2019年の夏も多くの観光客で賑わった京都。古都として栄えた歴史が街の魅力を作っているのはもちろん、たくさんの美味に出会える美食都市でもあります。夏の名残を惜しみながら秋を迎えるこの季節に、ぜひ買い求めたい手土産候補をフードジャーナリストの小松宏子さんがセレクト。京都のグルメ事情にも詳しい小松さんのチョイスは、どれも間違いなしのおいしさです。年末年始のご挨拶や自分へのご褒美にプチギフトまで、ぜひお店とともにチェックしておきたい逸品揃いです。

1. 「緒方」の鱧ご飯のタレをからめたぬれせんべい 緒方おせんべい鱧山椒

小粒ながら、もちっとしたぬれせんにたっぷりしみ込んでいるのは、ミシュラン二つ星、旬菜「緒方」の締めご飯の名物「特製鱧だれご飯」の鱧だれです。ぴりりと効いた上質な山椒のアクセントと、醤油の香るコクのある鱧のたれが相まって、お茶請けとしてだけでなく、赤ワインのおつまみにもぴったり。食べ始めたら止まらないおいしさです。

 

鱧と言えば祇園祭にも欠かせない、京都の夏の美味を代表する素材です。その昔から、海の遠い京都まで生きて運ばれる精の強さが珍重されると同時に、淡泊なのに滋味深い味わいが古くから美食家を虜にしてきました。

 

そして緒方といえば、至高の素材のそぎ落とした扱いでは右に出るものなしの予約超困難店。そんな緒方の鱧だれを用いたおせんべいといえば、おいしいもの好きなら、興味を惹かれないはずがありません。実はこの鱧だれは、鱧の時期を通して店でとっている、鱧の骨や身をことことと煮出した鱧のエキスに醤油や山椒を加えたもの。料理以外にも使えないかと考え、名品・鱧せんべいが生まれました。

「緒方おせんべい鱧山椒」70g入り 1,620円(税込)。

長い身を折り曲げて休む姿から、「つの字」と呼ばれる鱧。つの字をイメージしたくるりと丸い器。ふたの部分は緒方の天井に使われている竹を模した型押し。パッケージも高級感たっぷりで、晩夏の手土産にもぴったりです。

https://ogata.theshop.jp/

インターネットでの申し込み、またはTEL(075-344-8000)で予約。お店での受け取りは12:00~17:00に。

2. 「伍八山椒堂」からすみちりめん、朝倉山椒の青粉、朝倉山椒の赤粉

鉄板の京土産の一つがちりめん山椒ですが、ちょっと変わりだねがないだろうかと、探している人にうってつけなのが、「伍八山椒堂のからすみちりめん」です。

 

JR稲荷駅から徒歩1~2分の便利な場所に店を構えるこちらは、開業8年の新鋭ですが、現社長の祖父が京都で修業したのち佐賀に開いた料亭の名物料理であった山椒料理を、改めて商品化した信頼の味を誇ります。

からすみちりめん 40g 2袋入り 1,500円、朝倉山椒の青粉 5g入り 1,000円、朝倉山椒の赤粉5g入り1,200円(全て税抜)。

ちりめんの材料であるじゃこは「小筋」と呼ばれる、最小のサイズを使用。春秋2回の漁がありますが、脂ののりは少ないけれど、味がよく日持ちのする秋じゃこを使用。産地は主に鹿児島県志布志湾です。実山椒と秘伝の調味液を加えて炊き上げたのちに長崎の「味藤」のからすみのフレークを加え混ぜて仕上げたものがこちら。からすみのコクとじゃこの滋味が一つになった極上の珍味です。

 

「伍八山椒堂」で使用している山椒は、すべて丹波産の朝倉山椒。日本の山椒の98%はぶどう山椒ですが、わずか2%の朝倉山椒のほうが、レモネンという柑橘香の成分が多く、香り高いばかりか、しびれ感が少ないのだそう。その実を乾燥させ、石臼でゆっくり手挽きしたものが粉山椒です。一般的に青い実を使用しますが、本来はそのまま木で赤くなるまで熟させたほうが、より香り成分が強くなるのです。ところが、赤くなるまで熟させると、なぜか木が枯れることがあるとか。そのリスクを承知のうえで、「伍八山椒堂」では赤粉の製造にも取り組んでいます。驚くほど清涼感に満ちた爽やかな香りの赤粉、すっきりとした香りとぴりぴり感が心地よい青粉。粉山椒の概念をがらりと変えてくれる逸品です。

3. 「京都岩崎」花山椒と牛肉の旨煮 花山椒と鰻の旨煮

京都の名料亭で長年研鑽を重ねた岩崎武夫氏が、伝統ある「仕出し」の味を、今どきの暮らしの中で楽しんでほしいと立ち上げたブランド。ほかにはない美味として人気なのが花山椒の旨煮のシリーズです。

 

花山椒とは、山椒が青い実をつける前のつぼみや花のことで、4月末から5月頭までのほんの2週間くらいしか取れない、希少な食材です。20年ほど前から京都で人気が出はじめ、今では東京でもすっかりブームに。価格もうなぎ上りで、今年はトリュフなみに高騰したとか。その魅力はしなやかな食感の中にある、清涼感に満ちた爽やかな香りと、ピリッと心地よい痺れ感。「京都岩崎」では、色や風味の劣化を防ぐために塩ゆでしてから砂糖水につけ、その後冷凍することで一年を通してフレッシュな香味が楽しめるような手法を独自に開発しました。

左から「花山椒と鰻の旨煮」50g入り 1,500円、「花山椒と牛肉の旨煮」90g入り 1,500円(ともに税抜き)。

「花山椒と牛肉の旨煮」は、赤身と脂身のバランスのとれた国産牛を薄切りにし、火が通る寸前までだしでさっと煮、火を止めてから花山椒で和えました。「花山椒と鰻の旨煮」は国産鰻の白焼きを特製のたれでじっくりと柔らかく煮含め、花山椒をたっぷり添えます。どちらも盛りつけたときの、花山椒の緑が目にも鮮やかです。そのままでも軽く温めても、小鉢に盛るだけで、ご飯のおかずに、酒の肴にと、手軽に楽しめるのも何よりです。

 

京都岩崎

住所:京都府京都市下京区朱雀分木町80

電話:075-963-6561

営業時間:10時~17時

定休日:水曜・日曜・祝日

http://www.kyoto-iwasaki.jp/

4. 爽やかな甘さと小豆の香りが広がる「甘泉堂」の水羊羹

いわずと知れた京の夏の涼味は、祇園町北側の路地の奥にひっそりと佇む、和菓子司「甘泉堂」の水羊羹。明治17年(1884年)創業と130年あまり続く老舗で、6代目の山本宗則氏が暖簾を守っています。看板の題字は、明治の文人画家・富岡鉄斎によるものだそう。

 

路地にはためく橙色のお店の暖簾がなんとも風雅です。祇園町の芸妓さんたちもよくお遣いものにするそうで、「甘泉堂の水羊羹をいただくと夏がきたと感じます」という粋筋の方も多いとか。

「水羊羹」1,750円(税抜)。(9月まで。要予約)

つるんとした羊羹に黒文字を入れて口に運べば、さらりとほどけ、小豆の香りと爽やかな甘みが広がり、のどの奥へと消えてゆきます。茶人に言わせれば、「懐紙の上に立つようでなければ水羊羹とはいわない」のだそう。まさにそのぎりぎりの硬さを保っているのが「甘泉堂」の水羊羹なのです。ご主人においしさの秘訣を伺うと、「何にも特別のことはしていません。小豆を砂糖でコトコトと煮てさらしたこしあんを、寒天で固めているだけやから」と、拍子抜けするほどシンプルな答えが返ってきました。しかしそうした混ぜ物の一切ない、昔ながらの丁寧な作業こそが、変わらぬ美味の秘訣なのでしょう。売り切れることも多いのでぜひ予約を。

 

撮影:久保田狐庵

文:小松宏子