カレー、モモだけではないネパール料理
前回の「中国料理」に続き、今回ご紹介するのは「ネパール料理」。さていきなりですが、あなたはこの事実をご存じですか?
「日本のインド料理店、働いている人のほとんどはネパール人」
これにはいろいろな事情があるそうです。インドとネパールが隣国同士であり、インドで料理人として働くネパール人が多いこと。カースト制が根強いインドでは国外に出られる人に制限があり、料理人修行を積んだネパール人の方が国外に出やすいということ。というわけでこれまでの日本では、身近なネパール料理といえば「インド料理店に紛れ込んでいるネパール風カレーと蒸し餃子のモモ」というのが定番だったのではないでしょうか?
ところが! 日本にやってくるネパール人の増加が、そんな状況を変えていきます。2000年に3,649人だった日本在住のネパール人は、2017年には8万人を突破。これはネパール国内の政情が不安定だったことなども影響しているらしいのですが、人が増えると当然「故郷の味が食べたい」という人も増えてくる→当然、日本人向けではない地方料理、家庭料理を出す店が増えてくる、というこの連載における“辺境料理あるある”パターンです。
筆者も、ネパールに仕事でよく行く友人にそんな本格ネパール料理店に連れて行かれ、すっかりハマってしまった一人です。スパイシーではあるけれど基本的に優しい味が多いネパール料理。ネパール式のご飯とおかず料理のセット「ダルバート」の滋味にハマり、インドでもポピュラーなたこ焼き形の軽食「パニプリ」に舌鼓を打ち(隣国だけに、インド・ネパール両地方で共通した料理も多々あります)、羊肉でネパールのラム酒、ククリを流し込む。ちなみにネパール料理では定番の食材、羊の脳みそ(ネパール語だとギディと言います)ですが、これが磯臭さのない白子みたいな感じでほんとおいしいんですよ……! このギディのカレー炒めなど、酒飲みにはたまらないメニューです。
さて。3方がインドに、残る1方が中国チベット自治区に接しているネパールは、そもそも他民族・多言語国家。宗教も入り混じり、民族ごとのさまざまな文化が存在している国でもあります。というわけで今回は、民族色を強く出しているネパール料理店をご紹介。
アーガン(新大久保)
東京の新大久保といえば言わずと知れたコリアンタウン。しかし、近年は本格的なネパール料理店が多数開店し、ネパール料理好きには非常に“アツい”エリアなんです。そんな新大久保で有名なのが、新大久保ネパール料理店の草分け的存在「ナングロガル」と、「ナングロガル」で働いていたシェフが独立・開店したというこの「アーガン」。
こちらの店ではネパールの中でも、カトマンズの盆地一帯に住む「ネワール族」、そして山岳地帯であるアンナプルナ地域に住む「タカリ族」、この2つの民族の代表的な料理を食べることができます。
ネワール族の代表的料理では、蒸し米を叩いて干した「チウラ」、これに添えられたスープやカレー、アチャール(インドの漬物)などのおかず類を混ぜて食べる「ネワリボジセット」がおすすめ。タカリ族の名物料理はそば粉を練った“ネパール風そばがき”ディドにぜひ挑戦してみて。結構なボリュームですが、日本人にも馴染み深いそば粉の味、すんなり受け入れられる人が多いのではないでしょうか?
というかこの店、全体的な味のクオリティが高いんですよね。モモとか本当に絶品なので絶対食べてください。それでいてお客のネパール人比率もとても高く、在留ネパール人たちに強く支持されていることがよくわかります。
余談ですが、タカリ族はネパールの中でも料理上手な民族と言われ、ネパール本国でも「タカリ◯◯」とタカリ族の名前を冠したレストランが多数あるとのこと(ただしその全てでタカリ族が調理しているかは不明)。定番のダルバートも、タカリ族のものは具だくさん。この店でも今紹介したチウラやディドとのセットだけでなく、ライスと合わせたセットもあるので、カレー好きにもぜひ訪れてほしい一軒です。