【2019年の食トレンドを振り返る・中編】「テイクアウトグルメ」「プチプラでも本格派」「洋食・純喫茶で昭和回帰」「高級寿司からの町寿司ブーム誕生」のキーワードから読み解く食の多様化

明るく楽しい話題ばかりだった2019年のグルメ業界。そんな、今年の食トレンドを全3回に分けて振り返るこの企画。1「タピオカ」、2「台湾グルメ」、3「香港グルメ」、4「日本人シェフ中華」の4つのトレンドを紹介した前編 に続き、中編も、いざプレイバック!

【トレンドその5】消費税増税によりサービスも多様化「テイクアウトグルメ」

2019年10月から、消費税が8%から10%にアップしましたが、それにともない開始された軽減税率制度により「酒類や外食を除く食品全般」は8%のまま。テイクアウト需要の高まりが予想されたことで、新しいサービスが続々と登場。例えば、お店に行く前に注文と決済ができる「食べログテイクアウト」「menu」といったスマートフォンアプリが代表的です。

写真:Getty Images

ほかにも月額12,000円(税抜)で最大30日分のランチが購入できるなど、定額制のテイクアウトサービスを打ち出しているのが「POTLUCK(ポットラック)」。1食あたり400円(税抜)〜と、手頃な料金であるうえ、ランチタイムの行列も回避できる仕組み。どのサービスもまだまだ利用エリアは限られていますが、軽減税率制度の後押しもあって今後は全国的な広がりを見せそうです。

【トレンドその6】高級店の味を手軽に味わえるレストランが続々「プチプラでも本格派」

「安かろう悪かろう」といわれた時代はとっくに過去。安くておいしいもので溢れる昨今ですが、2019年は特に顕著な店の登場が相次ぎました。

本日の厳選新鮮魚のポワレ
「Le Marais(マレ)」の「本日の厳選新鮮魚のポワレ」/撮影:玉川博之

5月7日、浅草橋にオープンしたビストロ「Le Marais (マレ)」は、パリの三つ星レストラン、アラン・デュカスで経験を積んだ水流達也シェフのお店。フランスの伝統的な技法を巧みに扱いながら、“引き算”という日本らしい味付けで仕上げる本格料理のお値段は、なんと居酒屋並み。アミューズ、前菜、メイン、プチデザートまで付くプリフィックスのディナーコースが2,500円(税抜)から揃います。

 

「チャイニーズバル ゆずのたね」の「四川火鍋もつ煮」/撮影:松村宇洋

いっぽう6月18日にオープンしたのは「広尾はしづめ」をミシュランの星獲得に導いた料理長、初見直人シェフによる「チャイニーズバル ゆずのたね」。高級中華と同様に手間暇を惜しまず、上質な香辛料で巧みに作り上げる小皿料理は100〜500円程度と驚きのプライス。朝締めの新鮮モツなど安くて美味しい素材を使った創作中華が、大衆店よりもお手頃な価格で楽しめます。

 

【トレンドその7】今年オープンの最新商業施設内にも参戦!「洋食・純喫茶で昭和回帰」

数年前から昭和レトロなお店が若者から人気を集めるようになった影響は、最新の商業施設にも広がっています。11月22日にリニューアルオープンした渋谷パルコ、地下1Fの飲食店街はカオスキッチンと名付けられており、ごった煮的な昭和の雰囲気が漂います。

ホクホク
「はまの屋パーラー 渋谷パルコ店」の「玉子・サンドゥイッチ」   出典:ホクホクさん

なかでも昭和の純喫茶そのものなのが「はまの屋パーラー 渋谷パルコ店 (HAMANOYA Parlour)」。店内はノスタルジックなアイテムばかりで、カウンター席の上にはお馴染みのルーレット式おみくじ器まで完備。50年以上の歴史を受け継ぐ「玉子・サンドゥイッチ」の味わいも評判です。

 

「o/sio」の「ナポリタンを越えたナポリタン」/撮影:岡本寿

いっぽう昭和系の洋食を取り入れた新しいアプローチに挑戦しているのが、ミシュランガイド東京2020の一つ星を獲得した「sio (シオ)」の鳥羽周作シェフ。10月10日オープンの新店「o/sio」にて提供している「ナポリタンを越えたナポリタン」1,000円(税抜)という新メニューが話題に。喫茶店の定番である親しみやすい魅力はそのままに、生クリームやバターにより味を高めているそうです。

 

みすきす
「純洋食とスイーツ パーラー大箸」の「牛タンシチュー」   出典:みすきすさん

12月5日にグランドオープンした東急プラザ渋谷には、鳥羽シェフ監修の「純洋食とスイーツ パーラー大箸」がオープン。純洋食と銘打つだけあり、ナポリタンだけでなく欧風チキンカレーやミートドリア、牛タンシチューなど定番メニューがずらり。こちらも懐かしさのなかに上質でモダンなエッセンスが加えられています。

 

【トレンドその8】寿司バブルの東京で産声を上げた新たな寿司ジャンル「高級寿司からの町寿司ブーム誕生」

11月26日に発表された「ミシュランガイド東京2020」で注目を集めたのは「すきやばし次郎」と「鮨 さいとう」。どちらも日本を代表する寿司の名店であり、長きに渡り三つ星を獲得していましたが「一般客の予約ができない」という理由で評価の対象外に。寿司バブルと呼ばれるほど、予約困難な高級店が増えている状況を象徴するニュースとなりました。

「鮨 さえ喜(さえ㐂)」の「小鯵」/撮影:大鶴倫宣

いっぽう大阪・北新地の店を閉めて東京・銀座に移転したのが、関西ナンバーワンとの呼び声も高かった「鮨 さえ喜 (さえ㐂)」。大将の佐伯裕史さん自ら、日本屈指の激戦区で新しい挑戦を開始しています。まだ移転したばかりのためミシュランガイド東京2020では評価の対象外でしたが、来年は「すきやばし次郎」や「鮨 さいとう」の空いた席を埋めることになるのでしょうか。現状、東京で三つ星の寿司屋は「鮨 よしたけ」だけになっていることもあり、今後の行方も気になるところ。

 

 

そんな中、新たに誕生したのが、地元の人々から長く愛され続けている町の寿司店を意味する「町寿司」ブーム。下町に佇む名店のイメージが強いジャンルではありますが、実は都心にも穴場が。

「寿司文」の「恵比寿丼」/写真:鈴木拓也

その代表格と言えるのが恵比寿にある「寿司文」です。創業63年の老舗ならではの落ち着きのある店内でじっくりと握りを味わうひとときは、至福の時間。しかもこちらには、ランチ限定10食の「恵比寿丼」なる名物も。さらに、今年の3月5日には、根津に「鮨 正治」という新星も登場し、来年以降も要注目の寿司ジャンルとなるのではないでしょうか。

 

手軽さと便利さもあいまって、ますます高まる食業界の多様性から目が離せない!

手軽な価格でクオリティの高い美食が楽しめるお店が増えることで、観光地としての価値もアップ。インバウンド需要の高まりで高級店の人気も増加し、磨かれた技術や手法が庶民的なお店にも波及する、といった循環が生まれている様子。日本のグルメ業界は、良い意味で二極化しながら発展しているように感じます。

 

文:佐藤潮