〈サク呑み酒場〉

今夜どう? 軽〜く、一杯。もう一杯。

イマドキの酒場事情がオモシロイ。居酒屋を現代解釈したネオ居酒屋にはじまり、進化系カフェに日本酒バー。どこも気の利いたツマミに、こだわりのドリンクが揃うのが共通点だ。ふらっと寄れるアフター5のパラダイスを、食べログマガジン編集部が厳選してお届け!

丸見えの“隠れ家店舗”

店は渋谷駅と恵比寿駅のほぼ中間にあり、どちらの駅からもそこそこ離れている。「高丸電氣」にたどり着くには、隠れ家を見つけるような気持ちが必要だ 。そもそも、店名がユニーク。予備知識もなく、いきなり「高丸電氣」と聞かされては、誰もそれが飲食店だとは思わないだろう。

看板はなく、「氣」の文字のネオンが唯一の目印。客はそれを見て、「多分、ここかな?」と入ってくる。

店はビルの2階にあり、ガラス張りで丸見えだが袖看板はない。反対側の歩道からは目立つものの、店舗側の歩道からはあまり目立たないためか、うっかり通り過ぎてしまう人が続出するらしい。さらに、見つけた階段を上って入口の扉の前に立っても「おや?」と思うだろう。なぜなら、扉には「おじんじょ」と書かれたステッカーが貼ってあり、「高丸電氣」の文字はどこにもないからだ。

「高丸電氣」の名前ではなく、「おじんじょ」と書かれたステッカーが貼ってあるのみ。

コンセプトは「大人の秘密基地」

意を決して扉を開けると、これまでの不安を吹き飛ばすかのような熱気に包まれた空間がドーンと現われる。その瞬間、客は「やっぱり、ここでよかったんだ!」とホッと安堵する。それにしても、天井が低い。身長170cmほどの人が手を挙げれば、難なく届いてしまう。それゆえ、店内は空間をギュッと圧縮したかのような、濃密な雰囲気が漂っている。まさに“隠れ家店舗”。そう、この店のコンセプトは「大人の秘密基地」なのである。

低くて黒い天井が空間を引き締め、濃密な雰囲気を楽しませてくれる。

瓶ビールはセルフサービスがお得!

ドリンクの提供法も独特で、瓶ビールは冷蔵ケースから客が自分で取って栓を開け、席へと運ぶ。大手ビールメーカーの銘柄が各種揃っており、好みのものを選べるのもうれしい。料金設定も独自のものがあり、セルフサービスだと500円(小瓶)だが、店の人に頼むとプラス150円になる。この場合、150円高くなると取るべきか。それとも、150円安くなると取るべきか。そんなことを考えながら、あれこれ悩む時間もまた楽しい。

瓶ビールは自分で取ってくると500円だが、店の人に頼むと650円になる。あなたなら、どちらを選ぶ?

特別に瓶詰めにしてもらった“前割り”の芋焼酎

ビールでグビッとのどを潤したら、「さて、2杯目は何を飲もうか?」。そんなときにおすすめなのが、「六代目百合のわりもと」だ。実はこれ、焼酎の“前割り”である。前割りとは、事前に焼酎と水を合わせて寝かせ、まろやかな飲み口に仕上げたもの。同店ではこれを蔵元に依頼して、特別に瓶詰めにしてもらったものを提供し、いつ飲んでもブレのない安定した味を楽しませている。

芋焼酎の“前割り”の「六代目百合のわりもと」1,000円。店主が惚れ込んだ同蔵元に依頼し、特別に瓶詰めにしてもらったもの。

選ぶのに迷う「お通し」で、料理への期待感が高まる

アルコールもいろいろ楽しいが、それに負けじと料理も楽しい。同店はそんな店で、「お通し」の段階から客の気分を盛り上げてくれる。お通しは3~4種あり、客に好みのものを選んでもらう。どれも上品な見ばえだが、それが盆の上に集まると、まるで宝石箱のような輝きを放つ。つい、どれにしようか悩んでしまい、差し出した手も止まったままだ。そんなワクワク感が、このお通しにはある。それがまた、料理全体の期待感を高めていく。

「お通し」350円。3~4種揃えた中から、客が好みのものを選ぶ。

極上黄金出汁の「汁餃子」

同店の提供する料理は、難しくなく、競合も少なく、おいしくて、すぐ出せるもの。こうした考えがベースにあり、そこに万人受けする料理を当てはめ、一見、どこにでもある料理を、この店にしかない魅力ある料理に仕上げていく。こうして生み出したのが「高丸電氣3大名物」と掲げる、餃子、麺料理、玉子焼きのメニュー。何を注文しようか迷ったら、まずこの3品を頼めば間違いなし。

餃子は水餃子で、メニュー表に「極上黄金出汁と喰う」と謳うとおり、汁も一緒に味わってもらいたいとの思いから、「汁餃子」と命名。カツオ節、昆布、煮干し、椎茸などで取ったスープが美味で、餃子の持ち味をグッと引き立てている。餃子のあんは、豚バラ肉、ラム肉、オキアミ、野菜などを使用。そのまま食べてもおいしいが、卓上に用意された醤油麹、椎茸塩、酢、赤酢を好みで加え、“味変”を楽しめるように工夫されている点も、またうれしい。

2つのお椀に盛られて出てくる、「汁餃子」780円。卓上の4種の調味料で“味変”も楽しめる。

“つまみ焼きそば”の「焼麺」

続く3大名物は、「焼麺」。いわゆる焼きそばだが、そう謳わないところに独自の主張が表われている。オープンキッチンの鉄板で調理するため、シズル感も抜群。麺は事前に蒸して水分をとばし、熱々の鉄板で焼き上げる。パリッとして、食感のある麺が特徴。ウスターソース、濃口醤油、オイスターソース、山椒などで作った深みのあるソースが、ちぢれ麺と巧みにからまり、濃厚な味わいで酒がすすむ。まさに、酒のつまみにぴったりの焼きそばだ。

「焼麺」600円。具は好みでトッピングする。写真は「豚バラ」「空芯菜」(各250円)を加えたもの。

ソースが選べるプレーンオムレツ風「焼玉子」

3大名物のトリを飾るは「焼玉子」。そう、同店流の玉子焼きである。玉子焼き用のフライパンではなく鉄板で焼いて作る、トロットロのプレーンオムレツ風のメニューだ。溶いた卵を鉄板に流し、四方を折りたたみながら形を整えていく。その鮮やかな手さばきを見ているだけで、おいしさがビンビン伝わってくる。こちらも「えび」など、好みの具材をトッピングできる。 味つけは、スパイストマトソースと黒酢オイスターソースの2種のソースが選べるので、好みの味をチョイスしよう。

「焼玉子」600円。写真はスパイストマトソースをかけ、「えび」300円をトッピング。

圧倒的ボリューム感の「アナゴの一本フライ」

同店自慢の3大名物を堪能してまだお腹に余裕があれば、ぜひとも体験したいのがおすすめメニューの「アナゴの一本フライ」。アナゴを丸々1本豪快にフライにしたもので、長すぎて器からはみ出してしまうため、半分に切って重ね盛りに。それでもまだ十分に長く、そのボリューム感に思わず圧倒されてしまう。タルタルソースがかかって出てくるが、素材に合うように一般的なパセリではなくディルを使用。このあたりも同店流の工夫のしどころだ。

「アナゴの一本フライ」1,400円。ガツンとお腹にたまるメニューとして重宝する。

「電気」ではなく、「電氣」の文字に込めた思い

同店はレモンサワーが大人気の、恵比寿の「晩酌屋 おじんじょ」が手がけた2号店。入口の扉に貼られた「おじんじょ」と書かれたステッカーは、分かる人には分かる同店ならではのサインである。そして、飲食店らしくない「高丸電氣」の名前の由来は、店主の高丸聖次さんのお父さんが手がける会社の名前を拝借したもの。そちらは「高丸電気」と書き、「電氣」ではなく、「電気」となっている。高丸さんが「電氣」の文字を採用したのは、「氣」の中に「米」の字が使われていることから、実に飲食店らしいと感じたためである。

日本人だけでなく、海外からやってきた人にも楽しんでもらえる、無国籍感のあるひねりをきかせた居酒屋。体から発する「氣」のように、目に見えぬエネルギーが充満した店。ここに来れば、誰もが元気になれる。そんな「大人の秘密基地」が、「高丸電氣」なのだ。

写真左から、店主の高丸聖次さん、笹原南帆さん、堂山友里愛さん、國土沙季さん。

【本日のお会計】
■食事
・お通し 350円
・汁餃子 780円
・焼麺 600円
・豚バラ 250円
・空芯菜 250円
・焼玉子 600円
・えび 300円
・アナゴの一本フライ 1,400円
■ドリンク
・小瓶麦酒 500円
・六代目百合のわりもと 1,000円
合計 6,030円

※価格はすべて税抜

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2020年11月18日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:印束義則(grooo)

撮影:玉川博之