

そんな中、私のイチ押しは「TFT」。揚げた豆腐のバーガーです。この豆腐パティは完成までになんと5日もかかるとか! 表面に焼き目を付けた後、水分を抜き、代わりに下味を吸わせる仕込みを5日がかりで行います。パティ1個の量は4分の1丁ほど。これに衣を付けてグレープシードオイルでフライにするワケですが、その衣が新食感! 薄くてサックリとした「フリッター」な衣で、味わったことのない新鮮な歯ごたえでした。

白ワインビネガーが利いたコールスローと合わさると「フィッシュ&チップス」を食べているような味わいに。特製のマリネ液が豆腐に染みて、和風だしのような風味に感じられますが、この味加減は“ほのか”なぐらいがちょうどいいですね。濃いとクドくなりますので。この「TFT」は完全に創作料理の域。「我々の知る豆腐がこんな風になるなんて」という新鮮な驚きがありました。創造性に富んだ一品です。

「GELATO(ジェラート)」700円はフレーバー3つでワンセット

そしてもう一品、私の心をとらえたのが「GELATO」。牛乳不使用のヴィーガンジェラートです。もちろん店内で製造。フレーバーは月替わりで、この日はさわやかなグレープフルーツ、ねっとり粘るチョコチップ、チョコレートの3種類でした。特にチョコは、本来のチョコレートジェラートとはまた違う味なのですが、その独特な風味をいつまでも味わっていたいような不思議な魅力があります。これも量たっぷり。でも、気づけばあっという間です(笑)。

牛・鶏・魚に次ぐハンバーガーショップの新ジャンル、「植物性」。その最先端を行く店がスペリオリティーバーガーです。今はまだ少し気張ったようなところがありますが、もっと肩の力が抜けて“こなれて”くれば、さらにおいしくなるんじゃないかと思っています。今後大きな発展が期待される新分野。どうおいしく進化していくか、楽しみですね。

※価格はすべて税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※新型コロナウイルス感染拡大を受けて、一部地域で飲食店に営業自粛・時間短縮要請がでています。各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。

※本記事は取材日(2021年6月25日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文・撮影:松原好秀