外食力の鍛え方〜客上手になろう〜

タベアルキスト・マッキー牧元さんの連載。外食をするには避けて通れない「お酒」について教えていただきます。第3回は「食前酒」編。

「食前酒」は何のため?

フランス料理店やイタリア料理店にく。それは前にも話したように、おいしいものを食べに行くことはもちろんだけど、普段の生活とは違う非日常を楽しむ、その場にいることを楽しむためにある、かけがえのない時間なのである。

 

そのために食前酒と食後酒はある、とってもいい。

 

もちろんそんな予算なんてないよ、アルコールが飲めないんですって人は別だけど、もし余裕あるならぜひ食前酒から試してほしい。

 

僕も若い頃、フランス料理店にって「アペリティフ(もしくは食前酒)はいかがですか?」なんて言われた時には緊張した。もうフランス料理店に来ただけで、予算的にはいっぱいいっぱいなのに、食前酒も頼まなきゃいけないのかなあなんて思いながら、「すいませんお水をいただけますか」と言ったりした。

 

デートマニュアルなんかを読むと、「食前酒は高いので、水を頼む」とか書かれていたりするけど、それではせっかくの時間が豊かにはならない。

 

最初は食前酒なんて頼めない、なんて考えていた僕だけど、長い間様々なレストランで、いろんな人と食べていくうちに、食前酒が、相手との距離を少し縮めてることを知ったんだ。

 

会食って、おいしいものを食べることが目的ではない。食事を通じて、共に食べることによって、相手との関係を深めることが目的なのさ。美味しければなお良い。それくらいの感覚で向き合いたい。相手が接待先でも、家族でも、親戚でもね。それが、動物の中で唯一共食をする我々人間に芽生えた社会性だからね。

 

なあに食前酒なんて堅苦しく考えないでいい。例えば居酒屋やお寿司屋さんで、食中酒は日本酒って人も、最初はビールを大抵頼む。あれも食前酒だよね。くぃーって飲み干すと、今までの仕事モードが一掃される。初めての人でもビールで乾杯!なんてやると、なにか近い感じになるね。それが食前酒の効果さ。

いつ何を頼むのが正解?

それではいつ頼むか。何を頼むか。

 

まず、よほど親しい人でない限り、先に頼むのは失礼だと思う。やはりみんなが揃ってからだね。喉が渇いて、砂漠を歩き続けてきた気分だったら、まずお水を頼む。「お先に何かお飲みになりますか?」と聞かれたら、「冷たいお水を一杯、いただけますか?」と、注文しよう。先にお水を飲んでいる分には、接待でも失礼ではない。親しい時は、僕も失礼して頼んじゃう時がある。相手が来たら、「お先にやらせてもらっています」なんて言ってね。

 

それでは何を頼むか?

 

食前酒は、フランスではアペリティフ(Apéritif)という。なんでもラテン語の「aperire(開く)」を語源とし、18世紀後半にイタリアのトリノから始まったものだという。つまり料理を食べるために「胃を開く」ということだね。

 

でも「場に一緒にいる人たちの心を開く」意味もあると思うんだ。「これから一緒に美味しいものを食べて、楽しもうね」という暗黙の了解だね。食欲を増進させたり、同席者の会話を弾ませるきっかけでもある。

 

そのため気をつけることは三つ。

  • 高すぎるアルコール分は避ける(最初から酔っぱらっちまったら話にならない)。
  • 見た目が美しく華やかな飲み物(つまり暖色系や泡もの)で気分を盛り上げる。
  • これから食べる食事やワインの味を邪魔する強い味のものは避ける。

 

そこで無難なものは、スパークリングワインとなる。まあ食前酒として頼まれるものは、これが圧倒的に多い。「なにかお飲みになますか?」「泡で」といった会話が多いね。

 

正式には、スパークリングワインでもイタリア語なら「スプマンテ」(産地によって「プロセッコ」、「フランチャコルタ」などの細分化された名称あり)、スペインなら「カヴァ」、ドイツなら「ゼクト」や「シャウムヴァイン」。フランスのシャンパーニュ地方で作られた「シャンパーニュ」(英語なら「シャンペン」。シャンパンと呼ぶのは日本だけ)を頼むのもいい。まあ「スパークリングワインをお願いします」でも問題はない。

シャンパーニュは食前酒に最適/Getty Images

 

フランス料理店やイタリア料理店では必ずその用意がある。でも高級になるほど、当然ながら一杯の値段は高価となるので、覚悟をしとくか、お金持ちになること。牧元がこの間、パリの三つ星「ランブロワジー」で頼んだら、一杯7,000円でした。もちろん、心が溶けて夢見心地になる、素晴らしいシャンパーニュだったけどね。

泡じゃなくビールが飲みたい!

さて中には「ビールじゃダメなのか」という方もいらっしゃるだろう。

 

ビールがだめということはない。ヨーロッパの三つ星に行くと、最初にビールを飲んでいるアメリカ人がいたりするしね。僕も気軽なイタリアンなんかでは、スプマンテでなくビールを頼んだりもする。

 

でも先ほどの食前酒の条件から考えると、美しくない。華やかさはない。腹にたまるし、麦芽とカラメル香が強力なので、後から来る繊細な味の料理を邪魔してしまう。デートには向いてないし、一部フランス料理店には用意がない場合があることだけはわかっておこう。

 

ビールもなしではないが……/Getty Images

カクテルか、もしくは水もあり!

スパークリングワイン以外では何があるか。例えばこんなカクテルはいかがかな。クレームドカシスを白ワインで割った「キール」、シャンパーニュで割った「キールロワイヤル」(バブル時代にはやったからおじさんは知ってるね)。白ワインをソーダで割った「スプリッツァー」、シャンパーニュをオレンジジュースで割った「ミモザ」なんてのもいい。

 

そして様々なリキュールをソーダで割ったものもおすすめである。有名なのはカンパリだけど、後は、「ベルモット」、「チナール」(イタリア産のアーティチョークを使用し、ワインをベースとしたリキュール)、「スーズ」(リンドウ科の植物であるゲンチアナの根を主原料としたフランス原産リキュール)、「ピコン」(オレンジの香りとハーブのほろ苦く爽やかな飲み口が特徴の、ビター系フランスのリキュール)、「ガリアーノ」(30種類のハーブ&スパイスを使用した淡黄色のイタリアリキュール)、「デュボネ」(ワインにハーブ類を加えたフランスリキュール)なんてのもいい。

 

「スーズをソーダで割って、レモンをって」なんて言ってしまえば、「おっ、こいつは手強いぞ」と思われるかもしれない。

 

ただし、フランス料理店では(イタリア料理店でも)イタリアリキュールは置いてない場合が多いので注意しよう。後は、グラスの白ワインを食前酒として選び、アミューズ(小前菜)まで合わせちゃうというのも手である。さらにお酒が強いなら、ウイスキーのソーダ割り、辛口のシェリー酒(特にスペイン料理店で頼むといい)なんていうのもありだ。フィノ(辛口)タイプが良く、「ティオペペ」や「ライーナ」、「ドンソイロ」なんかがおすすめかな。

スペイン料理の食前にはシェリー酒を/Getty Images

 

またお酒がダメという方でもカッコつけたいというなら、「ガス入りの水をいただけますか。ライムをって」(ない場合もあるが)とむのも洒落ている。

 

さあ食前酒は頼んだ。後は皆で会話を楽しみながら、何を食べるか、ああでもないこうでもないと話しあおう。

 

次回は、「食後酒」の効果と「水」の頼み方をご紹介!

 

文/マッキー牧元