【森脇慶子のココに注目 特別編】「Dots」

伝統的な上海料理の味を継承しつつも、フレンチの要素を巧みに取り入れた新しいスタイルの中華料理で一世を風靡した脇屋友詞シェフ。“ヌーベル・シノワ”の立役者としても知られる中華の巨匠がプロデュースする新店が、3月24日にオープン。早速訪れたのがここ「Dots」だ。

監修を務める脇屋友詞シェフ
監修を務める脇屋友詞シェフ   写真:お店から

場所は、渋谷・金王八幡宮の参道そば。ひときわ目立つ黄色に黒いドットマークの壁が目印だ。脇屋シェフ曰く「コンセプトは“新しい町中華”」だそうで、「中華料理は奥が深い。海老チリや麻婆豆腐だけではない、まだまだ一般に知られていない中華料理を少しでも多くの人に伝えて、中華の裾野を広げたい」と言葉を続ける。

それゆえ、新店では、前菜からデザートまで全5品のコースを税込5,000円で提供。あのアイアンシェフの味の片鱗を、このお値段でいただけるとあれば、食指が動く向きも多いのでは?

平賀大輔料理長

有名店や有名シェフのプロデュース店は多々あれど、中には、レシピを提供するのみで、料理そのものは外部の人間が作るというケースもままあるが、そこは責任感の強い脇屋シェフのこと。ここでは自ら育てた生え抜きのシェフを抜擢。「トゥーランドット 游仙境」の創成期から、脇屋シェフのもとで研鑽を積んだ20年選手の平賀大輔シェフが腕を振るう。

「前菜9種盛り」

さて、そのコースの内容だが、まずは最初に前菜9種の盛り合わせが登場。湯葉の炊いたものや押し豆腐の山椒和えといった上海家庭料理の味をはじめ、本店でも人気のよだれ鶏、ピータン豆腐等々が小皿でずらりと並び、どれから箸をつけようか迷ってしまうほど。少しずついろいろ食べたい向きにはまさにうってつけ! 冷えたシャンパンが合いそうだ。しかし、ここで驚くのはまだ早い。続いて卓上に運ばれる特大蒸籠「清香蒸し」。これが圧巻だ。

「清香蒸し」

蒸籠の中には、菜の花、からし菜、そら豆の蕾にパクチーの花等々、季節を感じさせる野菜が10種類以上も敷き詰められ、その上に海老、そして、辛いタレの入った壺が中央に置かれている。そして壺の周りに、なんとアツアツの凍頂烏龍茶を注ぎ入むのだ。

その瞬間、ジュワンという快音と共に立ちのぼる蒸気に、思わず喚声を上げそうになる。蒸気の秘密は、蒸籠の下に置いた土鍋の為せる業。焼き石のようにガンガンに熱してあるのだ。立ちのぼる蒸気を逃さぬよう素早く蓋をし、待つこと2〜3分。恐る恐る蓋を開ければ、野菜類はちょうど良い塩梅の食感に仕上がり、壺に入っている豆腐や牡蠣、牛の大腸にハチノス等は、見た目共々いかにも熱そうだ。

聞けば、壺の辛味タレは、七味ならぬ日光名物の十味唐辛子で作る自家製辣油が決め手。唐辛子や山椒だけではなく、アオサや紫蘇の葉といった日本的な香りが加わることで、微かに和を感じさせるような奥行きのある風味を感じさせている。

豪快なパフォーマンスの後に出される一品料理は、季節でいろいろ変わっていくそうだが、現在は豚の角煮こと「東坡肉」。平賀シェフによれば「沖縄の皮付き豚バラ肉を、醤油、砂糖、水だけで4〜5時間ほどかけてじっくり煮込んでいます」そうだ。

「東坡肉」

だが、その前に、1時間ほど下茹でし、余分な脂や臭みをとる一手間も忘れてはいない。しかも、同じバラ肉でも、脂身の多い前バラと赤身肉の部分が多い尻側の後バラでは、一時間ほど煮込む時間を変え、時間差で仕上げるきめ細かさはさすが。美しいその光沢同様、口にすれば柔らかな甘みの中、とろける脂身と肉の旨みのバランスも上々だ。

また、通常なら、肉と一緒に煮込んでしまう大根や煮卵も別々に仕上げ、つけ合わせるセンスもイマドキだろう。メニュー自体は町中華でも、素材の質と調理は一級。さしずめ中華版ネオビストロと言った立ち位置だろうか。更に、角煮に合わせ、炊き立ての土鍋ご飯が供されるのも心憎い配慮。まさに、食いしん坊のツボをついたサービスだ。

〆は、坦々麺か醤油味のスープ麺だが、辛さが苦手でなければ、ぜひ担々麺を試してみたい。いわゆる胡麻ペーストの濃厚タイプとは違い、先の十味唐辛子辣油と花椒粉が辛味の主たる要素。胡麻は煎り胡麻を食感と香りのアクセントに加えているのみ。それゆえ、辛味がシャープかつストレート。

担々麺というよりは、麻辣麺と言った方がしっくりくる辛さながら、きっちりととった鶏ガラスープの旨みがその辛さをしっかりと支えている。   

そして、辛さで熱った舌を休ませてくれるのが、デザートの杏仁豆腐。ふるっとした優しい食感と甘みは、お腹と心をほっと和ませてくれるはずだ。

写真:お店から

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※本記事は取材日(2021年4月15日)時点の情報をもとに作成しています。

文:森脇慶子

撮影:佐藤潮