心ゆくまでジビエの海に溺れたいあなたへ。今おすすめの3店はここ

今年もまた、本格的なジビエの季節がやってきた。狩猟解禁日の11月15日から翌年の2月15日までの3ヶ月間が、いわば猟期(北海道は10月1日~翌1月31日)で、その期間中でも、冬の寒さや冬眠に備えて餌をたくさん食べ、身体にたっぷりと脂肪を蓄えているちょうど今頃が、ジビエの一番おいしい時期。そうまさにジビエシーズン真っ盛りというわけだ。そこで、今回は、この年末に是非とも食べに行くべきジビエの名店を紹介しよう。

1. 肉の巨匠の下で長年にわたり研鑽を積んだシェフが待望の独立店をオープン「銀座 大石」

「ジビエの魅力、それはやっぱり季節感ですね。もちろん、野性味溢れる味わいも魅力のひとつですが、“今年もまたジビエを扱う季節になったんだなぁ”という思い。これはフレンチに携わる人間にとってちょっとした喜びでもありますね」。満面の笑顔でこう語るのは、今年の9月2日、満を持して独立を果たした「銀座 大石」の大石義壱シェフだ。

ryochan2
写真左上の「パテアンクルート」は、山うずらと山ばと、トリュフのテリーヌに発酵バターたっぷりのサブレ生地で巻いて焼き上げた一品。   出典:ryochan2さん

肉の巨匠として知られる「北島亭」の北島素幸シェフの下で16年、研鑽を積んだ実績の持ち主だけに、肉料理はお手のもの。現在、レストランで出しているジビエは、山うずらと山ばとを使用した「パテアンクルート」や、新潟の網どりの青首鴨など。大石シェフによれば「網どりの鴨は、弾の損傷がなく血を流さずに捕獲できるため肉に血が回らずに済むんです。だから、臭みもなく肉の味も損なわれない」のだとか。

ryochan2
アロゼした青首鴨   出典:ryochan2さん

加えて、鴨が餌を食べに行く前の夕方に捕獲するため、内臓に何も残っていないことも臭みが出ない理由のひとつだ。大石シェフは、この上質の青首鴨をフライパンで丸ごと一羽のままアロゼ(油をかけながら焼き上げる調理法)。焼く位置を少しずつ変えながら細やかな火入れを施していく。

 

そして、最後は炭火。モモ肉はしっかり焼ききるように、一方、ムネ肉は皮目をパリッ、身はしっとりと仕上がるよう巧みに焼き分けている。美しいロゼ色に焼き上げられた鴨は、きめ細かな肉質から滲み出る肉汁も美味。鉄分の旨みに溢れている。ソースはサルミ、鴨のジュなどその時々のコースの構成具合で変えているそうだ。

 

※青首鴨は、おまかせ25,000円(税・サービス料別)のコースの一品。

 

2. 食い道楽が集う名店のジビエ料理は紛うことなき絶品「ビストロ・シンバ」

さて、お次は食いしん坊にはつとに知られた名店「ビストロ・シンバ」。場所は限りなく新富町に近い銀座一丁目。オーナーシェフの菊地佑自氏は、フランスで10年にわたり、地方の星付きレストランから郷土料理店、パリで(当時)話題のビストロノミーまで幅広く研鑽を積んだ実力の持ち主だ。

きゅいそん
「鳩のロースト」   出典:きゅいそんさん

ジビエに関しても“腕に覚えあり”で、現在、お店の黒板メニューを飾るジビエの数々は、「フランス産山うずらのロースト」に「スコットランド産雷鳥のフォアグラファルシ」、そして北海道から届く「ヒグマのロースト」などなど。ジビエといえば熟成が常套の手法だったものだが、近頃は、あまり熟成させずに調理する料理人が増えてきたようで、菊地シェフもこう語る。

 

「(熟成期間は)基本的に2週間と思っています。ただ雷鳥だけはもともと独自の香りが強いのであまり熟成はさせませんね。対してヒグマは、ある程度ねかした方が良いように思います。捕れたては、やはり硬いですから。うちでは、エレゾ社(狩猟や生産から加工、販売・提供まで一貫して自社で行う企業)で2〜3週間置いたものを送ってもらっています」。更に、鳥類の熟成の仕方については、腸をつけたまま熟成させるか、取り除くかなど細やかな配慮を施している。

「フランス産山うずらのロースト」

例えば、「ペルドロー」こと山うずらは、腸の香りがまわりすぎるため取り除いて熟成させているそうだ。それを丸ごと一羽ローストして豪快にカット、骨つきのままテーブルに運ばれてくるそのさまも実に壮観。ジビエならではの逞しい香りが、鼻腔と胃の腑を直撃する。

 

淡白ながらも滋味豊かなムネ肉、野生特有の力強い旨みと風味が口中を覆うモモ肉や手羽、止まらない旨さに思わず笑みがこぼれる。もうソースは入らない、と思えるほど肉の味がダイレクトに舌を凌駕する醍醐味。これぞジビエの本懐だろう。

 

3. シェフ自ら仕留めたジビエをフルコースで堪能できる「ブラッスリー ギョラン」

オーナーシェフ自ら狩猟に出かけ、仕留めたジビエを食べさせてくれるのは、八丁堀「ブラッスリー ギョラン」だ。同店の羽立昌史シェフは、狩猟歴10年の大ベテラン。そんな羽立シェフの獲物がメニューを賑わすこの時期、多くのジビエファンが押し寄せる。休日となれば狩りに出かける羽立シェフ。

やっぱりモツが好き
「シェフ狩猟 茨城産カルガモ」   出典:やっぱりモツが好きさん

「先日も茨城で小鴨や青首鴨、カルガモなどを仕留めてきました」とニコニコ顔。戦果の青首鴨はローストしてサルミソースに仕立てるなどダイナミックかつクラシックな手法で楽しませてくれる。

「色々なジビエとフォアグラのテリーヌ」
「色々なジビエとフォアグラのテリーヌ」   写真:お店から

また、ジビエファンなら見逃せないのが、同店の「ジビエフルコース」だ。「穴熊のベーコン有機野菜のマリネ」に始まり、「色々なジビエとフォアグラのテリーヌ」「蝦夷鹿のダブルコンソメと季節のキノコのパイ包み焼き」「シェフ狩猟 カルガモ」「野うさぎのロワイヤル」または「月の輪熊の手のビール煮」+1,500円または「べキャス(山シギ)」+2,500円、加えて「デザート」「コーヒー」という充実の内容。

写真:お店から

一度にこれだけバラエティ豊かなジビエを味わえる店は、都内広しといえどそうそうない。しかも10,000円の良心価格。もちろんアラカルトもあり、岡山産イノシシのモモ肉や北海道産蝦夷鹿モモ肉、シェフの友人が仕留めた茨城産の日本キジなど常時10種余りがスタンバイしている。

 

※価格はすべて税抜

 

 

教えてくれた人

森脇慶子

「dancyu」や女性誌などで広く活躍する料理ライター。毎日、取材はもちろん、プライベートでもひたすら食べ歩き、特に夏の鮎食いは伝説と化しているほど有名。フカヒレを始めとしたコラーゲンものも語らせると尽きない。最近は、血の濃い味にもうえている傾向あり。著書に「東京最高のレストラン(共著)」(ぴあ)、「行列レストランのまかないレシピ」(ぴあ)ほか。

 

取材・文:森脇慶子