【2019年の食トレンドを振り返る・後編】グルメ大国ニッポンの進化を見せつける「ワンオペ・レストラン」「スパイス料理」「高級食パン」「高級店のセカンドライン」の4つのキーワード

明るく楽しい話題ばかりだった2019年のグルメ業界。そんな、今年の食トレンドを全3回に分けて振り返るこの企画。1「タピオカ」、2「台湾グルメ」、3「香港グルメ」、4「日本人シェフ中華」の4つのトレンドを紹介した前編 、5「テイクアウトグルメ」、6「プチプラでも本格派」、7「洋食・純喫茶で昭和回帰」、8「高級寿司からの町寿司ブーム誕生」を紹介した中編に続き、後編もいざプレイバック!

【トレンドその9】一人だからこそ深まる魅力、広がる世界「ワンオペ・レストラン」

従業員一人ですべての仕事をこなすワンオペレーション。元々は比較的マイナスイメージのある言葉でしたが、ここ最近は従来とは少し異なる意味でも使用されるようになりました。それが10席程度のキャパシティでシェフ独自の世界を構築するワンオペ・レストラン。

「ムーグルモン」の「エレゾ社の北海道短角牛のランプ」(写真手前)、「サカエヤの岩手県雫石の短角牛のサーロイン」(写真奥)/撮影:飯貝拓司

例えば、熟成牛肉とヴァンナチュールが自慢のビストロ「meuglement (ムーグルモン)」は、基本的に中森隆司シェフがひとりで切り盛りするためコの字形カウンターを採用。滋賀県「サカエヤ」や北海道「エレゾ社」などから仕入れる上質な肉を、独自の火入れ方法で仕上げることで評判となり、2月14日のオープン直後から早くも人気店となっています。

 

「ボトルス 」の「オマール海老のラビオリ そのスーゴと3種のナッツ」/撮影:玉川博之

新国立競技場の完成で注目を集めるエリア、“ダガヤサンドウ”(千駄ヶ谷と北参道近辺)のイタリア料理店「ボトルス (Botrus)」もワンオペ・レストランのひとつ。本場のミシュラン星付き店で腕を磨いた稲川信太郎シェフが、南イタリア料理をベースに自由な発想で料理を提案。ワインとのペアリングまでシェフ自らがアテンドするなど、個性的ながら居心地の良い雰囲気を作り出しています。

 

【トレンドその10】腕利きのスパイス・マスターたちが新境地を開拓中!「スパイス料理」

「SPICE LAB TOKYO」のコース一例/写真:お店から

従来のイメージを覆すという点で話題が豊富だったのはユニークなスパイス料理。11月16日、銀座にオープンした「SPICE LAB TOKYO(スパイス ラボ トーキョー)」はモダンインディアンキュイジーヌと銘打ち、多様なインド文化をコース仕立てでエレガントに表現。スパイスの香りが立ち込めるスタイリッシュな空間で、革新的な料理が楽しめると大きな反響を呼んでいます。

 

 

いっぽう12月3日にオープンした「テイクカリー (takeCURRY)」は、切り干し大根や金平ごぼうといった日本独自の惣菜にスパイスの香りをプラス。セルフスタイルでサラダやライス、スープなどと一緒に皿に盛り付け、混ぜ合わせることでカレーとして完成する趣向です。

「テイクカリー」の「惣菜プレート」/写真:お店から

メニューの監修者はスパイスの達人として有名なシャンカール・ノグチ氏。まだ考案されたばかりのスパイス惣菜ですが、ここから世の中に広まりそうな予感がします。

 

【トレンドその11】一風変わったセンスが光る、その仕掛け人とは? 「高級食パン」

2019年、各所で行列を作り出し、大きなムーブメントとなったのが高級食パン専門店。その火付け役の一人といわれるのが、ベーカリープロデューサー岸本拓也氏です。「考えた人すごいわ」「これ半端ないって!」「うん間違いないっ!」といったインパクト抜群のネーミングで世間の目を集めつつ、上質な食パンで多くのファンを獲得し続けています。

「どんだけ自己中」の「自己中な極み」/写真:お店から

4月6日、荻窪にオープンした「どんだけ自己中」も行列店の仲間入り。国産バターや生クリーム、京都の老舗「金市商店」の蜂蜜など、自己中なまでに素材を厳選したという食パン。芳醇な香り、きめ細かな食感、深い味わいが楽しめます。2斤サイズで800円(税込)と聞くと最初は高級に感じますが、満足感を考えれば妥当なお値段。味わううちに段々と普通の食パンでは満足できなくなるかも!?

 

【トレンドその12】名店のセカンドラインが続々登場。高嶺の花が手の届く距離に「高級店のセカンドライン」

ここ数年、相次いでフードビジネスに参入している大手アパレル会社。2019年、特に注目を集めたのは、オンワード樫山が手掛けた4月2日オープンの代官山の複合施設「KASHIYAMA DAIKANYAMA」です。

きゅいそん
コースメニューの一皿   出典:きゅいそんさん

フードの監修者は、故ジョエル・ロブションの愛弟子でフレンチの鉄人としても知られる須賀洋介シェフ。麻布台にある須賀シェフの店「SUGALABO」は紹介制レストランであり予約も数ヶ月待ちと、ハードルがかなり高いですが、新施設のメインダイニング「COTEAU. (コトー)」であれば、プリフィックスコースが6,900円 (税込)で楽しめる気軽さ。須賀シェフの盟友、ニューヨークのロブション出身である松田歩シェフが腕を振るいます。

 

「鮨 いつみ」の「希少部位 鮪の突先剥き身と礼文の雲丹の握り」/撮影:玉川博之

人気店の味を気軽に、という点では9月1日にオープンした赤坂見附「鮨 いつみ」も要チェック。こちらは恵比寿「鮨 くりや川」の2号店で、若手育成の場を兼ねているため本店よりもリーズナブル。肩肘張らずに上質な江戸前の仕事が楽しめるとあって、寿司屋に通い慣れていない若者からも大きな支持を得ています。

 

2020年は、どんなグルメとの出合いが待っている?

常に新しい料理や業態が生まれ、新陳代謝を繰り返しながら洗練され続けている日本のグルメ界。せっかく世界を牽引するグルメ大国で暮らしているのなら、謳歌したいもの。2020年からも新しい美食を追いかけていきましょう!

 

文:佐藤潮