カウンター席から中華の手捌きが堪能できる

虎ノ門ヒルズにほど近い路地にオープンした「港式料理 鴻禧(こうき)」。店内に入り、個室のある細長い通路を抜けると最初に目に入るのが、カウンター席とそこから見渡せる厨房だ。
近年はフレンチやイタリアンで、カウンター越しのオープンキッチンが増えている。シェフの調理風景を見ながら、時に会話も楽しめるとあってカウンターから予約が埋まっていく店も少なくない。

カウンター席の目の前に厨房があり、調理風景を見ることができる。

しかし中華で、しかも中華鍋を振るうシェフの姿を正面から見られる店はまだそうそうないだろう。理由の一つに、中華ならではの火力がある。強い火力で一気に火を通していく中華は火力が高く、どうしても熱が伝わってしまう。

そこで鴻禧では、高い温度にも耐えられる耐熱のガラスを設置し、広めのカウンターを配置することで熱さを低減。調理風景を余すところなく楽しめるエンターテインメント性を実現させたのだ。

力強く中華鍋を握るのは、高級中華の名店・旧「福臨門酒家」や錦糸町でフーディ達を喜ばせた 「サウスラボ南方」で腕を振るった香港出身の料理人・Cham Chi Kwong、通称トミーさん。新たな店で、王道でありながらも新しい港式料理に挑戦していく。

コラーゲンたっぷり、フカヒレ&すっぽんの冬瓜スープ

一本 一 本が太く、品質の高いフカヒレを使用している。

鴻禧のメニューはコース料理が基本だ。それぞれ約10品で、Aコース(16,500円)、Bコース(27,500円)、吉品鮑コース(38,500円)の三つとなる。

基本のAコースにフカヒレや燕の巣などの高級食材が加わったのがBコース。吉品鮑コースはその名の通り、干し鮑の最高級ブランドである岩手県吉浜産の吉品鮑の煮込みを加えたコースだ。

Aコースでも伊勢海老やウニ、毛ガニなど、ふんだんに高級食材が使われているが、鴻禧らしさを味わうならBコースがおすすめ。例えば、最初に提供されるスープはAコースでは冬瓜を器にしたすっぽんの上湯だが、Bコースではここにたっぷりのフカヒレが加わる。

質の高い金華ハムだけで出汁をとった上湯は、一切、塩を使っていないという。ハムの塩味のみというやさしいスープと、ぷるりとしたすっぽんのコクが合わさった、これから出てくる料理に一層の期待が高まる最初の一品である。

活伊勢海老を大胆に使った、高いパフォーマンス性

フィンガーボールが提供されるので、ここは大胆に手でいただこう。

すべてのコースに含まれており、同店の目玉の一つとも言えるのが「伊勢海老の上湯炒め」だろう。

まず、登場の仕方がライブ感溢れている。この記事ではコースの最初として上湯を紹介しているが、実はコースが始まる前に、シェフの挨拶とともに「本日使用する伊勢海老」が紹介されるのだ。もちろん、活伊勢海老だ。

この日の伊勢海老はそこそこの大きさとのこと。

器に盛られた伊勢海老を時に持ち上げ、客に見せてくれるそのサービス精神は、まさに食のエンターテインメント。調理のパフォーマンスが華やかな中華を、より楽しめるようになっている。

「伊勢海老の上湯炒め」はその名の通り、上湯で味を調えるが、ポイントとなるのが海老味噌だ。この味噌を取り出してソースにして、最後に海老に回しかけると、海老自体の香りと味噌の良い香りが重なり合い、カウンターは贅沢な香りの空間となる。
味わいも、伊勢海老の濃い身に、さらに深みが足されていき、口いっぱいに海老の旨味を感じることができる。

ただ、個体によって伊勢海老の味噌の量は異なるそうで、海老自体が大きくても味噌があまり詰まっていないこともあるとか。そこは自分の運次第といったところだろう。

トミーシェフの気さくで明るい人柄が、客を楽しませてくれる。

伊勢海老は油通しをしてから味付けとなるが、その瞬間、店内に広がる海老の香りが食欲を刺激する。カウンターの目の前で揚げている風景を見ているので、最初に見た活きの良い海老がおいしい料理へと変わっていく様を、視覚、聴覚、嗅覚から楽しめるのだ。