〈ニュースなランチ〉

毎日食べる「ランチ」にどれだけ情熱を注げるか。それが人生の幸福度を左右すると信じて疑わない、食べログマガジン編集部メンバーによるランチ連載。話題の新店から老舗まで、おすすめのデイリーランチをご紹介!

“一品入魂”のハンバーグ定食

「挽きたて、打ちたて、茹でたて」の“三たて”と言えば、おいしい“そば”の条件だが、「挽きたて、焼きたて、炊きたて」と言えば何? その答えは、おいしい“ハンバーグ”の条件だ。正確に言うなら、「挽肉と米」といういま話題の“店”のおいしいハンバーグの条件。もっと厳密に言うなら、同店の「挽肉と米 定食」という“ハンバーグ定食”のおいしい条件である。

なにしろ同店のメインメニューは、これ一品のみというこだわりよう。まさに、“一品入魂”のメニューである。そんな話を聞かされると、どんな商品なのか気になって、気になって仕方ない。「挽肉と米 定食」は、そんな“ハンバーグ定食愛”を貫く、同店の看板商品なのだ。

店舗は「挽肉と米」の店名のみシンプルに掲げる。右側が、「挽きたて」のハンバーグを仕込む“挽き場”。

おいしさを高める店舗デザイン

同店の“ハンバーグ定食愛”は、「挽肉と米」という店名にも如実に表れている。ハンバーグ定食を四文字で表現した、その潔いまでの店名。さらに店内に足を踏み入れれば、その愛の強さが一目瞭然。ハンバーグ定食を最高においしく食べてもらうことに特化した、驚きの店づくりを採用しているのである。客席は10人がけの円形状カウンター席が2つあるのみ。その中央に“焼き場”があり、焼き手がそこに立って炭火でハンバーグを焼いていく。

ハンバーグ定食を最高においしく食べてもらうことに特化した、店舗デザイン。

毎朝「挽きたて」の新鮮な肉でパテを作る

「挽肉と米 定食」は、1個90gのハンバーグ3個とご飯、味噌汁がセットになり、これで1,300円(税込)。ご飯は何杯でもおかわりでき、セルフサービスの生卵が1個付く。ハンバーグをもう少し食べたければ、1個単位で追加もできる。これが「おかわり肉」で価格は380円(税込)。他に副菜の「おばんざい」500円(税込)が1種あり、内容はポテトサラダなどその時々で異なる。その他、ドリンクメニューが数種の商品構成だ。

同店が掲げる「挽きたて、焼きたて、炊きたて」の「挽きたて」は、店内の一角にある“挽き場”で毎朝、国産牛肉を挽き、当日分のパテを仕込む工程のことを指す。豚肉を使わずに牛肉のみにし、香りづけに長ネギを用いる以外はいたってシンプルなレシピなのだが、これが驚くほどうまい。挽き肉という食材にとって、いかに鮮度が大事なのかがよくわかる。

ハンバーグは1個90gとやや小ぶりの大きさ。新鮮な「挽きたて」の肉を用いたパテを、炭火でふっくら香ばしく焼き上げる。

カウンター席が円形状の理由

ハンバーグは1個90gとやや小ぶりだが、3個合わせると270gとけっこうなボリュームになる。大きなハンバーグ1個だと食べているうちに冷めてきてしまうが、小ぶりにして3回に分けて提供することで、客は最後まで熱々のものを楽しめるのだ。
焼き鳥店が焼きたての焼き鳥を1本ずつ提供するように、焼きたてのハンバーグを1個ずつ出していく。これが同店ならではのこだわりだ。

そのため、客席の前は囲炉裏のように灰が敷き詰められ、五徳風の台の上に網がセットされている。そこに「焼きたて」のハンバーグが、小気味よく運ばれてくる。カウンター席が円形状なのは、すべての客席との距離を一定に保つことで、この一番おいしい“瞬間”を平等に味わってもらうのが狙い。“焼き場”に立った焼き手が、目の前のカウンター席に座った10人分のハンバーグを一心不乱に焼き上げ、客の食べるスピードに合わせて、その都度ベストの状態で提供していくのだ。

買参帽子風キャップのプレート部分は、「11-29(いい肉)」の語呂合わせ。

常にお米が立った「炊きたて」のご飯

「挽きたて」「焼きたて」ときて、最後の「炊きたて」は、炊きたてご飯を指す。どれくらい炊きたてかというと、店内に設けた“炊き場”で4つの羽釜をフル稼働させ、15~20分おきに米を連続炊飯しているのである。最初のご飯が炊きたてなら、おかわりのご飯も炊きたて。いやはや、なんという贅沢。「日本にはおいしい米がたくさんある」との考えから、米は各地の選りすぐりのものを3週間おきに採用し、多彩なおいしさを提供している。

ご飯は3升の羽釜で1升炊きする。4つの羽釜が並んだ“炊き場”を見ていると、それだけでご飯のおいしさが伝わり、食欲を大いにそそられる。

“オンザライス”の食べ方がおすすめ

噛むと肉汁あふれるジューシーなハンバーグだが、これは炭火で二段階に分けてふっくら焼き上げているから。まず最初の焼きでは火力を強めにし、表面に焼き目をつけ、うまみをギュッと閉じ込める。次に、炭の火力を抑えめにした網の上に移し、何度もひっくり返しながら、じっくり10分強かけて焼き上げ、客席にセットされた網へ。

ハンバーグをのせる網の下には保温用の炭がセットされており、こうした細やかな配慮でおいしさをさらに高めていく。ハンバーグは取り皿にのせて食べてもよいが、店側がおすすめするのはご飯にのっけて食べる“オンザライス”のスタイル。これは「取り皿に流れ出た肉汁がもったいない」との考えによるもので、時には「米を肉汁でドレスアップしてください!」とひと声かけることもある。

まっさらなご飯をさらにおいしくする“魔法”。それがオンザライスだ。

おろしポン酢で味に緩急をつける

3回に分けて出てくる焼きたてハンバーグを、そのつど違った味わいで楽しめるのも同店の魅力。まず、最初の1個は何もつけずに食べ、塩、胡椒で味つけされたシンプルなおいしさを楽しもう。続く2個目のハンバーグのときには、鬼おろし使用の粗めの大根おろしと、自家製ポン酢が一緒に添えられてくる。この提供法は、ここでいったん口の中をさっぱりさせ、3個目に臨んでもらおうという店側の配慮である。

2個目のハンバーグと一緒に、大根おろしと自家製ポン酢が出てくる。鬼おろしを用いた粗めの大根おろしが、肉々しいハンバーグと実によく合う。

迷うほど悩ましい豊富な“味変”アイテム

「さぁ、最後のハンバーグは、どうやって食べよう?」。迷う、迷う。なぜなら、“味変”のための調味料や薬味が6種も用意されているからだ。内容は、青唐辛子のオイル漬け、青唐塩レモン、生醤油、モウさんの麻辣辣粉、ジャンマー、大蒜ふりかけで、どれも試してみたくなる魅力にあふれている。それぞれの内容を紹介した説明書も用意されているので、それを見ながら楽しく悩もう。

写真左上から時計まわりに、青唐辛子のオイル漬け、青唐塩レモン、生醤油、モウさんの麻辣辣粉、ジャンマー、大蒜ふりかけ。

どれも好評だが、中でもジャンマーと青唐塩レモンが特に人気だという。「よし、ジャンマーでいこう!」。そう決断するや、ペースト状の緑の薬味をハンバーグにのせる。ジャンマーとは、実山椒、青葱、生姜、ごま油を合わせたもので、スパイシーな味わいが持ち味。締めのハンバーグにぴったりだ。とはいえ、その他の調味料や薬味も大いに気になってしまう。これはもう、再訪が決定だ。

ジャンマーは、スパイシーなおいしさが持ち味。鮮やかな緑色が、ハンバーグによく映える。

ラストを卵かけご飯で締め括るのも一興

すべてのハンバーグを食べ終えると、どうしてもこう思ってしまう。「もうちょっと食べたい」。おいしければおいしいほど、名残惜しさでいっぱいだ。「おかわり肉」をするのも一つの手だが、卵かけご飯で締め括るという選択肢もある。サービスの生卵はどのタイミングで使ってもよいのだが、ハンバーグと分けて味わえば、ますます楽しみが広がっていく。

同店ではハンバーグの味変アイテムとは別に、ご飯のお供として白菜の梅酢漬けと食べる醤油も用意。この食べる醤油で卵かけご飯を食すと、これがびっくりするくらいやみつきになるおいしさなのである。魅惑の「挽きたて、焼きたて、炊きたて」の“三たて”も、これにて終了。何と贅沢な時間だったのだろう。誰もがきっと、そう感じるに違いない。

生醤油もよいが、食べる醤油で卵かけご飯を食べると、おいしさがさらにアップ。

客自身も味づくりに参加

ひと口に「挽きたて、焼きたて、炊きたて」と言っても、言うは易く行うは難し。客数を絞った高級店ならまだしも、大衆店でこれを行うのは並大抵のことではない。1日200人限定で、メインメニューを一品に絞り、それに集中して客を迎え入れるからこそ、このスタイルが可能なのである。毎朝9時からの記帳で当日分の受付をし、予約枠が埋まり次第終了となる。食べるのに少々ハードルが高いが、それだけの価値があるハンバーグ定食だ。

素材にはこだわるが、採算度外視の商売ではない。適正価格で「挽きたて、焼きたて、炊きたて」の一番おいしい“瞬間”を提供し、商品価値を何倍にも高めていく。人気が高く客足が途切れないからこそ、誰もが“三たて”の極上のおいしさを味わえるのであり、ある意味、食べる側の客自身も、同店の“味づくり”に参加しているのである。テイクアウトやデリバリーでは味わえない、飲食店本来の魅力がこの店にはギッシリ詰まっている。

代表の山本昇平さん。「山本のハンバーグ」などを手がけ、ハンバーグ業界に新風をもたらす。

※価格は税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。
※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。
※本記事は取材日(2020年11月26日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:印束義則(grooo)
撮影:玉川博之