11月の開店直後から満席続きの人気店

賑やかな三軒茶屋の茶沢通りを曲がり少し進んだ住宅街に、ピンク地に白抜きで「29」と書かれた看板が登場する。2019年11月1日にオープンした「大阪タレ焼肉 まる29(まるふく)」だ。大阪出身のオーナーが子どものころから慣れ親しんできた、老舗焼肉店のタレを受け継いだコースのみの焼肉店だ。

まる29看板
三軒茶屋駅から徒歩5分。住宅街の入り口に出現する看板。

コースはすべて飲み放題付き。おすすめは「まる金コース」

「まる29」にはメニューが3つしかない。コースのみの提供で、キムチやナムルなどの前菜から始まり、盛り合わせを含む焼肉3~4種類と食べ放題のご飯、スープ、飲み放題などが付く。
おすすめは、単品でも頼みたいという人も多い「馬肉のユッケ」がついた「まる金コース」(10,000円)。8,000円の「まる銀コース」、限定10食の6,000円「まる銅コース」とは異なり、「京都祇園の米料亭 八代目儀兵衛」による、まる29オリジナルブレンド米の土鍋炊きご飯が付いてくる、ワンランク上のコースだ。

土鍋炊きご飯がつくのは、「まる金コース」10,000円のみ。

「まる金コース」にしかない「馬肉のユッケ」は、とろけるおいしさ

コレがあるから絶対に「まる金コース」を選ぶという人も多いのが、「馬肉のユッケ」だ。キムチやナムルの後、肉料理の最初、先制攻撃にふさわしい一品となっている。
馬肉は赤身部分を使い、コチュジャンとごま油で和えているので、香りとコクがある。まずは、黄身を絡めずにそのまま。次に黄身を絡めて食べると、とろりとした食感が口の中に広がり、クセになりそうなおいしさに思わず笑みがこぼれてしまう。

まる29 馬肉のユッケ
実はヘルシーな馬肉。「まる金コース」にしかつかない逸品(写真は4人前)。

門外不出。揉みダレとつけダレ、秘伝の2つのタレが生み出す相乗効果

……と、最初に肉の紹介をしてしまったが、同店の根幹を成しているのは、実は肉ではなく「タレ」だ。コースで提供される肉のすべてが、「タレに合うか」を基準に選ばれている。加えて、食べ放題となっているガス炊きご飯も、「まる金コース」のみで提供している土鍋炊きご飯も、「肉に合う」ではなく、「タレに合う」米を選び、タレと一緒に食べたときにおいしいと感じる炊きあがりになるよう調整している。

そこまでこだわっているタレは、大阪鶴橋で50年の歴史を持つ「まるはん」のもの。オーナーが幼少の頃から食べていた味だという。大人になり、数多くの焼肉屋を訪れるようになっても「まるはん」の焼肉が一番おいしいと通い続けた味だそうだ。

まる29 秘伝の揉みダレ
コースのタン塩以外はすべてタレ肉。焼く前に揉みダレをたっぷりと絡ませて焼き、つけダレで食べる。

東京で飲食店をオープンするにあたり、「やるのであれば、まるはんのタレで焼肉屋をしたい」と思っていたオーナーが4年をかけて「まるはん」のご夫婦にお願いし、譲り受けたタレなのだ。

タレは揉みダレと、つけダレの2種類があり、揉みダレは自然な甘みで肉をやさしく包み込んでいる。つけダレには酸味があり、甘めに焼きあがった肉をつけると、口の中にタレの甘みはほとんど残らない。脂が程よく中和され、さっぱりと食べ進めることができる。焼肉好きのスタッフが言う、「まかないで毎日食べているけど、全然飽きない」理由は、この酸味だといえる。

まる29 つけダレはさっぱり
つけダレは酸味があるためさっぱりしていて、いくらでも食べられそうだ。

タレ焼肉をたっぷり堪能できる盛り合わせ

馬肉のユッケ、タン塩に続き出てくるのが「タレ肉の盛り合わせ」。ミノやテッチャン(大腸)、ハツなどのホルモンのほか、宮崎牛ロースとハラミの5種類が盛り付けられ、どれもタレでいただく。ホルモンや宮崎牛ロースの脂とタレの絡みが絶妙だ。

ところで「まる29」では、焼肉とご飯を楽しんでもらいたいとのことから、ご飯は食べ放題となっている。「まる金コース」では土鍋炊きご飯も付き、コースのスタートと同時に炊き始める。提供は炊き上がり次第なので、その日の混雑状況によって変わってくるが、盛り合わせか、この後の「健康和牛あか牛ロース」あたりで出てくるので、ぜひともお肉と一緒にご飯を食べてほしい。

まる29 盛り合わせ
「まる銀コース」は並ハラミだが、「まる金コース」では特上ハラミにランクアップ。そのほかの肉もすべて質の高いものになる(写真は6人前)。

タレに合うから選ばれた「健康和牛あか牛ロース」

同店のお肉のイチオシが「健康和牛あか牛ロース」。熊本県産のブランド牛で、放牧で育てられている、健康的な和牛だ。肉質は赤身が多く、タウリンが多く含まれていることからヘルシーなのが特徴。クセが強すぎない味わいで、そのまま塩で食べると「ステーキのほうがおいしいかな」といった味わいになる。ところが、同店のタレと合わさることで、一気に肉のうまみが際立ってくるのだ。

まる29 健康和牛あか牛ロース
「タレに合う肉」を基準に選ばれた「健康和牛あか牛ロース」。

「京都祇園の米料亭 八代目儀兵衛」によるオリジナルブレンド米を土鍋でいただく

同店がもうひとつ力を入れているのが米だ。焼肉のお供、パートナーともいえるご飯をよりおいしく食べようとタレに合う米を探した結果、オリジナルブレンド米が誕生した。それを手掛けたのが、京都祇園に店を構え、銀座にも出店している「京都祇園の米料亭 八代目儀兵衛」だ。

「まる29」では、このオリジナルブレンド米を、「まる金コース」に限り「土鍋炊きご飯」で提供している。「八代目儀兵衛」では、寿司屋など他店にもオリジナルのブレンドを提供しているが、京都本店、銀座店と同じ土鍋で食べられるのは、焼肉屋では「まる29」だけだという。

まる29 土鍋ご飯
土鍋も「八代目儀兵衛」と同じものを使用。土鍋ならではの香りと食感が食欲をそそる。

なお、「まる金コース」でも土鍋が出てくるのは最初の1回。その後は、「まる銀コース」と同じく「ガス炊きご飯」が食べ放題となる。もちろん、ガス炊き用の米も「八代目儀兵衛」オリジナルブレンド米で、土鍋用とは別にガス炊き用のブレンドになっているという徹底ぶりだ。

まる29 土鍋ご飯
重い土鍋ご飯を運んでくるのは筋肉ムキムキの元アスリート。元Jリーガーの彼がなぜここで働いているのかは、後半で紹介。

〆の焼肉はしゃぶ焼きで。さらにしゃぶ焼きのせご飯が最高

焼肉の締めとなるのは「しゃぶ焼き」。この日は、宮崎牛のリブロースが提供された。しゃぶしゃぶ用にスライスされているので、1枚ずつではなくタレをたっぷりと肉に絡ませて豪快に七輪で焼き上げるのがコツ。少し、焦げ目がつくくらいがおすすめだ。

まる29 しゃぶ焼き
人気のしゃぶ焼き。七輪に豪快にのせて、一気に焼くのがコツ。(写真は2人前)

「しゃぶ焼き」はそのまま食べることもできるが、ぜひご飯にのせて、「しゃぶ焼き丼」で食べてほしい。もちろん、ご飯にのせる前につけダレに絡ませることをお忘れなく。このころになると、コメ好きの人なら土鍋ご飯がなくなってしまっているかもしれないが、ガス炊きでも十分おいしいので、チャレンジしてみよう。
なお、「まる金コース」であれば生卵を注文できるので、すき焼きのように食べるのもいいだろう。

さらに、お腹に余裕があるなら、小皿に残ったタレも忘れずに。これまで焼いてきた肉の脂がブレンドされたタレを直接ご飯にかければ、それだけで軽く1杯はイケてしまう。この際、お行儀は気にせずに、おいしいものを追求しよう。

まる29 しゃぶ焼きのせご飯
しゃぶ焼きは、ご飯の上にのせて。肉の甘みとタレの酸味、ご飯の旨味が互いを引き立てあう絶品丼。

もうひとつのコンセプト、アスリートを支援する焼肉屋

「まる29」が注目されているのには、タレ焼肉本来のクオリティの高さに加え、そのコンセプトにある。
オーナーの知り合いにアスリートが数多くおり、引退後のキャリアアップを手伝っている側面があるのだ。ほんの一握りの人しか立つことのできないトップアスリートの地。それでもいつかは、必ず引退の日はやってくる。これまでスポーツ1本で突き進んできたアスリートたちに、飲食業を経験してもらうことで接客や店舗経営を学んでもらう。オーナーはもちろん、同店に通うお客たちもアスリートを見守り、応援し、支援できる。スポーツの分野で感動と興奮を分け与えてくれたアスリートたちへの、感謝の気持ちを形にできるチャンスが、この店にはあるのだ。

まる29 出入口
店には現役、引退した選手問わず、多くのアスリートが来店。色々なアスリートにバッタリと会えるかもしれない。

満員御礼続出。事前予約をお忘れなく

アスリートのスタッフがいる店だからというわけではないが、店内には42インチのテレビがあり、スポーツ観戦も可能。また、飲み放題メニューにないワインなどは、料金不要で持ち込みができる。ワイングラスは用意されているので、ちょっとしたお祝いにも使い勝手がよさそうだ。お肉のケーキや誕生日デコレーションなどにも対応してくれ、別途料金になるもののシャンパーニュの用意も可能だという。

まる29 店内2階
早くもできた常連客たちに人気の2階。店内のテレビでスポーツ観戦もできる。

11月のオープン以降、口コミで噂が広がり、すでに大盛況の日が多いとのこと。ただ日によっては空きがある日もあるとのことなのでお気軽に問い合わせてみては。なお、おすすめのまる金コースは、事前予約のみの受付になっているのでお忘れなく。

まる29 店内1階
1階には、カウンターとテーブル席、三方に壁がある円卓席がある。

現在、店で働くアスリートは2人。オープンしたての同店とともに、どのように進化していくのかが楽しみだ。

 

※価格はすべて税込

 

取材・文:岡崎たかこ(grooo)
撮影:松村宇洋