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ごく普通であることの愛おしさ

山田さんにドーナツのおいしさの秘密を聞いてみたら「ごく普通。うちで作っている普通のドーナツ」と言う。「特別じゃない普通の日が好き。そんな毎日のようにこのドーナツも普通のドーナツです」
そういえば私が幼い頃、何でもない日に突然母がドーナツを揚げたり、ホットケーキを焼いたりしてワクワクしたことがあったなぁ。とてもおいしかったけど、あれも普通のおやつだった。
何でもない日に普通のドーナツを普通に食べられる平穏こそ幸せなのだ。ホームメイドの懐かしさを感じるドーナツには、愛おしい「普通」が詰まっていた。
今までになかったメニューが突然に?
この日は、アトリエ限定メニューの「ベニエ」4個500円があった。同店の定番ドーナツはケーキ生地だが「ベニエ」はイースト生地のドーナツだ。

実はこれをものすごく楽しみにしていた。取材中も気になって仕方なく、ベニエがのっている皿をつい目で追いかけてしまう。サックサクで、ほろろとしたケーキ生地のドーナツとは打って変わって、こちらはモッチモチの弾力を楽しめる。粉砂糖はふんわりと甘く、後を引くドーナツだ。

「チュロス」がメニューに登場していることもある。今後も突然新しいメニューに出会えるかもしれない。
「カフェ クレッセント」時代を知る人は、プリンの復活を希望しているとか。私も復活希望者の声に加勢したい。
優しい人を引き寄せる

山田さんがドーナツの販売を始めるまでの物語は、まるで「オズの魔法使い」のようだった。「カフェ クレッセント」が閉店し、コロナ禍でドーナツの販売を決意した山田さんだが、お店作りはクレッセント時代に知り合った人たちがサポートしてくれたのだとか。
この優しい人たちに囲まれ、さまざまなアドバイスをもらったりして「MY PICNIC」ができ上がった。
「全然自力じゃなくて、みなさんのおかげです」と語る表情からも、互いを助け合う素敵な仲間であることがうかがえた。どうも山田さんは、“優しい人”を引き寄せる不思議な力を持っているようだ。
アトリエを作る時も、犬の散歩中に建築家と奇跡のような出会いをしたとか! その不思議な力が何なのかは山田さんに会えばわかる。
好きな人に食べさせたくなる焼き菓子

焼き菓子を買わずに帰ることができるか……。それは無理な話なのだ。ドーナツを選びながら自然と指を差して、あれもこれもと注文していた。

艷やかな「バタークッキー」2枚400円は、その名の通りバターの味わいが深く、サクッホロッと軽やかだ。お気に入りの飲み物とともに味わえば、一口食べる度、心がほどける。

ドーナツだけでなく「レモンのバターケーキ」400円にも心を奪われた。レモンがスーッと爽やかでバターの風味がたっぷり。しっとりとなめらかな食感は心地よく、食べてなくなるのが惜しいほど。誰かにプレゼントしたくなる。
いち早く食べるならドリンクと共にアトリエで

アトリエ内には4脚ほどだが椅子があるので、ドリンクと共にドーナツを食べるのも楽しい。できたてを早く食べられるしね。

同店のドーナツは、一つひとつカタチに表情があるところが好きだ。「丁寧に誠実に作ること」を、他の何にも譲らない信念としていると言う。その結果、カタチがちょっと変になっても、誠実に作ったことには嘘がないから「どうぞ」と言えるものになる、と山田さん。
「MY PICNIC」のドーナツを食べて、じんわり幸せな気持ちになるのは、そういった作り手の真心が伝わってくるからなのかもしれない。
みんなが集まってくる穏やかな空間
「ご近所さんに食べてもらいたい」という気持ちもあって作ったドーナツは、その願い通り、ご近所さんたちに愛されていた。アトリエには遠くから来る人もいるが、近所に住む常連さんが代わる代わる訪れていたのが印象的だった。
お稽古ごとの前にお母さんとドーナツを食べる子、犬を連れた人、ひとりでおつかいにきた子もいて、それぞれに朗らかなシーンとなって映った。

「MY PICNIC」は優しい場所だ。壁に飾った絵やちょこっと置いてあるもの、アトリエのそこかしこに優しさが宿り、やわらかで和やかな空間を作っているように感じる。
山田さんに、ずっとお店を続けていくのか聞いてみたら素敵な答えが返ってきた。
「やれたらいいけど体力的なこともあるし、いつまでできるんだろう。来た雲にのって、流れにのっていこうかな」
※価格はすべて税込
※アトリエオープン日は木・土曜日(2026年5月現在)



