本田直之が指南!「2019年、レストランシーンを120%楽しむ方法」

 

食べログマガジンで好評を博した連載「トップシェフが内緒で通う店」が、1月18日(金)に書籍となって出版された。食のプロフェッショナルであるシェフたちが「本当に自ら通っている店」を紹介してもらったこの連載は、食べることが好きな人たちにはまさに保存版。そこで、著者の本田さんにインタビューを敢行。

日本全国は言うに及ばず、世界中を食べ歩き、レストランシーンの鋭い考察でも知られる本田さんに、2019年の食のトレンド予測からそれの楽しみ方までを教えてもらいました。これからの食べ歩きがますます面白く美味しくなるアイデア満載です。

1 長期先の予約はしない

数か月先もしくは数年先まで予約がとれない店が多くあるという、異常とも言える状態がここ数年続いています。海外と日本を行き来する生活を送っている自分自身、レストランの予約に振り回されることも多く、そんな状況に少しうんざりして、今年は「長期の予約はしない」と決めました。同様に感じているFoodiesも多く、同じような現象が起こり始めています。

また、シェフ達も自分のスケジュールの自由度の確保や、キャンセルリスクの高い長期予約を嫌い、1か月以内、もしくは3か月以内といった、短期の予約しかとらない店も増えています。食べたいときに食べ、行きたいときに行く、飲食店本来の姿に少しずつですが戻る兆しがあります。レストランの予約に振り回されるのはごめんだという人は、思い切って長期予約はやめてみるというのもアリです。きっとその先の世界が見えてくるはずですから。

2 予約が取れるいい店をいくつ知っているかが鍵

一方で、今でも予約が比較的簡単に取れて、いい店だってまだまだあります。

2週間から最大でも1か月くらいで予約が取れる店。そうした店を発掘することが、「トップシェフが内緒で通う店」を連載した大きな目的の一つでした。なぜなら、料理人であれば、サイトの評価などに頼らない、本当にいい店を選び出す舌と機会を持っているはずだから。実際、シェフからはそうした宝のような店がざくざくと出てきました。そういった店の情報をいくつ持つか、いくつ知っているかが、2019年はFoodiesとしての価値につながると思います。

3 “評価点数は高くないけど実はいい店”を発掘する

「食べログの点数が3.5未満の店は、とても人を誘えない」。現在そんな風潮すら生まれています。けれど、実は高得点じゃなくてもいい店はたくさんあります。料理人たちは、鋭い嗅覚や独自のネットワークを持っていて本当にいい店を知っているはずだと確信していたので、連載時のインタビューではそのあたりをつっこんで聞きました。

「お好み焼き いまり」 写真:お店から

結果、「いさご家」、「イタリアンバルSABA」、「お好み焼き いまり」、「片折」、「東千歳バーベキュー」など、いくつもそうした隠れた名店を教えてもらうことができました。高得点じゃなくても自分の好みにあった、本当に美味しい店を探し出すのは無類の楽しみのひとつ。B級グルメを熟知している「よろにく」のVanneさんは、食べログのレビュアーで好みが合いそうな人を見つけて、その人が高く評価している店をこまめにチェックしていると取材で教えてくれました。そんなレストランを見つけることも、2019年のレストランの楽しみ方のトレンドの一つになると思います。

4 “先物買い”を楽しむ

「CHIUnE」の古田諭史のことは、岐阜時代Satoshi.Fから付き合いがあって、彼は「絶対くる」、と思っていました。すでに有名店のシェフではなく、若手の才能ある料理人を、自分の目利きで探し出し、先物買いして、長年にわたって応援するというのも、これからのレストランの楽しみ方の一つ。

CHIUnEの古田シェフと。 撮影:大谷次郎

西麻布の日本料理店「山﨑」の山﨑志郎は31歳。すでに評価が高くなってきたけれど、今後ますますよくなると思います。福岡の「 唐島」も大注目。店主の唐島 裕は今31歳、「紀茂登」で日本料理を長年修業し、博多の名店「安吉」では鮨を学んだといいます。実は、彼の父も鮨職人。父親が「息子といろいろな鮨店に食べに行くなかで、これからの鮨を自分で握ることはできないから、息子に夢を託す」と、全面的にバックアップ。自分は裏サポートに回り、息子を一流にすることに徹し、見事にその努力が実を結びつつある。また、2月にオープンする「鮨 えんどう」は「鮨 さいとう」出身の32歳。応援したい店です。

山崎 出典:Gattoさん
「鮨 唐島」 出典:☆中隊長☆さん

 

5 世界を飛び回るノマドシェフの動向に注目

1年の半分は日本、半分は海外で活動するというような、これまでにない働き方をする料理人も出てきています。

例えば、昨年秋にリニューアルオープンしたロオジエの姉妹店でもあるイタリアンレストラン「ファロ」の料理長に就任した能田耕太郞は、ローマ一つ星の「 BISTROT64」も、オーナーシェフとして運営しながら、1年の半分はファロで料理長として指揮を執るというスタイルを取っています。

ファロ 出典:enOさん

その場に身をおかなくとも情報を共有できる今の時代、距離はデメリットにはならなくなりました。むしろ、情報収集の観点で言えば、プラスでもある。コウタロウのような成功例が出てくれば、ノマドシェフももっと増えるに違いないし、そういう多様な働き方をしているシェフは個人的にも応援したいと思っています。

6海外で活躍したシェフの日本での新境地を楽しむ

海外でオーナーシェフとして店を経営し、ミシュランの星をとるという、ひと昔前では考えられなかった活躍をする料理人も、今や珍しくなくなりました。そうした海外で成功したシェフたちが、次のステージを日本に求めて戻ってくる動きが活発になっています。昨年末からの最大の話題が、パリで1つ星のSolaのオーナーシェフとして活躍した吉武広樹が日本に帰国し福岡に開いた「Sola Factory」。一レストランという以上の機能を持つ、ラボも兼ねた店舗で、これからどんな活躍をしてくれるのか、大いに楽しみです。また、ミラノで一星に輝いた「Ristorante TOKUYOSHI」の徳吉洋二は、神保町にあった「傳」の跡地に「Alter ego」を2月にオープン予定。こちらも目が離せません。

7トップシェフのコラボレーションが加速。一度限りの体験をしに行く

ちょっと前までは、コラボといっても、ホテルが有名シェフを招聘するというスタイルがほとんどでした。しかしこの3~4年、仲の良いシェフ同士の競演という、草の根的なコラボの勢いが止まりません。その先駆けともいえるのが、TIRPSE(2018年末閉店)のオーナーだったレストランプロデューサーの大橋直誉が仕掛けた数々のコラボレーション。昨今では、鮨の「すぎた」、焼肉の「なかはら」、焼鳥「鳥しき」というような、いわゆるフレンチやイタリアンではない、日本のジャンル料理までがそれを始めています。2019年、日本で、また世界へ日本のシェフが出て、どんなコラボが行われるのか今から楽しみですね。

8イベントも活況。地方が面白い!

「モノを買う時代は終わり、体験を買う時代に」と言われてしばらく経ちますが、飲食業界もまさにこのフェイズに入ってきていると感じています。お金を出して単に美味しいもの、豪華な食材を食べるというのではなく、これまでにない感動を共有したい、知らなかったものを知りたい、驚きたいというような、特別の体験を食に求める傾向が年々強まっています。そうした現象を助長してきたのがダイニングアウトの存在です。その場所に居合わせることでのみ経験できる、唯一無二のエクスペリエンスとして、回を重ねるごとに注目度が高まっています。

また、ダイニングアウトは地方創生、つまり日本各地の魅力を掘り起こし、新しい視点で伝えるという、他の観光産業ではできなかったことに成功していて、社会的にも非常に意義深いですね。

9 あのオーナーに会いたい!そんなネオスナック開拓

食と体験の一体化が進むなかで、店主のキャラクターそのものを楽しむ店も話題になることが多くなりました。2019年は一層、そうしたパーソナルな楽しみを満たすための店を求める傾向が強くなると確信しています。

僕はそれを「ネオスナック」と呼んで、周囲に布教活動をしています(笑)。スナックといっても、いわゆるカラオケがあって乾きものが出てきて、というスタイルだけではありません。形としてはレストランやバーであっても、店主のセンスや個性が、わかっている人へ向けて炸裂する、思いを共有できるスペース。

「ももまる」 本田さん撮影

例えば渋谷のラーメン居酒屋「ももまる」や福岡の「つどい」など。そして、金沢の通称ヤッホー茶漬け「お茶漬け 志な野」など、本に書けなかった店でまだまだ面白いところもあります。SNSなどを通じて情報が増えている分、ネオスナックが顕在化しやすくなっているということも言えるでしょう。「オレこんな店を知っているよ」と、友人や知人に教える楽しみがあります。自分だけのネオスナック探しも2019年のトレンドの一つですね。

 

トップシェフが内緒で通う店150

KADOKAWA刊  1,500円(税別)

食べログマガジンで人気を博した連載が書籍に。「the Tabelog Award2018」GOLD受賞店、食べログ評価4.0以上のスターシェフたちに聞いた「いい店、好きな店」全150軒を紹介。プロ達が惹かれる店の共通点とは? 知らなかった店の楽しみ方とは? 国内外のレストランを食べ歩き、食のトレンドを熟知する本田直之さんが鋭く切り込んだ、ここにしかないレストラン情報満載。書籍特別コンテンツとして、本田さんが選ぶ「B級グルメ」「ネオスナック」の名店リストも収録されている。

 

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