外食力の鍛え方〜客上手になろう〜

『焼肉ジャンボはなれ』出典：東京ホルモンズさん

いい焼肉屋とは、どんな店だろう？
雑誌やネットを見ると、「A5肉を使用！」「松坂牛」「牛一頭買い」「こだわりの新鮮な黒毛和牛カルビが750円！」「熟成肉焼肉」「極上黒毛和牛満載！」といった文句が踊って、僕らを誘う。「いい焼肉屋とは？」と考える前に、焼肉屋とはどういう料理店かを、もう一度整理してみよう。

焼肉屋とは、「最終調理を客が行う」という、非常に珍しい形態の料理屋である。
レストランは、調理済みの料理を提供する場所だが、焼肉屋ではお客さんが肉を焼いて、初めて食べることができる。同じようなシステムは、一部のお好み焼き屋か鍋料理屋しかない。

これはいくらいい焼肉屋であっても、最終的なおいしさに差が出ることになる。なぜなら、「肉を焼く」という知識と技術が、お客さんによってばらつきがあるからである。

つまり、どんなタイプのお客さんが来ても楽しんでもらえるように、肉を整えておくのが、いい焼肉屋ということになる。

『ゆうじ』出典：サプレマシーさん

例えば、いくら高級で質の高い肉を用意していても、肉の厚さや大きさがバラバラだと、一斉に四人が四切れの肉を焼き出したらばらつきが出てしまう。一人で焼く場合も、この厚い肉はもう少し焼くけど、薄いやつはもう食べどきだというメンドーな判断をしなくてはいけない。元々焼肉屋の肉が薄切りなのは、肉焼きの素人であるお客さんが焼きやすいからなのである。

つまり焼肉屋の本質とは、いい肉を揃えておくのは最低条件であって、そこから先の仕事にある。

焼くという最終的プロセスの手前で、「どういう配慮が必要で、その結果として焼いて口に入る瞬間にやさしさが生まれるか」ということを、常に考えている「客目線」の焼肉屋が「いい焼肉屋」なのである。

どのようにカットしたら焼きやすいのか。どの厚さや大きさで揃えるのがベストか。内臓はそれぞれどの部分が一番食べやすく、おいしいのか。焼肉でご飯を食べるお客さんと、酒を飲むお客さんでタレを変え、脂がのった肉と赤身肉ではタレや味付けを変えるべきか。

どうしたら簡単に焼きやすく、おいしい焼肉になるか、焼き台も考慮する。どのお客さんがどうやってもいい状態になるような平均値をとること、そのバランスの良さが、いい焼肉屋の仕事なのである。肉の品揃えや肉の銘柄にばかり目を奪われてはいけない。と言っても、焼肉初心者はわからないだろう。

ということで、見分ける方法を伝授しよう。（基本お客さんが焼く焼肉屋です。あくまで基本で、例外もあることを忘れずに）。

いい焼肉屋を見分ける6つの方法

『焼肉ジャンボはなれ』出典：devさん

1. カットされた肉の厚さや大きさがほぼ同じこと。

どのお客さんも焼く技術に関係なくムラなく焼ける。

2. 厚切り自慢をしていないこと。

厚切り肉は、焼肉ベテランでないと焼きにくい。つまり多くの人がそのポテンシャルを出せずに残念な結果になるケースが多い。

3. タレが２種類以上あること。

レモンダレや塩ダレはカウントせず、醤油ベースのタレが２種類以上あること。つまり部位や、食べ方（ご飯か酒の肴か）、好みによって使い分けることができる。客にも肉にも配慮が行き届いた仕事がなされているということ。

4. 熱源は、無難に行くなら、炭火よりガス。
炭火の方がうまく焼ける可能性は上がるが、火加減の強弱を判断するのが素人には難しいので、ガス火がいい。これには、もっと複雑な事情もあるので、第３回の実践編以降で詳しく説明しよう。

5. 無煙ロースター問題。
煙を焼いている面の脇から吸い込む無煙ロースタータイプの焼き台があるが、脇からビュービューと煙を吸わせて、全く煙が立たないようにしている店は、いい店ではない可能性が高い。

それでは肉が乾いて風味が飛んでしまい、おいしく焼けないからである。例えば焼いているすぐ横から、掃除機で煙を吸い取っている光景を想像してみよう。煙に抱かれない肉は、すぐ乾燥してしまう。温度も下がってなかなか焼けない。
仮に行った店がそうであったら、吸い込む勢い（速度）を最も弱めてもらうよう、店員に頼んでみよう。

6. キムチ、ナムルがおいしいこと。

しっかり発酵して旨みが複雑で深く、心地よい酸味を感じるうまいキムチを出す店は、焼肉もいい。

ナムルは作りたてが一番おいしい。野菜のみずみずしさがまだあるからである。何日も経ってしまっているナムルは、水分が抜けてくたびれ、味付けの味の方が勝ってしまっている。

以上「いい焼肉屋」の条件である。しつこく言うが、「いい焼肉屋」とは、いい肉を揃えていることだけではないのである。次回は肉を焼く前に知っておくべき基本をお届けする。

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