ベースは中国料理の焼鳥店

東京・六本木駅から徒歩3分ほどの路地裏に位置する「焼鳥 鈴音」がオープンしたのは、2018年12月25日。オーナーシェフの出田貴幸さんは、中国料理のワールドカップとも呼ばれる2012年開催の「中国料理世界大会」で金賞に輝いたことのある凄腕の持ち主。そんな彼が提供するのは、中国料理をアレンジした焼鳥だ。

お客さんのリアルな声が聞きたいから、が始まり

出田さんが焼鳥店をオープンするきっかけとなったのは、東京・恵比寿にある焼鳥店「喜鈴」との出合いだ。出田さんの弟の啓二さんが「喜鈴 別邸」で働いており、その繋がりで声をかけられたという。

「料理人のほとんどは調理場だけの作業で、お客さまと接することはまずないんです。喜鈴に行って、カウンターでオープンにお客さまと接してリアルな声が聞けることを知り、そこで勉強したくなったんですよ。鶏肉は中国料理でもよく使う食材なのでアレンジも利きますしね」(出田さん)

料理の味のみで中華を表現

外観や、黒とヒノキがメインの店内は“和”の雰囲気が漂う。だが、空間づくりに中華の要素はあえて入れていないと言う。「ギャップを楽しんで欲しい」と語る出田さんの思惑は、料理の味で中国料理を感じて欲しいから。

では、注目の料理を紹介していこう。アラカルトで注文するのもいいが、初めての人はおいしいとこ取りのコースがオススメだ。

前菜、サラダ、逸品、串物が楽しめる。まずは前菜から。写真左上の黒い器に入ったものは、干し豆腐と高菜と枝豆の和え物。右上のプチトマトは中国のお酒のサンザシ酒で甘酢を作り、それに漬け込んだもの。左下は低温調理した白レバーを東肥の赤酒に漬けたもの。右下は鶏胸肉のバンバンジー。“ザ・中国料理”のテイスト満載だ。

そして、メインの串物はというと……、まず最初にオススメしたいのが肩の肉の「ふりそで」(380円)。鶏肉本来の味が堪能でき、一口頬張れば肉の旨味が口の中に広がる。だが、それだけだと他の焼鳥店と変わらない。注目したいのは薬味だ。

七味や柚子胡椒などが一般的だが、ここで使用するのは、中国料理で使われる調味料だ。写真左から、サーチャージャン(甘)、ジョーマージャン(痺)、シャンラージャン(辛)の三種。甘い方から順につけて食べてみてほしい。三種三様の味が楽しめ、焼鳥×中国料理の真髄が味わえる。

次に「レバー」(430円)。四川料理でよく使用される調味料の魚香(ユイシャン)と豆板醤を利かせたピリ辛のソースが、レバーと相まって舌の上でとろけていく。上にのっているホワイトセロリのシャキシャキ感もたまらない。

また、うずらの卵もココならではの特徴がある。生姜の甘酢漬けがのった「黒玉(うずらのピータン)」(380円)だ。普通の焼鳥店は白玉だが、同店はピータンを使用した黒玉を提供。そして、出田さんのオススメが、このピータンと紹興酒のマリアージュだと話す。

「ワインもいいですが、ピータンはとても紹興酒に合うんです。20年ものが特にオススメ。甘みがすごくまろやかで角がない。紹興酒が苦手な方でも飲みやすいと思います」

 

ビールやワインで楽しんでいるお客さんがピータンを注文した際は一緒に小さいグラスに紹興酒を入れて出すことがあるのだそう。そこからその美味しさに気づき、紹興酒に替える人も多いのだとか。そんな風に、お客さんを喜ばせることも怠らない。

 

出田さんが作りだす、中国料理と焼鳥のコラボレーション。ぜひ、自身の舌で感じてほしい。

写真:原 務

取材・文:山本真由