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人気企画“食のプロの履歴書”シリーズ。春のショートケーキに続いて、今回フォーカスするのはモンブラン。選者は同じく、元『エル・ア・ターブル』編集部でフリーエディターの河合知子さんと、『料理通信』の君島佐和子さん。思い出と食ツウならではのエピソードともに、ストーリーのあるモンブランをそれぞれ3回にわけて、計6回更新でお届けします。
〈モンブランの履歴書〉
エディター河合知子さん編【Vol.1】
フランスへの憧れが強くて、ベーシックなモンブランが好きだった、10代の私
私にとってモンブランの原体験は、地元・仙台にあり、東北のフランス菓子の草分け的存在の「ガトーめぐろ」の「モンブラン」。3〜4歳の子どもにとっては、もじゃもじゃと独特な形に絞られた濃いベージュのマロンクリームが蕎麦のように見えて、「おそば〜」とよろこんで食べていました。フランス産のマロンクリームとブランデーが香る大人の味。メレンゲのしゃりしゃり感、軽い生クリーム、しっかりとした栗の味……。
そんなわけで、私にとってのモンブランは、「フランスの栗+洋酒」がスタンダード。15歳のとき、初めてパリを訪れて食べた「サロン・ド・テ アンジェリーナ」のモンブランの濃厚さと大きさも、私のフランス栗好きに拍車をかけました。頭と舌にハッキリとした“マイ・モンブラン”を植え付けられたというか。私の10代は、“濃厚なフランス栗+シンプルな生クリーム”の組み合わせを刻み込まれてしまって、それだけを頑なに愛した時期でした。
そんな、10代の頃の懐かしさをほのかに思いだしながら、現代ならではの進化した見た目と味わいを楽しめるのが、リベルターブルのモンブランです。
河合さんが今選ぶ“マイ・モンブラン”
リベルターブル「ドール」
季節のケーキの定番で、販売期間は9月〜3月くらいまで。売り切れの場合もあるので、できれば予約を。(734円)
ほくほく感とやさしい香り+爽やかな酸味がクセになる
「自由な発想で、とらわれることなくお菓子を作っているパティシエといえば、リベルターブルの森田シェフ。もともと、自由な発想で食材を用いてレストランのデセールを作っていたほうで、赤坂のパティスリーをオープンされてからも、スペシャリテには野菜やスパイス、チーズなど、料理によく使われる素材を自在に組み入れたものが並んでいます」
河合さんが特に好きだったのが、フランス産の栗にポルチーニ茸を組み合わせた「シャルム」(現在も発売中)。「ポルチーニの塩味を感じさせる香りがメレンゲに封じ込められ、力強いマロンクリームと一緒になると、口の中にどこにもない新しい味が生まれてきて夢中に」
でも今回おすすめしてくれるのは、愛知県産の和栗に、イチジクと赤すぐりのジュレを組み合わせた、すっきりとした甘味の「ドール」。
「理由は……、単なる私の独断と偏見。今年の気分としか言いようがありません(笑)。中には和栗とアーモンドのクリームがねっちりと濃密な味を醸し出して、底部分にはよく焼いてあるサクサクのサブレが。中心に入れられたイチジクと赤スグリのジュレの酸味は、きれいなアクセントになっていて、飽きさせないんです!」
森田シェフは、和栗で秋の味覚を表現したいと考えたとき、「最初にイチジクを使いたい」と思ったそう。さらに酸味のある赤スグリも加えてジュレを考案し、栗の甘さにアクセントをつけた。
「栗と相性のいいサブレ生地に、酸味のあるイチジクと赤スグリのジュレをのせて生クリームで包み、さらに和栗のペーストで覆って、栗自体の甘さを引き立てています」とシェフ。
また、和栗の甘さだけでなく、「なだらかな形も、やわらかな印象を受けます」と河合さん。シェフによるとこのデザインは、「モダン建築の、なだらかな曲線をイメージ」したもので、「そのケーキの味をイメージしながら、その時々の気分で、自分が綺麗だと思うデザインにしています」とのこと。ドール(d’or/フランス語でゴールドの意味)という名の如くハイセンスでゴージャスな見た目は、フォークを入れる瞬間のワクワク感も高めてくれる。
取材班が見つけた、「あ、これもください」
664円。直径12cmが3,024円、15cmが3,510円の、ホールでの販売もある。通年商品。
ライチ×ショコラ。ゴーシャスな香りと味に包まれるケーキ
ダリア
チョコレートのビスキュイに、キャラメルとフランボワーズのガナッシュを重ねたベース。その上に、果実入りのライチクリームをのせ、チョコレートムースと赤いチョコレートのグラサージュでコーティングした、素材のコクと香りを楽しめるケーキ。トップに添えられたラズベリーも華やかさを演出。
「ライチのケーキ自体あまり出会わなくて、あってもさっぱりしたケーキが多かったんです。なので、しっかりとライチの香りが感じられるお菓子を作りたいと考えたのが「ダリア」です。ライチとショコラを組み合わせていますが、どちらかが強くなりすぎないように、ライチの香りがショコラによって引き立てられるように味のバランスを整えました。真っ赤な色と光沢のあるデザインは、その華やかな香りをイメージしています」
SHOP DATA
シェフの世界観を形にした、独創的なケーキやお菓子はインパクト大
お店は赤坂駅から歩いてすぐ。イートインスペースもあり、コーヒーなどのソフトドリンクのほか、ガトーと相性のいいワインやスパークリングワインもいただける。
森田シェフが、お菓子作りの時に大事にしているのが“オリジナリティ”。意外な食材を組み合わせて生まれる味わい、前衛的なデコレーションと、シェフの作るお菓子はとても刺激的だ。「お菓子には、一般的には料理の食材と思われているトリュフやフォアグラも使いますが、僕にとって食材は全てフラットで、料理用・お菓子用という線引きはありません。自分がこんなお菓子を作りたいと考えた時、たまたま思い浮かんだのがそれだったというだけでなんです」と森田シェフ。
そんな膨大な食材の組み合わせから生まれてくる最高のレシピは、実はほとんどシェフの頭の中だけで組み立てられている。「何度も試作を繰り返すのではなく、頭の中で“これならいける”と感じた時に作ると、だいたいイメージした味になっています(笑)。レストランで働いた経験、いろいろなところで味わった味覚などが、無意識に頭の中でつながっていくような感覚ですね」
CHEF’s PROFILE
森田一頼(もりた・かずより)
1978年新潟生まれ。フランス菓子の伝統的な技術に魅せられて、2004年にフランスに渡る。モンぺリエ「ジャルダン デ サンス」、ポイヤック「コルディアンバージュ」、パリ「アストランス」などのレストランやパティスリーで学び、2008年に帰国。「ランベリー」のシェフパティシエを務めたのち、2010年、南青山にレストラン「リベルターブル」をオープン。2013年、赤坂に移転し、テイクアウトメインのパティスリーブティックとしてリニューアルオープン。
おしえてくれた人
河合知子(かわい・ともこ)
フリーランスエディター/ライター。早稲田大学卒業後、株式会社婦人画報社(現ハースト婦人画報社)入社。料理雑誌『エル・ア・ターブル』編集部にて、料理、スイーツ、ワイン等の記事を手がける。在職中に「ル・コルドン・ブルー東京校」でフランス料理と菓子を学び、ディプロム取得。2012年に独立し、食に関する記事と書籍の編集・執筆のほか、フードイベントの企画・運営も行っている。編著に『東京最高のパティスリー』(ぴあ)、『細山田デザインのまかない帖』(セブン&アイ出版)、『ストックデリで簡単! パン弁』(パルコ)など。
取材・文:神山典子
写真:山下みどり