前編から続けて、ざっとカヌレ専門店の状況を見てきたが、今回のブームを分析すると以下のポイントが挙げられるだろう。
その1 地方発カヌレ店の躍進
90年代の第1次カヌレブームは東京が中心となったが、今回の第2次ブームでは地方発のカヌレ専門店の躍進が目立つ。
その2 味わい・バリエーション豊かな地方、伝統の東京
各店で取り扱っているカヌレを見ると、東京以外の地域では、コーヒー、紅茶、レモン、りんご、抹茶、黒ゴマなど、フレーバーの種類も豊富で、フレーバーに合わせてチョコレートを上がけしたりナッツやフルーツをトッピングしたりと、ビジュアルにも工夫を凝らしたものが多い。これに対して東京の店では、従来型のカヌレが多く見られる。これはなぜだろうか?

今回のブームの先駆けとなった関西地区は、常に創意工夫を凝らしていく商人気質に溢れているので、カヌレについても固定観念にとらわれず、味わいもトッピングも個性豊かなものを創造した結果これが人気を博し、各地に伝播したと考えることができよう。一方で東京では、第1次ブーム以降、多くのパティスリーで定番商品としていわゆるフランス・ボルドー流のカヌレが作られ続けていることもあり、カヌレ専門店も伝統的な製法や味わいを志向する店が多いのではないだろうか。
その3 生地と食感の多様化
前編冒頭に記した通り、カヌレは型に蜜蝋を付着させて焼くので基本的に外皮はパリッと、中はモッチリとなる。しかし、店によっては蜜蝋の代わりにバターと蜂蜜あるいは、植物性ワックスを用いることもある。またフレーバーの多様化に伴い、従来使用されていなかった副材料が生地に加えられることにより、生地の状態もかなり変わってきている。さらに、輸送・保存のために冷蔵・冷凍され、時間による変化も加わり、食感も多様化している。

その4 サイズによる差別化
第1次ブームでは、サイズはさほど差別化の大きなポイントにはならなかったと思われるが、今回のブームでは、各店で大きさにかなりのバリエーションが見られる。サイズ的にはプチサイズの人気が高い。これは、カヌレの一般化により様々な型が作られるようになったことに加え、食べやすさや見た目の可愛さを重視する店が増えたことによるのだろう。

その5 テイクアウト・オンライン販売が活発化
コロナ禍の影響で外出自粛や店での飲食が制限される中、多くの飲食店はテイクアウトやオンラインでの販売に重点を置かざるを得ない。生菓子は賞味期限が短く、形崩れの問題もある。この点、カヌレは比較的強度もあり、持ち運びや宅配便輸送にも適している。テイクアウト・オンライン販売がしやすく、これらが活発に行われていることも近時のブーム形成の背景にあると思われる。
その6 飲食他業からの進出
その4とも関係するが、本来カヌレはフランスのお菓子なので、フランスの菓子やパンを専門とする、いわゆるパティスリー、ブーランジェリーが作るものであるが、今回のブームではレストランやコーヒー専門店など、飲食他業がカヌレを看板商品とすることが多くなっている。前編〈第二次カヌレブーム(2010年代〜)〉の箇所参照。
カヌレの第2次ブームの中、多くのカヌレ専門店が開店し様々なカヌレが誕生しているが、カヌレが元々どういうお菓子なのか、ということを知っておくことは大切であろう。最後にフランス・ボルドーで作られているカヌレの味を再現しているお店を紹介して結びとしたい。
【東京de伝統的カヌレ】「アルカション 本店」
「アルカション 本店」は、森本慎氏が2005年にオープンしたお店。国内のフランス菓子店で修業後、渡仏。ボルドー地方のパティスリー「マルケ」などで修業された。こちらのカヌレは、シェフがボルドーでの修行時代に、カヌレ協会の会長を務めるマルケのシェフ直伝のカヌレ協会認定のレシピを配合から忠実に再現している本格的なカヌレ。

じっくりと焼き込まれた外皮はカリカリで香ばしく中はしっとりと柔らかなもっちりとした食感で、ラム酒の風味漂う甘さ控えめな極上の味わい。このカヌレを目当てに遠方から訪れる客も多いというのも頷ける。

こちらのお店の、もうひとつの看板商品が「デュネット」! コニャックの風味が印象的なマジパンベースの生地が入った円錐状のクッキーだ。


このほか、とろけるチョコレートムースの中にブラックベリーのコンポートをしのばせた「パーデザンジュ」など、ケーキ類も絶品だ!

※価格はすべて税抜