〈広島の麺料理〉

広島駅からJR山陽本線で2駅。向洋駅の前にオープンして麺通に衝撃を与えたのが「麺や時風」だ。この店が名物として提供する「あなごラーメン」が評判を呼んでいる。今回は、広島で数々のグルメ番組を手がけてきたディレクターがイチオシの店として紹介。“あなごでラーメンとはどういうことなのか?”そんな誰もが抱く謎を徹底解明する!

教えてくれたのは

加藤ひさつぐ

1975年広島市生まれ。コンプ・アニ代表。長年、地元広島のテレビ・ラジオ各局で番組制作に携わるフリーディレクター。主にグルメ系の情報番組の制作を担当し、これまで約5,000食以上の料理の取材を行なってきた。特技は箸上げ。広島市中心部に生まれ育ったため、日々市街地エリアでの外食リサーチをおこなっている。著書に『広島汁なし担担麺』(発行:メディアジョン)があり、広島汁なし担担麺の全国的な広がりに貢献している。voicy中国新聞公式チャンネルパーソナリティー。

まずは「あなごラーメン」を見てほしい

見た目に“あなご感”はないのだが……

「広島名物グルメを5つ挙げるとするならば、何を選びますか?」

もし街頭インタビューをしたとしたら、上位5つは、牡蠣・お好み焼き・もみじ饅頭・汁なし担々麺・あなごめし。たぶん、そのあたりになるだろう。つまり、あなごめしはミドレンジャーかモモレンジャーあたりには顔を並べる、いわば「広島代表グルメ戦隊のレギュラー陣」であることには誰も異論がないはずだ。

では、もしも広島に「あなごラーメン」が高スペックで誕生したら? この顔ぶれは変わってしまうのかもしれない。そんな期待感がこの店にはある。

電車に揺られてラーメン店を訪ねる

右奥に見えるのがJR向洋駅なので、驚異のアクセスの良さ

場所は、JR広島駅から山陽本線で東へ2駅。向洋駅の駅前に位置するのが目的の店「麺や時風」である。広島市内に住んでいるとなかなかJR線に乗ってまでラーメンを食べにいくという習慣はないのだが、これを東京に置き換えてみると新宿から中野に行くくらいの乗車時間。大したことはない。

この店はとにかく個性的である。市内中心部のラーメン店の店主さんと会話することも多いのだが、時風の話をすると決まって「あのあなごラーメンの店ですね!」と返ってくる。とにかく業界内で珍しいことを始めた店があると有名なのだ。風に揺れるのれんは、あなごがピチピチと泳いでいるように見える。

丼から出ているのはラーメンマンの髪ではない! あなごのシルエットなのだ

考えてみてほしい。広島ほどの人口規模の街で新たにラーメン店を開業するなら、尖った個性を立てるのではなく、万人ウケしそうなメニュー構成にして愛されようとするものだ。しかも賑わう繁華街ではなく、どちらかというと静かな住宅が立ち並ぶ下町風情の街並みなら尚更ではないだろうか。「この場所であなごに特化した未知のラーメンを出す店を始める」なんて、並々ならぬ度胸と自信がないとできないことではないのか。

店内はカウンター席とテーブル席

店に入ると、アクリル板で仕切られたカウンター席と、いくつかのテーブル席。これまで訪れた際にもテーブル席で家族連れが食事をしている光景を何度も見かけた。店内は元気な女性スタッフの接客もあり、いつもやさしい空気で満ちている。

黒板はウソをつかない! 「あなごらーめん」がイチオシという事実に直面

黒板を見ながら改めて考えてみる。もしも、初めてこの店を訪れた客ならば、あなごラーメンをどのようなビジュアルで想像するのか。あなごめしのように数々の切り身がのっているのか、はたまた、あなご天丼のように大きな一本あなごが丼の上に寝そべっているのか。しかし、その予想を見事に裏切ってくる。

見せられたのはあなごの骨

店主の時永真伍さんが差し出す麺のケースに入っているのは「あなごの骨」

この店が掲げるあなごラーメンの特徴は、「あなごの骨でスープをとる」こと。豚骨だったり、牛骨だったりは聞いたことあるが、あなコツ?「あなコツ」と呼んでしまったら最近流行りの恋愛ドラマの略称みたいでなんだかニヤニヤしてしまう。しかも粉末や乾燥素材で仕入れるのではなく、ちゃんとフレッシュな状態のあなごの骨が厨房にあるとは恐れ入った。

もっと近くで見せてもらうとたしかにあなごの骨だ

「仕入れたあなごのアラから内臓をきれいに取り除いて骨だけにしたら、塩もみをして冷蔵庫に入れて一日寝かせるんです。それをオーブンでカリカリになるまで焼いてから砕いて粉末にするんです」と店主の時永さん。ものすごい手間をかけていることに驚いていると、「あなごラーメンを掲げている以上はちゃんとやらないとね」と続ける。この人はホンモノだ。あなご愛がすごい。