クセがなく柔らかい子羊

〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー! 食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは、口コミ数が少なかったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり、点数が上がると予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、まだまだ知られていないとっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はフードジャーナリストの小松宏子さんに、クラシックなフレンチレストランを教わった。

教えてくれる人

小松宏子

祖母が料理研究家の家庭に生まれる。広告代理店勤務を経て、フードジャーナリストとして活動。各国の料理から食材や器まで、“食”まわりの記事を執筆している。料理書の編集や執筆も多く手がけ、『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。Instagram:hiroko_mainichi_gohan

老舗出身のシェフが東中野にオープンしたフレンチ

国旗のカラーが印象的でキャッチーな看板

2021年の10月にオープンした「レストラン レスプリ ド シュヴァリエ」は、なんといっても、出自が素晴らしい。シェフも支配人も銀座の名店「銀座エスコフィエ」の出身だ。なにしろ、1950年に、戦後最初のフレンチレストランとして、銀座にオープンした老舗。店名の由来は近代フランス料理の父と称される、オーギュスト・エスコフィエの教えを守った料理を供するという、決意を込めての命名だそうだ。

東 正俊料理長

「レストラン レスプリ ド シュヴァリエ」の東 正俊料理長はそこで18年、支配人の安田 忍氏は32年それぞれ、そのエスプリを身に着けた。その伝統+円熟の技が、銀座の約半分の価格でいただけるのだから、これはうれしい。食べログ点数は3.08だが、はたしてその知られざる魅力とは?

※点数は2022年9月時点のものです。

ディナーでアミューズ、前菜、スープ、魚か肉、デザートの5皿コースが¥6,600~、また、ランチなら、スープ、前菜、魚か肉、デザートで¥3,300〜とリーズナブル。これは、フレンチ好きであれば試さない手はないという店だろう。

料理長の東氏に、伝統的なフレンチの素晴らしさについて聞いてみた。「やはり、ソースにつきると思います」と一言。「本来、ソースは、素材の鮮度が今のようによくないことをカバーするために、先人が知恵を尽くして考えだしたものです。濃厚で複雑で滋味深い味わいは、フランス料理の神髄。でも、輸送技術の発達などで、素材の鮮度が比べようもないほどよくなった今、時に素材の味を殺してしまいかねません。そこで、この店では、素材の持ち味とソースのおいしさの両方を生かした、進化した形での古典フレンチを目指しています」と言う。確かに、どの皿も、充分にコクや満足感がありながら、重くないのである。それが、鮮度×ソースという新しい試みでもあるのだろう。

そして「銀座エスコフィエ」といえば、ワインに対するこだわりでも知られ、フランスのワイン騎士団から叙任されたという歴史も持つ。その流れを汲むのだから「レストラン レスプリ ド シュヴァリエ」のワインはもちろん厳選されたフランス産が主体だ。ブルゴーニュもボルドーも豊富な品ぞろえを誇るが、価格帯が控えめなのもうれしい。また、隣のワインショップ(同経営)で購入して持ち込むことも可能と、良心的だ。

ディナーコースに合わせて、ペアリングも用意しているが、これは、駅近にワインバーも経営するオーナーとシェフ、支配人の3人で協議して決めるそうだ。せっかくの本格派フレンチを味わうのだから、ぜひ、ワインも店のおすすめに身をゆだねてみたい。