素材の旨みとソースが引き立つ逸品
ここでは、ディナーコースの中から、おすすめの2品と、ランチコースを紹介しよう。ランチの前菜は「海の幸のサラダ仕立て」。赤海老、帆立貝柱、ムール貝など、鮮度抜群の魚介に、エストラゴン風味のフレンチドレッシングをかけ、グレープフルーツのジュレをたっぷり添えている。「柑橘と魚介の相性を楽しんでほしい一皿ですね」とシェフ。
小松さん
グレープフルーツの酸味とほろ苦さが、鮮魚をきりっと引き立てて、ぐっと爽やかに仕上げてくれています。
次は、魚か肉かのチョイスになるメインディッシュ。魚料理は「鮮魚のプロヴァンス風」。本日の魚はイトヨリだ。3枚におろしたイトヨリの半分にはたっぷりパセリをあしらい、ブールブランソースで食べさせる。
小松さん
ブールブランはバター、エシャロット、白ワインなどで作る、フレンチの基本的なソースですが、円熟のシェフが作るそれには、陶然とさせられます。
肉料理は「岩手の“菜彩鶏”のきのこソース」。柔らかく、旨みが強い菜彩鶏をマリネしてからソテーし、モリーユ、舞茸、ジロールなど、その時に手に入るきのこを合わせた、フランス料理らしい一品。きのこ類は玉ねぎやにんにくとしんなり炒め、ワインを利かせて、芳醇なソースに仕上げてあり、鶏肉との相性抜群だ。「きのこ、鶏肉、香味野菜、ワインなど、すべての素材の旨みがソースに凝縮しています」とシェフ。
小松さん
きのこの季節でもある今、まさに食べたい一皿ですね。この濃厚な味わいこそ、フランス料理の神髄だと思います。
次は夜のコース料理の中の一例だ。前菜は「海の幸のトマト・ファルシー」。海老、帆立、いかをきくらげなどとリンゴソースであえてトマトの中に詰めた端正な一品。シャルドネワインにバジル風味をつけてソースに仕上げ、レースのように作ったトップにのせている。
小松さん
手の込んだ繊細な一皿に、シェフの誠実な仕事が感じられ、大変好感が持てます。トマトの酸味に食欲を刺激され、食事のスターターとしてもぴったりですね。
いよいよのメインディッシュは「仔羊のグリル ローズマリーの香り」。ローズマリーの香りをつけてマリネしたラムをシンプルにローストし、仔羊肉の魅力をストレートに引き出した一皿。付け合わせに万願寺唐辛子、カリフラワー、カブを添えて、カリフラワーとにんにくのソースでまとめている。
「すごくおいしい仔羊なので、余計な味はつけずにローストしました。そうしたあたりはフランス料理の古典とは変わっていますが、ソースでより豊かにという考え方は変わっていません」とシェフ。
小松さん
皿の上の構成そのものはシンプルですが、肉も野菜もそれぞれに力があり、それらを、野菜主体のソースでつないでいるところが、古典の中でも新しさを感じました。
古典を踏まえた上で、現代の求めるフランス料理のおいしさの表現に真摯に向き合っている、東氏。そうした料理を体感できるレストラン自体が少なくなってきている今、フランス料理の魅力の根源を知りに、ぜひ足を運んでみたい。