ローカルな「中国料理」が今アツい!

前回の「ウイグル料理」に続き、今回ご紹介するのは「中国料理」。厳密に言うと“辺境”ではないかもしれませんが、今、東京近郊の中国料理店がとても面白いことになっているのです。

 

そもそも中国料理と言うと、これまでの日本では北京、上海、広東、四川といったいわゆる「四大中国料理」がメインでした。また、それが日本人の口に合うように発展してきた「中華料理」。これらのイメージが強かったですよね。しかし近年、日本で働く中国人の増加とともに、彼らをターゲットとして「自分たちの慣れ親しんだ味=日本人向けにアレンジされていない、ローカルな味」を出す店が急増。「四大中国料理」ではない、これまでになかったエリアの料理を食べられる店がたくさんあるのです。

「南三」の「タイ風羊の炙り焼き香草風味」 撮影:大谷次郎

また、実は中国地方料理に関しては日本の料理界でもムーブメントが来ていて、湖北省、雲南省、四川省などの料理を出す「蓮香(レンシャン)」(白金)、南方中華料理の「南三(ミナミ)」(四谷三丁目)のような人気店も。それだけ「これまで知らなかった中国料理」に、日本人も興味が高まっている……ということの現れではないでしょうか。

 

というわけで。今回は在留中国人が経営する、ローカル色あふれる中国料理店3店をご紹介します。

李厨

中国料理で“辛い”と言えば「四川料理」のイメージが強いはず。しかし、一説には「四川料理よりも辛い」と言われるのが湖南省で食べられる湖南料理。蒸し暑い気候のため、発散できるような辛い料理が発展したというのは四川と同じなのですが、四川料理がシビレと辛味の「麻辣(マーラー)」なのに対し、湖南料理は酸味と辛味の「酸辣(サンラー)」という風味が特徴。何種類もの唐辛子を使い分け、辛さの奥に香りと旨味が立ってくる湖南料理、絶対にハマる人は多いはず。

辣油は飲み物
「まるごと魚の頭の湖南風蒸し」   出典:辣油は飲み物さん

この「李厨(リチュウ)」は湖南省出身のオーナーが「日本に故郷の料理のおいしさを広めたい」と始めたお店。使用する唐辛子の一部は自家栽培するなどのこだわりもあり、どの料理もただ辛いだけではなく“辛ウマ”。また、辛いものが苦手という人は辛味を抑えてもらうこともできるので、そこはご安心を。ただし辛いものが好きという人、現地のリアルな味を知りたい!という人はぜひ「本来の辛さで」とオーダーしてみましょう。筆者は一度中国語が話せる友人と訪れたところ、知らないうちにこのオーダーをされていたようで悶絶しました。いやおいしかったんですけどね……!

辣油は飲み物
麺を投入して最後までおいしくいただきます   出典:辣油は飲み物さん

一品のボリュームが大きいので、3〜4人以上で訪れるのをオススメします。名物の「まるごと魚の頭の湖南風蒸し」は必食。身を食べ終わったら麺を投入する現地風の食べ方でたっぷり楽しんでください。

山西亭

生地を包丁で削って麺を作り出す「刀削麺」。食べたことがある人も多いと思いますが、中国のどこが発祥か知ってますか? 実はこれ、山西省発祥の料理。山西省は降水量が少なく乾いた気候という関係上、小麦や粟、とうもろこしなど、乾燥した土地でも育つ穀物やじゃがいもなどがメインで栽培されています。そのため、小麦粉やそれら作物を使った麺文化が発展したという経緯があり、付いた異名が“麺食のふるさと”。

METAL LUNCHBOX
「猫耳麺」   出典:METAL LUNCHBOXさん

そんな山西省の麺文化の奥深さを味わえるのが、ここ「山西亭(さんせいてい)」。刀削麺はもちろんのこと、さまざまな麺を楽しめます。例えば小さく丸まった姿が猫の耳に似ている“猫耳麺”こと「マオアール」、魚の稚魚みたいな形?の“魚形麺”を焼そばにした「莜面魚魚(ヨウミェンユィユィ)」、じゃがいも麺の焼そば「炒不烂子(チャーブランズ)」。そういえば猫耳麺ってイタリア料理のショートパスタ、オレキエッテに似てるんですよね。そういう点も面白いです。

猫師
油そば風の刀削麺。他にも各種刀削麺あり   出典:猫師さん

そして当然のことながら、刀削麺もとてもおいしい。実は筆者、刀削麺はあちこちで食べているのですが、結構クオリティに差が出る料理だと思っているのです。こちらの刀削麺はしっかりとコシがあり、歯ごたえが絶品! 「おいしい刀削麺」を探している人、ぜひ一度お試しあれ。あ、ただ名物料理が基本炭水化物、刀削麺もかなりのボリュームなので、こちらも何人かで訪れた方が楽しめると思います……。

老酒舗

最近、中国料理好きの中で話題になっている「味坊グループ」をご存じでしょうか? 神田「味坊」をはじめ、三軒茶屋の「香辣里(シャンラーリー)」、御徒町の「羊香味坊(ヤンシャンアジボウ)」と何店舗かあるのですが、本格的な味わいながらどの店もリーズナブル!と、嬉しいお店ばかりなのです。

アロレ
出典:アロレさん

味坊グループには特徴があり、それはどの店も中国東北地方の料理をメインにしています。東北地方とはその名の通り中国の東北部、遼寧省・吉林省・黒竜江省の3省のエリアを指します。ロシアとの国境近く、緯度で言うと日本の東北〜北海道、さらに北が含まれる、要は“寒い”地域。そのため、食材を発酵させた保存食や(日本で言う漬物ですね)、香辛料を多用しているのが特徴。また、米ができづらいので基本的には「小麦粉」文化です。肉は羊肉がメイン。

u_wa_ba_mi
筆者イチオシ! ニラと卵の入った水餃子   出典:u_wa_ba_miさん

この「老酒舗」も、2018年にオープンした味坊グループの1軒なのですが、居酒屋スタイルで中国東北料理を堪能できます。なぜこの店をピックアップしたかというと「ニラ卵海老の水餃子」が食べられるから! 日本では馴染みが薄い炒り卵とニラ入りの水餃子ですが、中国、特に北の方のエリアではとてもポピュラーな料理。おいしいんですけど「あまりにも家庭料理すぎてメニューに載ることが少ない」料理なんですよね……。筆者は好物なので、メニューに見つけたときはもう歓喜! この店を訪れたら、ぜひ食べてみてください。

追いかけきれないほど豊富、多様な中国料理

今回紹介したのは3エリア3店舗ですが、まだまだ中国のローカル料理を楽しめる店は増えています。店舗数世界最多の福建料理ファストフードチェーン「沙県小吃(サケンシャオチー)」、ラグジュアリーな雰囲気で湖北料理を楽しめる「珞珈壹號(カッカイチゴウ)」などなど。どの店も訪れるたび、中国という土地の広さと、それに伴う食文化の差異、豊かさというのを実感するんですよね。大陸のパワーを貰いつつ、その“違い”を楽しんでみてください!

 

次回はネパール料理をご紹介します。

 

文:川口有紀