〈新連載〉ぶらり町中華の旅 Vol.1

グラフィックデザイナー松本健司さんが惚れた、高円寺「中華料理 天王」の野菜つけ麺

昭和情緒漂う店内に、クラシックな王道メニューで最近注目を集めている“町中華”。そんな町中華の魅力を紹介する新連載がスタート。第一回となる今回は、高円寺の町中華「中華料理 天王」。

 

今回お店を紹介してくれたグラフィックデザイナーの松本さんはデザイン事務所で雑誌「東京情緒食堂」、「Jnude」、「住まいの設計」などを担当。雑誌、書籍、カタログ、WEBなど、グラフィックデザイン全般を手がける人気デザイナーだ。

お店の最寄り駅は独自の中央線カルチャーを発信する街の一つ、高円寺。駅周辺には商店街や老舗の飲食店なども充実しており、住みやすい町として人気の高いエリアだ。

高円寺氷川神社境内にある「気象神社」。日本唯一の天気に特化した神社。

 

「高円寺には、数年前まで住んでいました。僕の仕事はほぼデスクワークになるので、外出する機会があまり多くありません。なので食事の時間だけでも外出しようと、色々なお店で食事をしていました」と松本さんは話す。

 

今回紹介するのは、松本さんが「日常的に通っていた」という町中華。高円寺駅南口を出て、右側すぐのパル商店街を下った先に松本さんがオススメする「中華料理 天王」がある。

高円寺駅南口にあるパル商店街。この商店街を直進すると「中華料理 天王」がある。

昭和59年創業。看板や外観にも歴史を感じさせる趣がある。

 

「とにかく安くて早くて旨い! 当時は存在を知らず、友人の薦めで行ったのがきっかけです。以来、家から決して近くはなかったですが通うようになりましたね」(松本さん)

派手な飾りなどがない外観と店内だが、どこか心が和む。

この道40年以上のベテランで店主の小俣貴義さん。「季節ごとの限定メニューもあるので、そちらもおすすめです」

 

飾り気のない店内は、カウンターが10席と小上がりが2卓。厨房の中では店主の小俣貴義さんが鍋を振っている。小俣さんは大阪の調理師専門学校を卒業後、都内の高級広東料理店で修業。昭和59年に独立。ここ高円寺で「中華料理 天王」をオープンさせた。確かな修業経験に裏打ちされた料理の旨さと価格の安さが評判を呼び、たちまち人気店に。お昼の開店直後から夕方まで客足が絶えない日もあるという。

野菜つけ麺700円(税込)。もやしやキャベツなどの野菜がどっさり。ボリューム満点だがヘルシーだ。

 

「よく食べていたのは野菜つけ麺。たっぷりの野菜とコシのある中太麺が、魚介系のスープとよく絡み絶品です。行き始めた頃は、レバニラ炒めなどの定食メニューを食べていて麺類はスルーしていましたが、メニューの豊富さに気になって一度頼んでみたんです。そうしたらラーメンの専門店よりおいしいと思えるぐらい感動したのを憶えています」(松本さん)

レバニラ炒め500円(定食は650円)。味はあっさりめで、柔らかなレバーともやし、玉ねぎがよく絡む。ビールも進む人気メニュー。

 

松本さんが言うとおり、同店では多くのお客が種類豊富な麺類を注文すると言う。「一番人気は生姜醤油ラーメン。昔からメニューの開発をするのが好きで、いつも新しいメニューを考えていますね。生姜醤油ラーメンができたのは、8年くらい前。普通のラーメンとは別に、スープを作らなきゃいけないから大変だよ(笑)」と笑う小俣さん。

生姜醤油ラーメン600円(税込)。鶏ガラのみでったスープに生姜を入れた特製のスープが特徴。チャーシューが4枚とサービス精神もいっぱい。

 

小俣さんの出身地である新潟のご当地ラーメン「長岡ラーメン」からヒントを得て誕生した生姜醤油ラーメンは、一口スープを飲むと醤油の深い旨みの奥にすっきりとした生姜の香りが調和して広がる。トッピングには定番のノリに、ほうれん草、メンマ、自家製チャーシュー。これだけのボリュームと旨さで600円という破格の安さだ。土日になると1日50杯以上出ることもあり、時には大きな寸胴にスープを3回作る時もあるという人気ぶりだ。

 

「開店当初から町がずいぶん変化してきましたが、学生時代に通ってくれていたお客さんが、お子さんを連れてたまに顔を出してくれるのもうれしいですね」(小俣さん)。近隣の住民のみならず、昔からの常連に愛されつづける「中華料理 天王」。旨さと安さだけでは語れない魅力がこの店にはある。土日と平日の昼時は大盛況。夕方以降の時間帯が狙い目だ。

 

教えてくれたのは

ラフィックデザイナー 松本健司さん

 

BOLD GRAPHICを経て、2008年ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート入社、「東京情緒食堂」「Jnude」「住まいの設計」などを担当。2012年よりフリーランスに。2014年株式会社シート設立。雑誌、書籍、カタログ、WEBなど、グラフィックデザイン全般に活動中。http://www.sheet.co.jp/

写真:大谷次郎

取材・文:盛岡アトム