「すだちそば」のおいしいそば店

ここ数年、夏になると「すだちそば」を出すおそば屋さんが増えてきました。冷たいおつゆに爽やかなすだちの香りが広がる「すだちそば」は、食欲の落ちる夏にもぴったり。今回は夏の間に「すだちそば」を味わいに行くべき東京のそば店を、そば研究家の前島敏正さんに教えていただきました。

 

「池尻大橋の『東京 土山人』で初めて『すだちそば』を食べた時は、衝撃でした。細めのそばと冷たいつゆ、すだちの爽やかさが相まったその味わいに、『これはなんだ!?』と驚きましたね」

 

前島さんが6年前に新鮮な感動を覚えた「すだちそば」は、今やすっかり夏の定番として定着。「食べログ そば 百名店 2018」の中にも「すだちそば」の逸品を楽しめるお店が多くあり、見逃せません。中でも前島さんが推薦する4軒をご紹介します。

布恒更科(大森海岸)

今回取材させていただいたのは、前島さんが「おつゆも素晴らしい」と絶賛する、「布恒更科」。1963年の創業以来、自家製粉の手打ちそばを看板としているお店です。こちらで「すだちそば」(税込1,280円)を提供するようになったのは、今から5年前。店主の伊島巧さんが3代目を継いだ2013年から、毎年「季節のおそば」として出されています。

「当店は昔から『季節のそば』として変わりそばを出しており、先代の頃は夏に『すだち切り』を出していました。これはすだちの皮をすりおろして生地に打ち込んだものですが、私の代ではすだちの使い方を変え、すだちの輪切りを冷やかけに浮かべる『すだちそば』をお出ししています。提供期間は毎年8月下旬から、9月の残暑が続く頃まで。おかげさまで大変ご好評をいただいています」(伊島さん)

 

前島さんが太鼓判を押すつゆは、冷やかけ専用にとったもの。代々受け継ぐ「辛汁」も「甘汁」も使わず、サバぶしと昆布でとったダシに白醤油とみりんを加えて作っています。伊島さんいわく、「辛汁を冷やしてそばを浮かべると辛すぎるし、甘汁は冷やすと物足りない」のだそう。

 

実際に「すだちそば」をすすれば、細めのそばにさっぱりとしたつゆが絡み、そばとつゆの旨味、そしてすだちの香りが絶妙なバランスです。「『すだちそば』では、そばの香りがすだちの香りでおさえられがちですが、そば自体の味も楽しんでいただければ嬉しいです」と伊島さん。

農家から直接仕入れるそばは、群馬県赤城村の深山周辺の畑で栽培されたもの。伊島さんは、このそばを製粉の仕方やつなぎの配合などを変え、常時5種類に打ち分けています。

 

「5種類の内訳は、喉越しのよい外二(そば粉10:小麦粉2)の『もり』、十割の『生粉打ち』、平打ちの『粗挽き』、真っ白な『御前更科』、そして旬の食材を打ち込んだ『変わり蕎麦』です。『すだちそば』などの冷やかけそばには“すすりやすさ”を重視して『もり』を使っていますが、リクエストがあれば生粉打ちにも変更できますよ」(伊島さん)

 

スダンダードな「すだちそば」の魅力を堪能した後は、お好みで「生粉打ち」バージョンにも挑戦してみてはいかがでしょうか。

木挽町 湯津上屋(新富町)

「『木挽町 湯津上屋(こびきちょう ゆづかみや)』の『すだちそば』は、きりりとした清涼感のある冷たいおつゆが上品にまとまっています。重なり合うすだちが見た目にも涼しさを呼び込み、おつゆもすだちの苦みを感じることなく、美味しくいただけます」(前島さん)

出典:サロンちゃんさん

打心庵(下北沢)

『打心蕎庵(だしんそあん)』の『すだちそば』は、見た目にも清涼感溢れ、おつゆも爽やか。細めでめに茹でたそばとの相性がいいですね」(前島さん)

出典:しろなおじさん

蕎や 月心(祐天寺)

「『蕎や 月心(そばや つきごころ)』は、細挽きのそばがさっぱりした味わい。原了郭の黒七味をかけていただくと、ピリリとした辛味と酸味がマッチして、さらなる美味しさを引き出してくれます。ご主人は『すだちそば』を得意とする『土山人』の出身です」(前島さん)

出典:chaabouさん

お店ごとに趣を異にする「すだちそば」。平成最後の夏の思い出に、食べ比べてみるのも一興です。

 

前島敏正  (まえしま・としまさ) そば研究家。ほぼ毎日そばを食べ歩きながら、ブログや本でのそば情報の発信、そば同好会のセミナー主宰など、幅広く活動している。「蕎麦鑑定士」「江戸ソバリエ及びルシック(ソバリエ上級者)」の資格を保有。訪問した全国のそば屋約1,000軒のデータベース化をしている。

 

取材・文/小松めぐみ 撮影/大谷次郎