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【おいしいパンのある町へ】
Vol.22 東京・水天宮前「OZO BAGEL(オーゾウ ベーグル)」
フランスではバゲット、日本では食パンというように、国によってそれぞれの“国民食”ともいえるパンが存在する。アメリカ、とくにニューヨークでそれに値するのが、ベーグル。今でこそ日本全国で食べられるようになったが、つい数年前まではベーグルを置く店はかなりレア。そんな時代にベーグルに惚れ込み、本場ニューヨークで修業をした人物が営むベーグル店が、東京・水天宮前にある。
東京メトロ・水天宮前駅で下車し、徒歩3分ほど。オフィス街の一角に行列を見つけたら、そちらが今回紹介する「OZO BAGEL(オーゾウ ベーグル)」と考えて間違いないだろう。2014年12月にオープンし、満4年を迎えた今も連日、お昼過ぎにはほとんどの商品が完売する盛況ぶり。
列に並ぶ人々が買い求めるのは、毎朝焼き上がるフレッシュメイドベーグル。シニア層から子連れの母親、学生風の男性まで、幅広い客層がベーグルを求めて行列を作る光景に、どこか新鮮さを覚える。
「緊張してお店を開けたオープン初日、多くのお客様に並んでいただいた光景は今でも鮮明に覚えています。現在も、寒い日や猛暑の中でも並んで待っていただき、ありがたい限りです」。微笑みながらそう語るのは、オーナーの田口玲子さん。
もとは編集者という異色の経歴を持つ田口さん。旅行で訪れたニューヨークで、ベーグルと出会う。初めて口にした瞬間、新感覚の味わいに恋し、旅行中も様々なベーグルを食べ歩き。当時の日本ではベーグルを求めて様々な店をめぐるも、満足する味に出会えないどころか、販売している店がほとんどなかったそう。
出張でアメリカを訪れた際には、休憩時間ができるとベーグル店に立ち寄り、同行するスタッフから不思議がられたと笑う田口さん。日本でもおいしいベーグルが食べたい!と、自ら作り始めたのは12年前。「上の子どもの育児休暇中に、時間があったので。正直、思い描いていた味とは大きな差がありました(笑)。自己流で試行錯誤を続けるうち趣味になり、仕事に復帰後も、毎晩のように焼いていた時期も!」
2010年、そんな田口さんに転機が訪れる。「夫の仕事の都合で、ニューヨークに住むことになったんです。様々なベーグル屋さんを訪れるなか、あるご縁で名店『Ess-a-bagel』の当時のオーナーと知り合い、運良く働かせていただけることに。ただの“好き!”から意識が変わったのは、日々、努力を続ける職人の仕事を間近で見ることができたおかげです」
本場の人気店で修業を行うなか、田口さんはあることに気づいたと言う。「日本人観光客のベーグルのイメージが、すごく偏っているな、と。スモークサーモンやクリームチーズのサンドイッチをオーダーするか、店頭で冷めたベーグルをそのまま食べていたんです。でもベーグルは他のパンと同様、熱々で食べるのが一番おいしいし、冷めたらリベイクして食べるもの。ベーグルのフレーバーやフィリングのバリエーションもたくさんあるのに、もったいないなぁ、って」
日本人の嗜好を目の当たりにし、ベーグルの本当のおいしさを広めたいという思いが高まるように。「最初、夫は“何を言っているの?”なんて唖然としていましたけれど(笑)。2013年に帰国し、物件探しを開始。すんなりとはいきませんでしたが、晴れて翌年、オープンが叶いました」
ベーグル専門店の名の通り、店に並ぶのはベーグルオンリー。ショーケースを見ていてまず驚くのが、その大きさ。通常のパン屋で取り扱うベーグルの1.5〜2倍はあり、サンドイッチともなるとハーフサイズでもかなりのボリューム。次に注目すべきが、その重量感。パンとは思えぬ重さに、初めて手に持った人は必ずびっくりするのだそう。そして最後に、1日12〜13種類は並ぶというバリエーションの多さ。「マルチグレイン」や「ココナッツ」、ガーリックやオニオンをフィリングした「エブリシング」など、種類の豊富さに胸が躍る。
「本場のベーグルの最大の特徴は、ずっしり重くて、弾力あるチューイーな食感。そして毎日食べるものだからこそ、飽きのこない素朴な味。製法に関しては『Ess-a-bagel』との約束で触れられませんが、日本人の舌に合うよう生地を若干柔らかくするなど、少しアレンジも加えています」
クリームチーズやいちごバター各種60g 300円〜、90g 400円〜
すぐに買えるベーグル単品、既成のハーフサンドイッチのほか、自家製クリームチーズのフィリングや、その場で作るサンドイッチのオーダーも可能(フルサイズのみ)。「留学時代に食べていたベーグルの味を思い出したよ」と本場の味を知るベーグル愛好者をも唸らせるラインナップから、田口さんのおすすめ&人気商品をご紹介。
焼きたてをかぶりつきたい! ツウ好みの「ココナッツ」&本場仕込みの「エブリシング」
定番のプレーンのほか、セサミ、岩塩、シナモンレーズンなどがラインナップ。「リピート率が高いのが、プレーンベーグルにドライココナッツをフィリングした『ココナッツ』。最初は期間限定で出していたのですが、ラブコールを受けて定番メニューに加えることに。ほどよい甘さと、香ばしく焼き上げられたココナッツのサクッとした食感がアクセントになった一品です」
「『エブリシング』は、『Ess-a-bagel』の人気商品。セサミ、ポピーシード、岩塩、オニオンとガーリックをフィリングして焼き上げています。焼きたてと出会えたら、まずは何もつけずにそのままで味わってみてください」。ココナッツ290円(火・土曜限定)、エブリシング270円
万人に愛されるシンプルなコンビの「ハム&モッツァレラ」
その場で作るフレッシュメイドサンドイッチは、定番メニューの「チキン細ネギクリームチーズ」、「スモークサーモン」、「ハム&モッツァレラ」、「タンドリーチキン」をはじめ、日替わりメニューの「チキン&チーズ(モッツァレラorチェダーチーズ)」、「ツナ&コルニッションピクルス」、「クランベリーチキンサラダ」などが。中でも幅広い世代に愛されているのが、シンプルなコンビの「ハム&モッツァレラ」。
「たっぷりのレタスに、トマト、オニオン、スライスハム&モッツァレラチーズをサンド。小さなお子さまから、野菜好きの女性、シニア層まで幅広く人気があります。マヨネーズベースのサンドイッチなので、フルサイズでオーダーしていただき、焼きたてのベーグルでサンドすると、モッツァレラもとろけておすすめです。サンイッチは各種、既成のみでハーフサイズもご用意。いろんな種類を食べてみたい方はそちらを!」フルサイズ、ハーフサイズともに時価。
ぎゅうぎゅうのクリームチーズに大満足! スプレッドサンド
エブリシング×ドライトマト
ベーグルに並んで本場さながらのバリエーションを誇るのが、スプレッドのクリームチーズ。ほどよい苦みを残した「オレンジクリームチーズ」やストロベリー、ブルーベリー、クランベリーが入った「ベリーベリークリームチーズ」などのスイーツ系、ワインとの相性も抜群の「ドライトマトクリームチーズ」、「オリーブクリームチーズ」など、季節限定のものを入れると20種類も!
はちみつクランベリー×アップルシナモン
組み合わせは自由に選べ、その場でベーグルとフィリングを選べば、カット&サンドしてくれるシステム。「シナモンレーズンベーグルとあわせる方が多いですが、はちみつクランベリーに、シナモンアップルクリームチーズをサンドするのもオススメです。ともに甘さ控えめなので、クドくなく、さらにクリームチーズの酸味でさっぱりと食べていただけるはず」
「個人的には、甘×辛の組み合わせも好き。シナモンレーズンベーグルにLOX(スモークサーモン)クリームチーズや、エブリシングベーグルにSKIPPYピーナッツバターチャンクを加えるとか。正解はないので、直感のままに選んでいただいて、お好みの味わいを見つけて欲しいです」。はちみつクランベリーベーグル280円、シナモンアップルクリームチーズフィリング400円
売り切れ必至! インスタで人気に火がついた「フルーツサンド」
販売はフルーツの入荷次第。SNSで告知するので、要チェック
15cmほどもある厚みが、インパクト絶大! これを求めて訪れる人も多いという「フルーツサンド」は、果物の種類が豊富な春と秋の限定メニュー。その日によって変わるフルーツの内容は、いちご、ぶどう、パイナップル、柿、キウイなど。もっちりとしたベーグルと新鮮なフルーツのマッチングに、開眼すること間違いなし。
「去年まではマスカルポーネチーズで作っていたのですが、今年からハニーホイップクリームチーズに。『はちみつの上品な甘さがフルーツの酸味を引き立てる』と、リピーターのお客様も多いです」。こちらは作るのに時間がかかるため、ハーフサイズの既製品のみの販売。いち早く売り切れてしまうため、オープンと同時に訪れるのがベター。690円。
田口さんに聞く、人形町エリアの一押しグルメ
お店の徒歩圏内にお住まいという田口さん。外食時や惣菜を仕入れる際には、水天宮前からほど近い人形町を訪れるそう。家族での外食や、スタッフとして働く妹さんと気分転換にでかける、お気に入りのお店を伺った。
家族全員、大ファン! 洋食の名店「そよいち」
ご家族での外食時に頻繁に愛用しているという、老舗洋食店「そよいち」。「家族そろって、大のお気に入りなんです。自宅で揚げ物を作らないぶん、こちらを訪れると必ずオーダーしています。とくに、ビーフカツと串揚げが好きです。子どもたちはハヤシライスやハンバーグとマカロニサラダ、夫は決まってポークソテーを頼んでいますね」
自家製のべったら漬けが絶品! お漬物を買うなら「わしや」
「ベーグル大好きの私と違って、夫は大のご飯党」と笑う田口さん。夫に付き合って食べるうちにやみつきになったのが、「わしや」のお漬物なんだそう。「自家製のお漬物がたまらなく、おいしい。びっくりするほど種類があるんですが、定番のべったら漬けのほか、季節限定のエシャロット、ゆず大根も最高! 手土産としても重宝しています。お味噌もおすすめで、妹も自宅で愛用しています」
撮影:山田英博
取材・文:中西彩乃