入った瞬間から海を感じるしつらえに大興奮
いまや東京屈指のグルメエリアとなった、神山町〜宇田川町〜富ヶ谷あたりの通称「奥渋」。ここに誕生した「PEZ」の人気っぷりが赤丸急上昇中です。15時に営業が始まると、待ってましたとばかりに若者が次々と席につき、夕方以降は仕事を終えたミドルエイジがゆっくり食事とワインを楽しみにやってきます。女子会、男子会、カップル、おひとりさまと客層も様々で、それぞれ自由に好きなものを食べて飲んで心地よい時間を過ごすのです。
扉を開けると形容し難い美しいブルーの壁と大きなカウンターが目に飛び込み、一瞬にして海を思わせる世界観に入りこめます。カウンターに使っている大きな一枚板は実際に何十年も海に沈んでいたローズウッドで、所々にあるくぼみや傷に趣があります。
シェフであり店長の石浜綾(いしはま りょう)さんはこの店のプロデューサー役も担っていて、置いてある本や雑貨は私物が多く、ヨーロッパで購入してきた大切な物も。「こういう店がやりたかったんです」と言うように石浜さんのセンスがあふれています。
石浜さんは「ホテルオークラ」で6年間、フランス料理の基礎を徹底的に仕込まれ、代官山「Ata」、青山(現在は代官山に移転)「abysse」でその腕を認められたシェフ。もともと魚介好きではあったものの、超人気の魚介専門フランス料理店での修業で、日によって、時間によっても変化する魚介の魅力にどんどん引き込まれていきました。故にこちらも魚介専門のビストロ。石浜さんの魚介への探究心と愛が詰まった料理が並びます。
シェフの才能が開花した珠玉の料理の数々
「家で食べられない料理を心がけています」と、黒板に書かれた料理は確かに興味をそそるものばかりで、可能であれば上から下まで制覇したくなるほど。冷菜から温菜、メイン、デザートに至るまで常に30種類ほど用意されており、コース料理が主流のいま、アラカルトでこれだけの品数があるとうれしくなります。
こちらではぜひワインを合わせたい。魚介といえば白ワインというのがセオリーですが、意外に赤ワインも合うので料理のミネラル感や香りに合わせてみて!
それでは、石浜さんのオススメ料理をいくつかご紹介しましょう。まさに春爛漫な彩りの皿は「サクラマスのマリネ 桜の葉とサワークリーム」です。とろんとした舌触りのサクラマスを桜の葉の塩味とピンクペッパーが引き締めています。サクラマスのおいしさがダイレクトに伝わるひと皿です。
プリンッの後にくるフワッとした食感がやみつきになる自家製のブータンブラン。白身魚と豚の首肉を絶妙なバランスで配合し、生クリーム、卵白、柑橘の皮を合わせてムース状にしてから成形します。鶏出汁とベーコンで炊いたレンズ豆がブータンブランのうまみをより一層引き立て、見た目はフランス料理の定番ですが、どこか新しさを感じる味わいです。
メイン料理からは「尾長鯛炭焼き 伊予柑とマスタードソース」を。尾長鯛は芯がうっすらと桜色に残るミディアムレアに焼き上げ、伊予柑のジュースで作るクラシカルなバターソースをたっぷりと。フランス料理の真髄とも言えるソースにこだわる石浜さんは「ありとあらゆる本を読んでいます。新しいソース作りのヒントになりますし、伝統の味を再確認するためにも、めちゃくちゃ本を読みます」と語ります。